ふわもちバナナ浮き輪ドーナツ【神】
雲一つない澄み切った夏空。焼けるような日差しが砂浜を焦がし、海水浴にきた人たちの足裏を心地よい熱で歓迎する。穏やかな波に揺られる人やビーチボールで遊んでいる人、思い思いの泳ぎで楽しんでいる人など、たくさんの人たちで賑わうビーチは、まさに平和そのものだった。
やがて人たちは休憩をしようとそれぞれの場所へと戻っていき、冷たいドリンクで乾いた喉を潤し出来立てあつあつの食事を囲み楽しい時間を共有していた。たくさんの食事が盛られた皿はあっという間に空っぽになり、みんなの心と腹を満たすと役目を終えリサイクルボックスの中へと吸い込まれていった。一人の女性がリサイクルボックスに皿を突っ込み終え、ふと海へと視線を移した。そこには誰もいないただただ真っ青な海が広がっているのだが、ひとつだけ何かが浮かんでいるように見えた。波の上下に合わせ何かがぷかぷかと浮いており、抵抗するわけでもなくただ流れに身を任せているようなその物体を女性はどこかでみたと思い、記憶を巡らせた。はっとなり視線を海から売店へと移すと、そこには赤色と白色の浮き輪が貸し出されていた。それと同じ模様の浮き輪がぷかぷかと抵抗するわけでもなくただただ浮いていた。誰かが忘れてしまったのだろうか、それとも誰かが使っているのか……だけど、浮き輪を被っている人など誰もいないところを見ると前者だろうか。気にはなるものの、自分たちのメンバーではないことはわかっているのでそこまで突っ込むことはしないと決めた女性はメンバーの元へと小走りで戻っていった。
その頃浮き輪はというと、白く逞しい髭と髪が繋がっているように見える真っ白な老人の顔─真実の円石は、ただひたすらに波に揺られながら青い空を見ていた。誰が彼をここにおいやったのか、それとも彼自身はここへと来たのか……真偽は不明だが、今ここにいるという事実だけは変わらない。何回何十回何百回と波に揺られていく中、真実の円石は確実の沖の方へと流されていた。そして何百回何万回波に揺られていると、今度は陸地が見えないほどの距離まで流されていた。これはもう戻ることなど叶わないと悟った真実の円石はこれもまたひとつの経験だと割り切り、たくさんのカモメたちの憩いの場となったこの浮き輪にただ身を任せていた。例え突かれようと、踏まれようと真実の円石はその時を流れる真実という時間を身を任せていた。




