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これは、エンティパイア帝国一の術士と名高い、王宮術士のウィルエールからもらったものだ。
かつてのわたしは、カルファ王子から何かプレゼントしてもらったことは一度もなかった。アクセサリーやドレス、宝石はもちろん、花の一本ですら。
なので、婚約者がいながらも異性からアクセサリーをもらうということを、当てつけのようにしてみたのだが、カルファ王子は眉一つ動かさなかった。
ウィルエールとわたしの関係が、友人であり、教師と生徒のようなものであり、色恋はないということを知っていたかもしれないが、もう少し婚約者らしい反応をしてほしかったものだ。
今となっては、もう関係のない話なのだが。
「親しい友人からの贈り物ですわ」
そういうと、アルベルトは機嫌が悪くなったように少しだけ眉をひそめた。今のどこに、彼の機嫌を損ねる要素があったというのだろうか。
「……じゃあ、俺がフィーにネックレスを贈っても、つけてもらえないわけか」
「まあ……そうなりますわね……?」
良く分からない質問に、わたしは容量を得ないまま答える。そもそもアクセサリーを贈ってもらえるような間柄でもないと思うけど。
彼がわたしに好意を向けているのであれば話は分かるが、出会ってさほど時間がかかっていないのに、それは流石にないだろう。
侯爵令嬢という魅力的な肩書があったころならいざ知れず、ただ一人のフィオディーナにそこまでの魅力があるようには思えない。
見た目が悪いとは言わないが、中身は控えめに言っても最悪の部類。いいところを上げるほうが難しい。
ウィルエールはわたしが、フィオディーナがフィオディーナだけであるときから手放しに好意を見せてくれたが、あれは例外もいいところだ。世の中の男がみな、ああでないことは流石に分かる。彼はちょっと被虐趣味が強いというか、なんというか……。
「……ま、とりあえず俺はフォイネシュタインと頼まれた素材を取ってくるよ。じゃあな」
そう言って、ひらひらと手を振るアルベルト。わたしがつられて手を振ると、「律儀に振り返してくれるのな」と笑われてしまった。
「あ、貴方が先にしたんでしょう……!」
からかわれたのが恥ずかしく、カッと顔が熱くなる。
「ありがとう、行ってくる」
「……行ってらっしゃいまし!」
わたしは投げやりに挨拶をし、古いナイフの修繕に再び取り掛かる。
全く、アルベルトったら! 妙にからかい癖があるというか、わたしのことを馬鹿にしているわけではないのでしょうけど、どうもこう、わたしをいじらないと気が済まないところがあるわよね!
海で出会ったときは、わたし一人が心細かったということもあって、救世主のように見えたのに――。
――そこまで考えて、ふと、わたしは疑問に思ってしまう。
魔術が使えない彼は、一体、あの海で、何をしていたのだろう。
普通に考えれば魔物の討伐依頼でしょうけど……。でも、それなら、わたしに転移術石自体を発動させるようにうながすのも変じゃないかしら。
人工の術石や術具を使うには、魔術が使える必要はないが、最低限の魔力は必要となる。一切魔力がなく、術石や呪具を使うことができない人もそこまで数が少ないわけじゃないから、アルベルトがそうでも驚きはしないけど……。
でも、それだと転移術石を持っているのが今度は不自然よね? それに、そもそも帰路が怪しくなってしまう、片道の依頼なんて受けるわけが――。
「……っ」
そんなことを考えていると、わたしは持っていたナイフを落としそうになってしまう。
危ない、危ない……。
余計なことを考えていないで、武器の術具を整備しているときには、こちらに集中しないと!




