いちごたぁっぷりのバスブーサ ホイップを添えて【竜】Ⅶ
「あなた。迷いは不要ですわ! さぁ、自身の信じる道を突き進むのですわ!」
高らかに笑いながら今日も少女が悩める人を救っていく。チャーミングな笑みを浮かべ濃紺のツインテールヘアーに蝋のように白い肌、肌と同じ色のロングブーツを履き、その足元には白と黒のスフィンクスが眠たそうに舟をこいでいた。彼女の名前はリーゼロッテ。人々の想いによって生まれた存在で、問題を解決するために積極的に動くことこそが、人々のあるべき姿だと思っている。その可愛らしい姿に反し何の迷いもなく判断をする姿は勇敢そのもので見るものを惹きつける力がある。
「さぁ、次の人どうぞ」
次に入ってきた人も不安という色に染まった顔をしながら、自身が抱えている悩みをリーゼロッテに打ち明けた。時折うんうんと頷きながら相槌を打ちながら話を聞いていると、相談者は次第に頭を抱え声を震わせた。
「このままだと……このままだと、我が家は崩壊してしまう……どうか……お導きを!」
藁にも縋る思いで告白をした相談者の手をそっと握りながら、リーゼロッテは力強く頷いた。
「あなた、問題を解決するために何が必要かご存じかしら? わからない? なら、リーゼが教えてさしあげますの! 耳をかっぽじってよーく聞くがいいですわ。おほん……それは、止まらず突き進むことですの! このリーゼについておいでなさい! あなたの悩みを解決してさしあげますの!」
「おお……本当ですか! ああ……有難い……有難い。相談してよかった……これで救われます……」
「あなたが『問題を解決したい』という思いがあれば、必ず困難を乗り越えることができますわ。自分を、そしてみんなを……そしてもちろん! この私を信じていれば何の心配も要りませんの。さぁ、解決の一歩を踏み出しましょう!」
さっきよりも高らかに笑うと、相談者の顔が一気に晴れ渡りまるで希望を得たようにきらきらと輝いていた。その顔を見たリーゼロッテも満足そうに頷くと相談者の手を優しくだけど力強く握った。
「もうあなたは迷うことはありませんわ。あとは迷わず足を動かし、みんなを信じて動くだけですの!」
「わかりました! リーゼロッテさん……いや、リーゼロッテ様! ありがとうございます」
「このリーゼに任せておけば何の心配もありませんの! リーゼに不可能なんてありませんのよ!」
更に一段階高らかに笑うと、相談をしたみんなの顔が浄化されたかのように輝くとやる気に満ちた言動へと移り始めた。
「これでこの町も大丈夫そうですわね。では、次の町へ行きましょう」
そう言い、リーゼロッテは白と黒のスフィンクスの頭を優しく叩きながら起こすと、すぐさま移動用の戦車に取り付け状態を確認した。問題なく動くことを確認したリーゼロッテはうんと頷き、最後に町の人たちに別れを告げると天蓋付きの戦車を土煙をあげながら勢いよく走らせた。その間、リーゼロッテの高笑いはずっと町の人たちの耳に入っていた。町の人たちにとって、リーゼロッテの高笑いは希望のラッパのように聞こえていた。
─暴走
ごとごとと音を立てながら進んでいく戦車。その背後では大きな土煙がたち、何者かがここを通過したということが一目でわかる。次の町までは時間がかかることを予め予測していたリーゼロッテは戦車の上にある自分専用の椅子に腰を掛け流れる景色を楽しんでいた。やや乾いた大地をただ走るだけなのだが、リーゼロッテにとってはこれもいい経験になりますわと言い、あえてこの道を選んだ。眼下には大きな川も見え、太陽に照らされきらきらと輝いて見えた。それはさっきの町の住人たちのように思えたリーゼロッテはくすっと笑うと少し前の自分を思い出していた。
