ぷるぷるがクセになる♪ 柑橘杏仁豆腐【神】XX
あなたは、今日までの行いを問われたらどうしますか。胸を張って「問題なし」という人もいれば、「そう言われると……自身ないな」という人もいるかもしれません。もし、今までの善行や悪行が等しく罰せられるそんな日がきたら、あなたはどうしますか?
受け入れますか?
それとも
抗いますか?
これは、とある人物に降りかかる審判という名の粛清のお話。
「さぁ、今日もジャッジメントを下していきますよ!」
そう自分に喝をいれた小柄な少女がいた。手には大きな金管楽器のようなものを持ち、雲の模様を描いた白い衣い赤い袴のようなものを身に纏い、眩しいほどの金色の髪の上には燃えるような赤い輪っかが浮いていた。彼女の名前はセルフィ。人々の想いによって生まれた存在で、自らを「審判を下す者」と名乗っている。自らの手で審判を下すまで決して諦めないとっても頑張り屋な少女である。
しかし裏を返せば、それは相手が抵抗しても無理やりわからせるということにもなる。例えそれが実力行使になったとしても。つい最近も、自らの行いに絶対の自信を持っていたとある男性を審判したセルフィは手にした金管楽器のような物を担ぎ直してから口を開いた。
「それ、嘘ですね。あなたは悪行まみれのオンパレードです。大丈夫です。私がきちんとジャッジメントを下しますので」
よいしょと言いながら金管楽器のような物を振りかぶったセルフィは男性目掛け迷いもなく振り下ろした。
「ひぃ!」
たまらず男性はぎりぎりでそれを避けると、さっきまで男性が立っていた場所には巨大な凹みができていた。
「あなた……わたしのジャッジメントを避けましたね。抵抗しても無駄です。大人しくジャッジメントを受け入れてください」
避けたところまでは動けたのだが、そこから先の男性は足に力が入らなくなりそのままセルフィのいうジャッジメントを受け静かになった。
「これは本物の終末のラッパではありません。ですが、あなたにも聞こえたでしょ? 本物の終末の音色が」
動かなくなった男性に問うも、男性から返事が返ってくることは二度となかった。セルフィは満足そうに鼻歌を歌いながら金管楽器のような物を担ぎ直しどこかへと歩いて行った。
「今日もいいジャッジメントができましたー。さぁ、次は誰をジャッジメントしようかな」
審判を下したあとのセルフィの顔はどこか清々しさを感じさせるものがあった。
─因果応報
とある日。今日も今日とてあちこちで審判を下しているセルフィなのだが、今日はどうやら苦戦をしているらしく、いつも元気な表情ではなくどこか焦っているような顔をしていた。それは、目の前にいる男性に審判を下そうとしたのだが、それを容易く避けられてしまった。それは一度や二度ではなく、何度も何度も。余裕に満ち溢れていた顔から徐々に焦りが表れ始め、額からは大粒の汗がだらだらと流れ、口元からぎりりと歯を鳴らしていた。
「いきなりなんですか、あなたは。審判だーとか言ってその大きな物振り下ろしてきて。危ないじゃないですか」
「……はぁはぁ……なんで。なんで何回も何回も避けられるの? わたしのジャッジメントからは……逃げられないんだから……」
男性からの質問には一切答えようとせず、代わりに独り言を呟くセルフィに警戒心を更に強めた男性は足早に立ち去ろうと背を向けた……瞬間。
「これが……わたしのジャッジメントですっ!!!」
「うわぁ!!」
大きく振り下ろされた金管楽器のような物が地面に大きな穴を開けると、男性が避けるのはほんの数秒の差でしかなかった。もしそこから少しでも判断を誤っていたらと思うと……男性は背中に走る嫌悪感にぶるりと体を震わせた。
「抵抗は無駄だってなんでわかってくれないのかしら。わたしが甘いから? もっと厳しくした方がいいかしら……これからはもっと厳しく厳正にジャッジメントを下していかないと。誰も素直な人ばかりじゃないから。特に悪人に聞き分けのいい人なんていないから何がなんでも力ずくで分かって貰わないと。骨身にしみ込ませる……いや、魂に刻み付けるの! ジャッジメントから逃れられないってね! あは……あはははははっ!!!!」
「いい加減に諦めてくれないかな。ぼくは……おっとと!」
「絶対……ジャッジメントを……ですっ!」
何かに憑りつかれているのではないかと思うほど、目には生気がなくうわ言のように「ジャッジメントを……ジャッジメントを」と繰り返していた。段々と振り下ろす頻度も上がってきており、男性もなんとか避けてきてはいるが、そろそろ限界を迎えていた。
「そろそろ……本気で諦めてくれないと本気で危ないな……」
男性の顔にも焦りの色が見え始めつつも、セルフィからの猛攻を避け続けている。既に地面はぼこぼこに凹み、お互い肩で息をしながら睨みあっていると先に口を開いたのはセルフィだった。
「聞き分けのない人ですね。いい加減にわたしのジャッジメントを受け入れてください」
「そんなの『はい受け入れます』と言って受け入れる人はどれだけいるだろうね。少なくともぼくは受け入れる気はないよ」
受け入れない。その言葉にショックを受けたのか、セルフィは目にじわりと涙を浮かべ叫んだ。
「どうして……どうして大人しく受け入れてくれないんですか。ねぇ……どうしてですか!!?」
涙の咆哮に男性はいやいやと首を振りながら答えた。
「なんで君にすべてを判断されなきゃいけないんだい? ぼくの行いが良いか悪いかはぼく自身で決める」
男性の言葉に膝を落とし、さらにいやいやと首を横に振りながらセルフィはまたうわ言を言い始めた。
「負けちゃダメなのに……そうよ、わたしは負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ。負けちゃダメ」
それでも尚、引き下がる雰囲気を放っていないセルフィに、男性は残っていた力を振り絞り全力でその場から離れた。セルフィがそれに気が付き、「あっ」と声をあげたときにはもう、男性はその場から姿を消していた。
「嘘よ……これは……嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘」
何度も拳を地面に叩きつけ、何度も涙が地面を濡らし、幾度とないセルフィの号哭が響く。諦めたくないのに、だけどもうあの男性を追う気力は残っていなかったセルフィは己の未熟さにさらに声を上げて泣いた。
声が枯れる少し前まで泣きつくしたセルフィは、はれぼったい目を擦りながら口の端を少し持ち上げながら笑っていた。
「大丈夫。絶対にジャッジメントを下すわ。そうよ、わたしは勝つんだわ。だって、わたしがそう下したんだもの」
絶対的勝利をその表情に浮かべたセルフィは、再び立ち上がり金管楽器のような物のを担ぎ歩き始めた。逃してしまった男性に必然的審判を下すため。
どこかでラッパのような音が聞こえたのは気のせいだろうか。




