21
目を覚ますと朝だった。いかにも日が昇ったばかりと言わんばかりの陽の差し込み具合に、思考が停止する。
少ししか寝ていない……という可能性も考えたが、明らかに寝る前よりも早い時間帯だ。
どうやら丸一日寝てしまったらしい。
昨日の夜はそんなにも疲れるような内容だっただろうか。確かに気疲れするような場面はいくつかあったが、肉体的に疲れるような場面はなかったように思う。
ただ――心当たりはあった。
馬鹿みたいに眠りこけていたことへの、心当たり。
目が覚めてから、妙に頭がすっきりしているのだ。
そして、記憶の検索が非常にしやすい。フィオディーナの記憶に対しても、合瀬咲奈の記憶に対しても。
フィオディーナとしてのわたしが強かったときは合瀬咲奈の記憶が、逆に合瀬咲奈としてのわたしが強かったときはフィオディーナの記憶が。それぞれ思い出すのに時間と言うか、手間がかかった。
以前は、違うわたしのことを思い出すときは、記憶をたどるというか、ひとつひとつ段階を踏んで思い出さないといけなかった。
けれども、今はスッと思い出すことが出来る。
「…………」
正直、人格としてのわたしが、どちらが強いかは分からない。同じくらいか――それとも交じりあってしまったか。
新しい人格というわけでもないのに、フィオディーナとしてのわたしと合瀬咲奈としてのわたしが両立している。
少し不思議な気分だ。ただ、いままで、どちらか片方が強かったときより、精神的に落ち着いている気がする。
「原因は……あのブローチかしら」
未だに前世を思い出した原因は分からないが、主導権がひっくり返ったのはウエディングドレスが原因だった。
あのブローチのおかげで、記憶の整理ができたということは、わたしたちにとって、とても大事で重要なものだったということだろう。
けれども、記憶が整理された今でも、あのブローチをいつどこで見たのか、まったく思い出せなかった。
これだけ思い出せないのなら、もはや気のせい、という可能性も考えた方がいいのだろうが……あれほどの衝撃を受けておきながら、思い違いとは到底思えない。
こうしてトントンと記憶が移り変わり整理されていくし、そのうち思い出すことが出来るのだろうか。
寝起きの頭でブローチについて考えていると、ふと、寝る前のことを思い出した。
アルベルトが様子を見に来てくれて――そうだ、起きたらご飯を食べに行こうって話してたんだった!
わたしは慌ててベッドから起き上がり、支度をする。急いで着替えて、洗面台に立つ。
顔を洗って、髪を整えて。そして――ふと鏡を見ると、なんとなく、違和感がわいてきた。
「――わたし、こんな顔だったっけ?」
二人のわたしが両立しているからだろうか。かすかに、顔へ違和感を覚えた。何か違う気がする。
でも、そう思ったのも一瞬のことだ。
すぐに「急がなきゃ!」ということを思い出し、身支度を始めれば、ほんの少しの疑問など、簡単に霧散していた。