中々すぐに決断できなかったなと思い返していたリーゼロッテ。数々のあんな話やこんな話を一人思い出していると、何かの拍子で開いてはいけない思い出を開いてしまい目をかっと見開いた。
「あ……あ……ああああ……」
それはとある戦場で一幕だった。リーゼロッテの判断で表にも裏にもなりえる状況でどうしようかと判断に悩んでいると、リーゼロッテの上官にあたる人物から冷たい一言を浴びせられた。
「この状況をすぐに判断できないようであれば……このあと、お仕置きだな」
「お……しおき……いや……いやいやいやいやいやっ!!!!」
当時の上官のお仕置きは非常に厳しいもので、一度でも受けると脳裏に焼き付いてしまうということで有名だった。リーゼロッテもその一人で、あとで別室に呼ばれお仕置きを受けた。その後もリーゼロッテの判断が間違っていたという理由でお仕置きを受け、文字通り身も心もぼろぼろになりながらなんとか上官からお墨付きをもらい、無事に独り立ちすることができたのだがあのときの判断は今でも間違っていないとリーゼロッテは頭を抱えながらうわ言を言っていた。
「あの時の判断は……リーゼは間違ってないもん。間違ってないもん!」
感情が爆発したリーゼロッテは、声を大にして泣き出すとこの戦車の動力源である白と黒のスフィンクスが好き勝手に走り始めた。この白と黒のスフィンクスはリーゼロッテの感情に呼応し、穏やかであればなんの問題はないのだが一度暴走した感情が表れると速度を増して危険運転を始める。こうなってしまうと誰かにリーゼロッテをなだめるほかないのだが、今この地にはリーゼロッテしかおらずこの暴走を止める手段は限りなくゼロに近かった。
そんな暴走戦車の遥か後ろ。こちらも高笑いをしながら暴走をしている戦車があった。金色の馬車に金色の馬具を身に着けた二頭の馬。そしてその馬の横には鋭い槍が取りけられていた。赤い縦ロールのロングヘアーに少し吊り上がった目、そして自信に満ち満ちたその表情は「悩み」とはまるで無縁かと思わせるそんな表情だった。
「おーっほっほっほ。今日もグアトリガは絶好調ですわぁ!」
彼女の名前はヴィクトリア。普段は王宮でマナーのレッスンを受けている時間なのだが、今日はとても苦手なレッスンという理由でこっそり王宮から抜け出し愛戦車─グアトリガでドライブを楽しんでいた。
「いつも同じ道ではつまりませんわ。時には横道に逸れるのもいいですわね」
といい、お気に入りのドライブコースとは違う道を爆走していると、いつもなら見ない轍を見つけたヴィクトリアは顔をしかめた。
「あら。わたくし以外にここを通った方がいますの?」
まぁ道があるのなら誰が通ってもおかしくはないかと思い、片足をかけながら前を眺めているとどこからともなく子供の泣き声が聞こえたヴィクトリアは耳に意識を集中させた。
「子供の……泣き声? この先からですわ」
なんだか嫌な予感がしたヴィクトリアは愛馬に速度アップを命ずると、二頭の馬たちは小さく鼻を鳴らしながら徐々に速度をあげていった。やがて見えてきたのは見たことのない乗り物だった。まるでプリズムのような天蓋、そしてその天蓋と同じ色の鉱石がついた謎の装置。そして、大声で泣いているツインテールの少女と顔面が崩壊した二つの奇妙な生命体。すぐにこれだと判断したヴィクトリアは並走するように近づくと声をあげた。
「あなた! このままですと危ないですわよ!」
「ええん! リーゼは……リーゼは間違ってないもん!!」
「ちょっと! あなた! わたくしの声が聞こえていて?」
「えぇん! えぇええん!」
「このままでは……洒落になりませんわ。こうなったら……」
ヴィクトリアは意を決し、謎の物体が取り付けられた戦車に飛び移ると、少女を抱きかかえながら自分の馬車へと飛び移った。
その瞬間
がらがらがら
