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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット20 ちょっぴりお菓子な? すいーつわーるど(8bitエイプリルストーリー)
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フラスコに詰めたネクタルジュレ【魔】Ⅰ

「ふむ……。面白い研究結果が出た」

 全てがきれいに整ったとある研究室の一角にて、白髪の男性は満足そうに微笑みながらさらさらとペンを走らせた。その男性の周りには何やら不気味な植物があちこちで花を開いていた。読みやすいよう手を加えた文章を締め、ペンを置くと背後になにやら人の気配を感じた。座っていた椅子をくるりと回すとそこにはどこかで見たことのある女性が白髪の男性と同じ真っ白な服に身を包んでいた。

「やあ。来てくれたんだ。思う存分研究を手伝ってもらおうか。さ、準備をして。一秒たりとも無駄にしたくないのでね」

 椅子から立ち上がった男性はうすく笑みを浮かべながら女性にそう言った。男性の名前はユリシーズ。人々の想いによって生まれた存在。すらりとした長身、真っ赤な瞳、皺一つないぴしりとした真っ白な研究着からは同じ研究着なのにどこか高貴な香りが漂っていた。

 ユリシーズが行っているのは魔術を使い様々な研究を行っている。今はここ魔界に存在する植物を使った研究を行っており、混ぜたらどうなるのかとか配分を変えてみたらどうだろうかなど試行錯誤を繰り返しながらそのデータを事細かに記録している。しかし、こうしている間にも他のことができないだろうかと考えたユリシーズは、一人だけ助手を雇ってみようと思った。助手に何かやっている間、ほかのことをすれば効率がいいのではないかというものだ。自分の研究所に誰かが入るはどうだろうと難色を示したのだが、研究には何かしらの犠牲はつきものだと割り切り、今回ユリシーズの目の前にいる女性が助手として採用となった。

「では、先生。何をお手伝いいたしましょう」

 ふむと鼻を鳴らし、辺りを見回すと汚れた実験道具があちらこちらに転がっていた。片づけをする時間も惜しいと考えていたユリシーズは、助手に実験道具の洗浄を依頼した。

「中には毒物も混じっているものもあるから、洗浄する時は気を付けたまえ」

「は、はい」

 そういわれた助手はそれなりの装備をしながら大きな箱の中に手際よく実験道具を詰めるだけ詰めると、大きな流しがあると言われた第二実験室へと運んで行った。何往復かを経て、足元に転がる実験道具はすべて持ち出すことに成功した助手は、ユリシーズに一礼をし洗浄するため離れますといい第二実験室へと向かっていった。

「中々いいじゃないか。手際もいいし慣れている」

 ユリシーズは助手に感謝をしながら、研究の続きに手を付けた。これでますます研究が進むとなれば大成功なのではないかと嬉しくなったユリシーズはさらさらとペンを走らせた。


 いくつかの研究結果を出すことに成功させたユリシーズ。その結果一つ一つがすべてユリシーズの思い通りの結果となったこともあり、いつもより上機嫌だというのが自分でもわかっていた。ある一定の法則に則ればその通りになるのはもちろん、植物が持つ個性を混ぜることにより一層興味深い研究結果を得ることができる。それぞれを把握しているユリシーズにとって、次から次へと新たな変化が起きるのは楽しくて仕方がなかった。新しい研究結果が出るたび、増えるレポート用紙の枚数がユリシーズの成果と言っても過言ではないくらい、デスクには山積みにされたレポート用紙が置かれていた。研究結果も、植物が持つ個性もすべてを把握しているユリシーズの手は休むことを知らなかった。



                 ─望まぬ結果(スランプ)─


「だめだ。だめだだめだだめだ!!」

 ユリシーズは研究結果を見て叫んだ。試験管を強くデスクに叩きつけ白髪をぐしゃぐしゃと搔き乱した。ちょうどそのころ、助手が洗い終わった実験道具を乾かそうと部屋に入ってきたときだった。助手は驚きのあまり、危うく実験道具を落としそうになるもなんとかそれを回避した。

「ど、どうかれましたか?」

 助手が洗い終わった実験道具が入った箱を床に置き、ユリシーズに近付いた。するとユリシーズはわなわなと震えながら、デスクを激しく叩き怒りを露わにした。普段、滅多に感情を表に出しているのを見たことがなかった助手はなんとか怒りを鎮めてもらおうとユリシーズをぎゅっと抱きしめた。

「ユリシーズ様。落ち着いてください。一体なにかあったのですか?」

「……あ、ああ。すまない。ちょっと研究に熱を入れすぎてしまってね。驚かせてしまったら申し訳ない」

「お茶、淹れてきますね」

「ああ。気遣いは無用だ」

「……でも、ユリシーズ様はお休みもされていないご様子です。一息入れるのも研究かと思いますが……」

 助手の助言を作り笑いで断ると、助手には一旦部屋から出ていくようお願いをした。

「少し、一人になりたいんでね。申し訳ない。わがままを言って」

「いえ。それでユリシーズ様が落ち着くのであれば……では、失礼します」

 静かに頭を下げ、部屋から出ていく助手を見送るとユリシーズは再び頭を抱えてぶつぶつと呟き始めた。

「今までの研究にミスはない。何を間違えたのだ……工程や素材の重量もすべてぴったり量ってやったのに……なぜだ。なぜ失敗なんだ」

 今まで失敗なしで行ってきた研究に暗雲が立ち込めていた。これまで通り研究を行っていたのだが、突如ユリシーズが思っていた研究結果にならず、失敗してしまったのだ。材料も時間も無駄に終わり、ユリシーズは焦りと動揺で前を向くことができないでいた。

「研究に失敗はつきものだが……こんなにも大きく失敗することなんて……一体なぜだ。なぜなんだ」

 ユリシーズは気が付いていなかった。今、ユリシーズが行っている研究方法は、その研究には古すぎて思うような結果が出ないということに。常に変化というものは起こるもの。景色、人間関係、あらゆる事柄が悪かったものが変化し良くなることもあれば、逆も然り。それは研究にも当てはまることであり、常に新しい研究方法が発見されている中、ユリシーズは今まで自分が知りえているものだけで行っている。ユリシーズが得たその方法は当初最新だったかもしれないが、時の流れによりそれはいつか廃れてしまう。いつまでもそこに固執することはあまりよくないということを、ユリシーズは知らなかった。

「研究工程に問題はなかった。分量も熱量も何もかも計算通りのはずなのに……なぜ……!」

 その真実に気が付くのにどれだけの時間を有すのだろう。その答えは誰にもわからない。もし、その答えを出したとて、ユリシーズがそれを認めるかどうかはまた別の問題。研究室にはユリシーズの悲痛な声が響き渡り、その声を聞いた助手は己の無力さに唇を噛み締めた。

「……ユリシーズ様。お力になれず、申し訳ございません……」

 どうすることもできない二人は、ただただ悲の声を挙げることしかできなかった。

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