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スレムルムの死体と直面しても、思ったほど拒絶反応は出なかった。
うわっとは思うけれど、吐き気をこらえなければいけないほど気持ち悪いというほどでもない。合瀬咲奈時代に、車に引かれた動物や鳥を見ていたからかもしれない。
暴れて傷口が広がっているわけでもないスレムルムは、そこまでグロテスクではなかった。
それよりも気になるのは――。
「なんだか小柄、ですね……? こんなもんなんですか?」
事前に聞いていた話から想像していたよりも、ずっと小さかった。
写真のようなものを見たわけではなく、大体このぐらい、というジェスチャーで大きさを教えてもらっていただけなので、わたしの想像とは、そりゃあ誤差があるだろうが、それにしたって小さい。
わたしは実際にスレムルムを見るのが初めてだが、残りの三人はそうではない。
「これは小柄ではない。やせ細っているから小さく見えるだけだ」
ダリスの言葉に、わたしは再度スレムルムを見る。
パッと見ただけでは気が付かなかったが、確かにやせ細っているようだ。
いくら気分が悪くならないとはいえ、血まみれの死体をじっくり観察する気にはならなかったので分からなかったが、うっすらと骨が浮き出ている。
餓死寸前、とまではいかないが、ここまで痩せていたらよほど腹が減っているだろうに。
そう考えると、作物を食べずに畑を荒らすだけ、というのは異常行動に見える。
「これ、誰かの使役魔だったりしない?」
確かに、野生ではなく、使役されている魔物であれば本能よりも主人からの命令に従うしかないだろう。
それならば、食べ物に目もくれず探し物をしていた理由もまだ納得がいく。
しかしテリーベルの言葉に異を唱えたのはダリスだった。
「わざわざスレムルムを使役魔にするか? 普通はしない。もっと強い魔物にするだろう。スレムルム程度しか使役できないような奴は端から魔物を使役しようとしないはずだ」
「それはそうかもしれないけど……」
反論されて、不満げにテリーベルが口を尖らす。
わたしはテリーベルの仮説が正しいと思ったけれど、現場を知る人間からしたらそれは不自然なことらしい。冒険者内では、よく使役される魔物や、使役魔に適した魔物というものが決まっているらしい。
もちろん、なんにでも例外というものはあるので、それ以外の魔物を使役魔にする人間の噂くらいは聞くらしいが、このエステローヒや、その周辺ではいないようだ。
「だとするともっと遠くから来た人の使役魔……とか?」
試しにそう言ってみるが、「何のためにわざわざ?」とダリスに言い返されてしまった。
わたしは知らないが、探し物に長けている魔物は他にもたくさんいて、スレムルムを使う利点はないそうだ。
わたしたちがあれこれ言い合っていると、スレムルムが漁っていた地面を調べていたファルドが声をあげた。
「下級冒険者に処分させるためじゃないか」
物騒なことを言い出したファルドの手には、土にまみれた小箱があった。