さっきまでリーゼロッテが乗っていた戦車は崖から真っ逆さまに落ちていった。音もなく戦車はきらきら輝く川の中へと吸い込まれていくと、遠くで硝子が割れるような音が聞こえた。ヴィクトリアは安全な場所で止まるとヴィクトリアは少女を必死にあやしていた。
「もう大丈夫ですわ」
「ふえぇん……リーゼは……リーゼは……」
「……何かあったのかしら。よしよし」
「リーゼは……すぅ……すぅ」
「あらあら。眠ってしまいましたのね」
理由はとにかく、一人の少女を救えたことにほっと胸を撫でおろしたヴィクトリアは優しく少女頭を撫でながら空を仰いだ。その空は雲一つなく、澄み渡っていた。
日が少し傾いてきた頃、少女は目を開けた。そこには知らない赤髪縦ロールの女性が映っていた。
「ひゃああああ!」
「きゃあ! あら、目が覚めたようですわね」
「はぁはぁ……あれ? リーゼ……」
「まずは少し落ち着きましょう。わたくしはヴィクトリア。そして、こっちはグアトリガですの」
先にヴィクトリアが自己紹介をすると、二頭の馬は小さくいなないた。それはまるで自分たちがそうだと言わんばかりに。少女はヴィクトリアと二頭の馬におずおずと頭を下げるとゆっくりと口を開いた。それはここまでに至る経緯だった。相談者の問題を解決をする旅をしているというリーゼロッテ。そして次の目的地へ向かう途中に思い出してはいけない出来事を思い出してしまい……そこからはあまり記憶がないらしい。経緯を理解したヴィクトリアは「そうでしたの」と小さく呟くと自分の馬車から冷たい飲み物を取り出しリーゼロッテと名乗る少女に手渡した。
「これからあなたはどうするおつもり? あなたの乗り物、きっと無事ではありませんわ」
「え……そっか……でも、大丈夫ですわ!」
「大丈夫……? あなた、この高さから落ちて無事なわけ……」
「うーんと……えいっ!」
リーゼロッテが目を閉じながら何かを持ち上げるような仕草をすると、目の前に現れたのは壊れる前に見たリーゼロッテが乗っていた戦車だった。不思議なことにどこも壊れていないというか、新品同様ぴかぴかに光っていた。
「このくらい、造作もありませんの」
ふふふと笑うリーゼロッテに開いた口が塞がらない状態のヴィクトリア。確かに目の前で起きたことなのだが、それが中々理解できないでいると、その間にリーゼロッテは自分の戦車に乗り込み動力チェックを行っていた。さっきまで顔面がめちゃくちゃだった二つの顔は白色と黒色の顔になっていて、どれもすました顔をしていた。やがて動力が問題なく動くことを確認したリーゼロッテは「あっ」と何かを忘れたのかいそいそと戦車から降りヴィクトリアの前で一礼をした。
「お助けいただき、本当にありがとうございました。危うく崖から落っこちるところでした。この御恩忘れませんわ」
「別に構いませんわ。おーーほっほっほ!」
「なんだか、あなたとはまたどこかでお会いできそうな気がしますわ。それまで、しばしのお別れ……ですの!」
ひらりと戦車に乗り込み目的地へ向けて出発する数秒前、「飲み物美味しかったですのー」という声が聞こえた。ヴィクトリアがそれに応えようとするも、当のリーゼロッテは遥か先へと向けて走りだしていた。
「……まったく。困った方ですわね。でも、わたくしもまたあなたに会えそうな気がしますわ。その時は、グアトリガと勝負したいですわ」
愛馬を撫でながらそう呟くヴィクトリアの顔はいつになく、嬉しそうだった。思わず笑みを浮かべるヴィクトリアだが、次の瞬間、表情が一変し絶望に塗り替えられていた。
「早く帰らないと……! わたくしにもお仕置きが待っていますわ! さ、城へ向けて爆進ですわ!」
二頭の馬にそう命じると、二頭は大きくいななき走り始めた。危うく舵主を振り落としそうな勢いで走り出したグアトリガは真っすぐに城へと走っていった。




