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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット15 記念日にはちょっと奮発♡スイーツのフルコース
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デモンパインとブラッドベリーのプチラスク【魔】

 白銀色に輝く双剣を鞘に納め、今日も依頼をこなす戦神─ヴァイセ。艶やかなクリーム色の髪を左右で束ね、下ろしている。純白の鎧を身に纏い目にも止まらぬ剣術で相手を倒すことを得意としている。モットーは正々堂々とした戦いで、どんな相手に対しても純粋に自分の実力のみで戦うこととしており、例え相手が有利な状況であっても自分はそれに手を加えることなく、自身の実力のみで戦う。勝つこともあれば負けることもある。それは、その時々ではあるがヴァイセ自身はそれはそれで満足のいく結果だと思っている。

 ある日、酒場で募集していた討伐依頼が済んだのでその報告をしようと酒場を訪れたときのことだった。いつものように依頼書をマスターに提出し、報酬金とマスターからの奢りと称した飲み物を手にしたヴァイセは、ふと思った。

(正しい力とは……一体なんだろうか)

 毎日繰り返す戦闘の中、ヴァイセは心の中に宿る小さな小さな疑問に時間を割くことが多くなった。その小さな小さな種はやがて芽吹き、ぐんぐんと大きく成長していき、今では朝起きて朝食を摂るときや、こうして依頼を終えマスターからの飲み物を手にしているときなど、一日考えたことがないくらいに成長していった。はあと深い溜息を吐き、飲み物の水面に浮かぶ自身の顔を見て思わず吹き出した。

(……やれやれ。我もまだまだ未熟だな)

 その不安そうな顔を一掃するように、ヴァイセはグラスを一気に傾け飲み干すと、マスターに礼を言ってから酒場を後にした。夜風が少し冷たく感じたのか、ヴァイセは体をぶるりと震わせながら帰路へと就いた。


 それから数日が過ぎた。今日も変わらず討伐依頼を受けに酒場へと赴いたヴァイセはマスターに挨拶をしてから、依頼書を適当に選び提出した。マスターも慣れた手つきで書類を作成し、ヴァイセに渡すと、「今日も頼んだぜ」と元気な声を発した。見た目は筋骨隆々でかなりいかつく、右目に眼帯をしているその姿はまるで山賊ではないかと思われる風貌だが、実際はとても気さくで涙もろく社交的なお兄さんだと気づくのに数か月かかったのはここだけの話。そんないかついマスターも、最初こそヴァイセの実力を侮っていたが今ではその実力を認め、ヴァイセが来るのを見計らって依頼書を張り替えたりしたりとほんのちょっぴり贔屓してくれているとかなんとか。

 改めて依頼書を手にしたヴァイセは、そこに描かれている対象物を見てどうやって倒そうかと考えていた。その対象物はかなりの大物で、見上げてしまうほど大きな体だと記されている。さぞその巨体から繰り出される攻撃は強力なのだろうと思う反面、その一撃には大きな隙が必ず生まれるはずだと確信したヴァイセの脳内では討伐イメージが完成しつつあった。

 その討伐対象が現れるとされる場所近くに到着したヴァイセは、風の流れが変わったことに気が付いた。なんというか、ほんの少し風が渦巻いたというか生ぬるさを感じたというか。もっと端的に言えば風が回れ右をしたような感じがしたヴァイセは腰から双剣を抜き、息を殺した。僅かではあるが、怪しげな気配は徐々にしかし確実に近付いてきていた。ヴァイセの魔力を感じ取った双剣が鎧と同様白銀色に輝くのと怪しい影が現れたのは同時だった。

「そこかっ!」

 驚異的な反射神経で怪物の攻撃を交わし、巨大な岩を蹴り怪物に攻撃を繰り出したヴァイセ。音もなく切りつけると、怪物は一瞬遅れて大地が震えるほどの悲鳴をあげた。あまりの大きな悲鳴にヴァイセは思わず耳を塞ぐ。完全ではないが、幾分守ることはできたのだが、隙間から入る悲鳴はどうしても防ぐことができなかった。


……た……け


「?! なんだ」

 ほんの僅かに聞こえた少女のような声に思わず振り返るヴァイセ。しかし、ここにはヴァイセと怪物しかいなかった。もしかして、この近くにたまたまいたのかと考えるも、その可能性は限りなく低かった。なぜなら、この近辺に建物らしきものは一切ないのだから。となると、さっき聞こえた声の主は一体なんだと考えるヴァイセの背後に、また怪物が現れた。

「ぐっ! こしゃくな」

 ぎりぎり攻撃を交わしたヴァイセだったが、右肩あたりに怪物の爪痕があった。赤く滲んだ右肩を見ながらヴァイセは顔を歪ませた。

「油断したな……。だが、これ以上はさせない」

 痛む右肩を庇いながら双剣を構え、怪物に斬撃を繰り出していく。ひとつまたひとつと斬撃が増えるのと同時に、ヴァイセの耳にこびりつく少女のような声が響いていた。


……す……て……


……み……て……ない……


……ひと……に……ない……で


 少女の声はやがて呪詛のようにヴァイセの耳を蝕み、動きを鈍らせていった。ヴァイセの動きが鈍っていくのに反し、怪物の攻撃はその巨体に似合わず素早くなり、ヴァイセの身体に傷を増やしていく。次第に自慢の高速剣も振るうこともできなくなり、ついに膝をついたヴァイセは生命の危機を感じた。

