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アルベルトからイヤーカフを貰って数日。予定を合わせて、わたしたちはエステローヒという、島の反対側にある街に来ていた。
ランスベルヒ島は中央に山があり、そこを水源として、大きな川が島を四つに分けるように流れていて、その川を区切りにするかのように、四つの街で構成されている。
わたしたちが普段いるのはインヴェルーノという街だ。エンティパイア帝国に繋がる海――アルベルトで言う、『死者の海』があるからか、冒険者ギルドが発展し、冒険者が数多くいる街。
逆にエステローヒはザ・観光地と言った感じで、冒険者よりも観光客っぽい人の方が多い気がした。
「――白い、ですわね!」
心なしかインヴェルーノよりも日差しが強く感じるエステローヒの街並みは、白い、の一言につきた。レンガ作りの家も、石畳の道も白い。屋根だけは青を取り入れているが、透き通るような海に近い、さわやかな色なので、さほど浮いて見えない。エンティパイアでは絶対に見られないような、明るい街並みだ。
目に入るもの全てが珍しく、きょろきょろとあたりを見回していると、アルベルトがわたしの手を取った。
「放っておいたら迷子になりそうだから、一応な」
……なんだか子供扱いされてます? まあでも、はぐれて困るのは事実なので、甘んじて受け入れておく。
アルベルトは指抜きグローブをつけているからか、手から彼の体温伝わってくる……なんてことはなかったけれど、かさついた指先が、なんだか少しくすぐったい。
「マルシからおすすめの店、聞いてきたんだ。あっちの通りに海鮮を使った美味いパスタを出す店があるらしい。ほら、エンティパイアだと海鮮なんて食べられないだろう?」
「へえ! ……そうですわね、確かに魚と言えば川魚しか食べられなかったですわ」
エンティパイアでは、海での漁がほとんどできなかった都合上、食べるのはいつも川魚ばかりだった。侯爵家クラスでも、海魚は食べられない。王族だってそうそうお目にかかれないだろう。
だから、海鮮、という言葉に一瞬心が躍ったけれど――すぐに、なんでそんなこと知っているんだろう、と疑問に思う。
……もしかして、マルシに色々聞いたのかしら。商人という都合上、エンティパイアの食事情にも通ずるものがあるだろう。
わたしが思っているよりも、下調べしてくれているのかしら……。
ちらり、とアルベルトの様子をうかがってみると、それに気が付いたらしいアルベルトに、にっこりと笑われた。笑われた、と言っても、馬鹿にするようなものではなく、単純に、楽しいから、というような笑み。
……なんだかちょっと照れくさくて、わたしは目線を逸らした。
エンティパイアにいた頃は、こんな日がくるとは夢にも思わなかったな。




