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「多分、スレムルムはこれを探していたんじゃないかな」


 そういうファルドの手中にある小箱は、彼の片手に収まるくらいのサイズだった。

「え、ここ畑でしょ? なんでそんなものがあるの? 普通、耕してたら気が付くでしょ」


 テリーベルが不思議そうに言った。確かに、小箱を掘り起こすのに、ファルドは道具を使っていない。多少スレムルムが地表を掘っていたとはいえ、人間の手だけで取り出せるほどの深さに埋まっていたものなら、クワに当たって壊れてしまうはずだ。作物を荒す必要があるということは、作物の下に埋まっていたということだ。

 しかも、小箱は相当年季が入っているように見える。

 埋めたばかりならまだしも、ずっと畑に眠っているのは無理な話だ。


「おそらくは、何か目くらましか、そういうたぐいうの魔術がかかっているんだろう。……ほらここ、分かりにくいけどオブリオーレがはめ込んである」


 オブリオーレは機密情報を管理する金庫なんかによく使われ、目くらましや存在そのものを隠す術具の材料となる術石である。

 随分と古びていて分からなかったが、オブリオーレがはめ込まれている場所を中心に、何かの術式が彫り込まれていた。

 つまりは、この中のものを隠すための術具がこの小箱というわけだ。


「ぼくの仮説はね――」


 そう言って、ファルドは語りだす。


 この小箱――術具が壊れることを察知した、エステローヒに来れない何者かが、スレムルムを使役魔にし、探させた。

 失敗しても、スレムルムを討伐するのは下級冒険者。下級冒険者ならスレムルムを討伐するのに夢中になって、小箱には気が付かない。

 万が一小箱に気が付いても、下級冒険者ごときに、術具の解析ができるわけがない。

 そして何も知らない下級冒険者が小箱を持ち帰っても、そこを襲撃して奪い返すこともできる。

 下手に強い魔物を使役して、中級以上の冒険者が出てこられたら小箱を奪い返すことになったときに面倒だし、探索が得意な魔物を使っていれば、探し物に気が付かれてしまう。


「だからスレムルムを使役魔にしたんじゃないかな。なんでこんなものがこんなところに埋まっているかは、流石に分からないけれど」


 説得力がありすぎる仮説に、わたしたち三人は、感嘆の声をあげた。とても納得できる。


「そんなに大事なものが……? 中身はなんなんだろ」


 興味深そうにファルドの手の中を覗くのはテリーベルだ。


「ね、ちょっと開けてみましょうよ」


 好奇心に負けたらしい。テリーベルがそんな提案をしてきた。

 それに反対するのはダリスだ。


「余計なことをしない方がいい。冒険者の最大の敵は欲と好奇心、って言うだろう」


「ええー! ちょっと覗いて、また戻すってば。持って帰らなきゃいいんでしょ」


「ぼくの仮説が当たってるとは限らないけどね。まあ、ぼくらが受けた依頼内容はスレムルムの討伐で、この小箱は関係ないし、好きにしたら?」


 開けるのに賛成一、反対一、中立が一……これはわたしの意見で決まってしまうやつだろうか。

 案の定、三人の視線はわたしに注がれる。


「うーん……ちなみに、その小箱が依頼主のネッシェさんの物という可能性は?」


 他人の物を勝手にいじくったらまずいだろう、と思って聞いてみたが、「だとしてもちょっとのぞくだけだから!」とテリーベルに押し切られてしまった。


「どうなっても知らんからな」


 ダリスは早々に見切りをつけたようで、スレムルムの死体回収を始めてしまった。見るつもりはないらしい。


「じゃあ、ちょっとだけ」


 小箱の蓋はスライド式の用で、ファルドが蓋をずらすと、中身が見えた。

 その中身は――。


「……ブローチ?」


 古ぼけた木箱に入り、地中に埋められていたにしてはこぎれいな、黒い大きな宝石があしらわれたブローチが、そこには入っていた。

 シンプルなデザインだな、とそれを見ていると、胸のあたりがざわざわして、急に体から血が抜けていくような感覚に見舞われて、力が入らなくなる。

 ちら、とファルドとテリーベルを見ても、二人はなんの変化もなく、中身を確認したのだから元に戻して埋めておこうか、なんて話をしていた。

 明らかにおかしいのは、わたしだけである。

 急な体の変化についていけず、呆然と立ち尽くしていることに、テリーベルが気が付いたようだ。


「フィオディーナさん? 大丈夫?」


 わたしはバクバクと暴れまわる心臓を落ち着かせるように、胸の前で手を握りこんだ。

 胸はバクバクするし、頭はチカチカする。

 フィオディーナのものか、合瀬咲奈のものか。どちらの記憶か分からない。

 誰が知っているのかは、定かではないが、このブローチを知っていると、見覚えがあると、わたしの中の誰かが叫んでいた。

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