(まずい……完全に侮っていた……)

 自分の読みの甘さを呪いながら、ヴァイセは大きな口を開いて喜んでいるような仕草をしている怪物を睨みつけた。大きなミミズのようなその怪物の身体には無数の膿のようなものができており、そこから不快な臭いを発していた。目は退化しているのか、睨むヴァイセに対し怪物はその反対方向を見ていた。しかし、目が退化していてもヴァイセが少しでも動けば即座に反応するほどの驚異的な聴覚を有していた。

(くそ……ここまでか)

 怪物は獲物はどこかと辺りの気配を探っていると、不快な臭いをまき散らしながら少しずつヴァイセから離れていった。このまま……このままどこかへ行ってくれと念を飛ばしていると、その念が届いたのか怪物は諦めたかようにヴァイセから遠ざかっていった。やがて視界に映らなくなったことを確認し、だけど警戒しながら緊張をゆっくりと解除していくとヴァイセはとてつもない絶望感に襲われていた。

(あんな怪物、聞いたことない。それに、あいつに傷を負わせたときに聞こえたあの声は一体……)

 もし、あのまま構わず怪物に傷を負わせていたらどうなっていただろうか。きっと、あの呪詛のような声に心を壊されていたのかもしれないと思うと、震えが止まらなかった。だが、これでは依頼を達成したとは言えない。果たしてあの呪詛のような声をどうやって克服し、討伐をするか。ヴァイセは岩陰に隠れながら対策を考えていると、ふとあの声が聞こえた。


 た……け……


「まただ……」

 一度聞こえた少女のような声は、まるで探していた人を見つけたときのような歓喜を含んでいるようにも感じた。そして一度聞こえたその声は、ヴァイセの耳から離れることはなく居座っていた。少女の声に悩まされているとき、ふとヴァイセの頭の中にひとつの花が咲いた。その花というのは、前にヴァイセの心の中に蒔いた小さな小さな種。それは「正しい力とは何か」という名前の種。その種はヴァイセの中で静かに成長をし、悩んでいる時間という名の水と養分をたっぷり吸い込み、心を蝕み貫いた。そして今、その花がゆっくりと開いた。


 どす黒い色をした花が。


「あぁ……なるほど。それも悪くない」

 塞いでいた耳から手を放し、呪詛を全身で受け入れる。やがて白銀色だった鎧は、頭の中で咲いた花と同じ色へと変わると、ヴァイセの心にも変化をもたらした。

「ああ……そうだな。なぜ、今までそうしなかったのだ」

 依頼書には「非常に強力な怪物」と書かれていた。手強い相手になるかもしれないが、こいつを倒すことができれば、きっともっと実力を伸ばすことができるだろうと思っていたヴァイセ。正々堂々と戦えば、どんな相手にも対等に戦えると信じていた。だが、今はどうだろうか。不意打ちなんて当たり前、傷をつければ反撃をしてくる。これが正々堂々と聞いて呆れる。なんとも理不尽ではないか。今まで正々堂々と戦っていた自分は一体なんだったんだ。真正面から戦っていた自分は……まるで道化ではないか。

「くだらんな」

 うっすらと笑みを浮かべながら呟くと、それを合図かのように黒いもやのようなものがヴァイセを包み込んだ。しばらくしてもやが消え失せると、中から現れたのは漆黒の鎧を身に纏ったまるで別人になったヴァイセが立っていた。

「正義、倫理、プライド。そんなものは邪魔なだけだ。わたしは……わたしのためだけにこの力を……悪しきこの魔の力を振るう」

 正々堂々なんてただの虚飾。今まで真面目に戦っていた自分にさよならを告げたヴァイセが握っていた双剣は、深淵の闇を映しているかのように冥く(くら)く脈打っていた。まるで、「早く食事をさせろ」と言わんばかりに。静かに風を読んだヴァイセは跳躍すると、岩と岩を蹴りながら移動を始めた。元々素早さには自信があるヴァイセだが、闇の力を手に入れたヴァイセの素早さは常人の目では負うことなど不可能な速さまで引きあがっていた。そこに映るのは、勝手に凹んだ岩とその音だけだった。

「……この辺りか」

 ヴァイセが静かに着地をし、双剣を構えていると「待ってました」とばかりに巨大な怪物が地中から姿を現した。それを最低限の動きだけで交わしたヴァイセは、目にも止まらぬ速さで切り付けていった。切り付けては今度は物陰から攻撃を仕掛けたり、今度は即席の罠を作りそこへ誘導したりと、今までしてきたことの真逆なことをふんだんに盛り込んだ戦術を展開していた。

 やがて息も絶え絶えになってきた怪物に余裕の笑みを浮かべながら「まだ終わりじゃないよ?」と冷たく言い放つと、これまでよりも速く鋭い斬撃を繰り出し始めた。しばらくして、ぴくりとも動かなくなった怪物を見下し鼻で笑った。こんなにもあっさり片づけることができるんだとわかったヴァイセは、今まで馬鹿がつくほどの真面目な戦い方をしてきた自分を嘲笑うかのように口の端を持ち上げた。そして、呟いた。

「この力に身を任せるのも……悪くない。これは寧ろ……」

 最後は突然吹き荒れた砂嵐によってかき消されてしまい、何を言っているかはわからなかった。砂嵐が去ったあと、そこには冥く重たい塊だけが落ちていた。まるで、過去の自分と決別するかのように。

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