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20

 気が付けばわたしは宿へと戻り、ベッドに腰かけていた。どうやって帰ってきたのか、まったく思い出せない。

 いくばくかの小銭が詰まった麻袋が手にあるので、依頼は成功ということで処理され、報酬金は山分けされたのだろう。

 手のひらの上に麻袋はあるが、いまいち手に力が入らず、落としてしまいそうだ。

 ふわふわとした心地のまま、わたしはそっと、ベッドサイドのテーブルに麻袋を置いた。

 ぼう、とするわたしの頭の中では、あのブローチのことだけがあった。


 どこで見たのかは分からない。どうして知っているのか分からないのに、知っているという事実だけが、わたしの中に残る。

 思い出そうとしても、一体どこで見かけたのか、まったく見当がつかない。

 どこかで見た――どこで見た? あのブローチは――どこで――。


 ぐるぐるとわたしの頭の中を、あのブローチのことだけが巡る。

 思考の沼にはまっていると、「フィー、大丈夫?」という声が、扉の向こうから聞こえてきた。

 アルベルトの声だ。

 どこかまだ、けだるさの残る体を動かし、扉を開ける。

 扉を開けると、心配そうな表情を浮かべたアルベルトが立っていた、


「悪い、まだ寝て……大丈夫か? 疲れた?」


 もうひと眠りする? というアルベルトの提案に、そんな時間だったか、と思わされる。

 窓の外を見れば、朝だった。夜中に依頼をこなし、そこから帰ってくれば妥当な時間ではあるが、もうひと眠りする? とアルベルトが提案してくるのなら、わたしが帰ってきてからそれなりに時間が経っているに違いない。


「初めての依頼で、夜中はキツかったか?……あっ、それともスレムルムの死体、駄目だった……?」


 思い当たらなかった、という顔でアルベルトは頭を抱えた。


「悪い、そうだよな。普通、女の子は慣れてなかったら死体は駄目だよな……。スレムルム相手に四人なら楽だろうと思ったんだが……」


 アルベルトの勧めで受けた依頼で、わたしもそれなら安全だろうと思ったのだ。長年冒険者を勤めているアルベルトの勧めならば、大丈夫だろう、と。


「いえ、それは大丈夫です、わ……」


 思いのほか、スレムルムの死体は大丈夫だった。

 わたしが気になるのは、また別のことなのである。


「起きてるようなら朝メシでも、と思ったが、その顔色じゃあ寝てたほうがいいだろうな」


 そんなにひどい顔をしているだろうか。

 ぺたぺたと自分の顔を触ってみるが、良く分からない。


「腹は減ってるか?」


「……そこまでは」


 アルベルトと話して気が抜けてきたのか、緊張の糸か切れたのか。

 空腹よりも、ずっと強い眠気と疲労感が襲ってきた。

 そのことにアルベルトも気が付いたのか、「もう少し休んでおけ」と言ってくる。


「起きたらメシ食いに行こう。俺は俺の部屋で待機してるから。調子よくなったら声かけてくれ」


 そう言って、アルベルトは隣の部屋に行ってしまう。

 わたしはへろへろと、急に襲ってきた眠気にあらがいながら、ベッドへともぐりこんだ。

 ブローチに気を取られてばかりいて気が付かなかったが、わたしの体は随分と疲弊していたらしい。

 目をつむると、すぐに現実と夢の境目が曖昧になった。

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