ちょっぴり酸味コーヒーのゼリィ【魔】
ここに物語を紡ごう。これは、とある創始者の物語。
その人物の名前はカイオス。現在はアストロ星団の創始者として、またはアストロ星団の父として皆の活躍を微笑ましく見守っている。いつも穏やかな笑顔、優しい口調は誰もが安らぎを感じられるには十分すぎるほど。しかし、それは時として反発を生むこともある。いつも平和にすごすことができれば苦労はしないと誰かが言っていたが……そこまでははっきりしていない。普通であれば、そこで叱るのだがカイオスは違った。その行いすらも愛おしいとばかり二対の腕で抱きしめているのだから。抱かれた側としては、なぜ抱かれなければならないのか理解に苦しんでいるのだがカイオスはそんな気持ちなど露知らず、目にはうっすらと涙を浮かべながら柔らかくしかししっかりと抱きしめていた。そんな彼をいつしか皆は親ばかではなく、ばか親と呆れられている。
アストロ星団。それは、宇宙が崩壊するという問題を食い止めようとする集団の呼称である。カイオスは皆の知恵を借りてそれを食い止めようとしたのだが、結局崩壊には至らずこうして日々過ごすことができている。しかし、安心はできなかった。いつ、また崩壊の危機が訪れるかわからない状況にカイオスはメンバーを取りまとめるために奔走していた。未知のできごとに試行錯誤を繰り返しながら、なんとかいきつくことができた穏やかな日々。それを壊さないようカイオスは皆の考えを参考にしながらデータをまとめ、整理し保管した。他にも数多くのメモがくっつけられており、カイオスの考察や予想などが書かれており、中にはびっしりと書き込まれていて読むには相応の時間を要するものまでもあった。皆は自分たちの調査の合間にそのデータを閲覧し今後の活動に生かそうとしていた。そんな姿をカイオスは満足そうに微笑みながら見ていた。
しかし、ここに至るまでに想像を絶する時間を要したのもまた事実。何回も何十回も何百回も世界が壊れ生まれ変わりまた壊れを繰り返していき、そこで一番に生まれたカイオス。新しい団員が入るも滅び、また生まれまた入ってを繰り返していくうちにカイオスの心は微かではあるが確実に何かに蝕まれていった。それは絶望という名の浸食だった。そんな経験を幾度となく経験してきたカイオスの心にはじわりじわりと絶望のシミが広がっていき、微弱ながらも確実に心を破壊されていった。次第に溜息の吐き方も忘れてしまったカイオスは、常に笑顔だった。笑顔でいれば、いずれ好転する機会が必ずあると信じ笑顔を崩さなかった。だが、それでも状況が好転するわけではなく、幾度となく世界は壊れていった。
もう数えるのも億劫なほど、世界が崩壊したとき。カイオスは一人しかいない真っ暗な空間のなかでぽつりと呟いた。
「ひとりは……ひとりはもう……いやだ……」
その呟きは諦めにも似た、まるで小さな子供に戻ったかのようなか細い呟きだった。しかし、小さな呟きに込められた思いというのはそれだけで十分なほど詰め込まれていた。それからしばらく、新しい団員は来なかった。
それからまた気が遠くなるような年月が過ぎた頃。一人の七色に輝く美しい女性がカイオスの前に現れた。光すらも届きにくい宇宙空間の中でもひと際輝くその存在に、カイオスはやっと心から笑うことができた。その喜びにカイオスの目から一筋の光が流れた。七色に輝く女性が現れてから間もなく、新しい団員がやってきた。一人はなんと宇宙船に乗ってやってきたという小さな少年だった。その少年は各惑星を見て回りたいという動機だった。カイオスはものの数秒でその少年の入団を許可した。次いで情報収集が得意な長身の女性に、採掘活動が得意な少女と一気に仲間が増えたことに、カイオスは笑みを浮かべながら涙を流した。
「うんうん。父は……嬉しいよ。この喜びを皆で分かち合おう」
宇宙船の中にある白い百合が咲き誇る庭園の真ん中、カイオスは言葉では言い表せないほどの幸せに包まれていた。
もうひとりではない
この事実を認識したカイオスは改めて泣いた。声に出して、気持ちを吐き出しながら、喜びを確認するために。
もう二度と……崩壊などさせない
父としてこの責務を果たすと誓ったカイオスの笑顔は、どこまでも穏やかだった。




