真夏に浮かぶ大粒グレープのカクテルスムージー【魔】
魔の大陸に存在する、ダークエルフの里がある。褐色肌に尖った耳、通常のエルフは治癒術や弓術に優れている者が多い中、ダークエルフは短剣や槍、魔術が得意な者が多いとされている。その里に住んでいる女性リィニーは槍を得意武器とし、日夜狩りに出ている。その腕前は一族の中では群を抜いており、よく里を襲撃してくる悪魔たちを追い払っている。その時、悪魔が所持していたであろう青白く光る魔石を手に入れた。
「何かしら……これ」
リィニーはその魔石を手に取ると、リィニーの周囲に魔石と同じ色の魔法陣が音もなく浮かび上がった。見慣れない模様に驚きながらも、リィニーは得意な得物を構えるとそれに呼応するかのように魔法陣が回転し今にも何か攻撃をする気配を出していた。
「……とっても不思議な気配がするわね。わたしが使ってもいいのかしら……」
予期せぬ物を手に入れたことは素直に嬉しいのだが、果たしてこれを所持したままでいいのだろうかという疑問が浮かんだリィニーは首を傾げた。元はと言えばここを襲いに来た悪魔が持っていたものだ。悪魔に返す義理などないし、これで狩りが捗るのならいいかとリィニーは考えた。
「ちょっとどんな仕組みか見ておきたいわね」
試しに背中から槍を構えると、それに反応し青白い魔法陣がくるくると回り始めた。軽く突きを繰り出すと、魔法陣の中からいくつかの魔石が射出された。追撃をするような攻撃に思わずリィニーは頬を緩める。
「結構いいわね。これで狩りが捗りそうだわ」
気分を良くしたリィニーは更に周辺の狩りに精を出した。しばらく里のみんなに平穏な時間が訪れますようにと静かに祈りながら。
不思議な魔石を手に入れてからしばらく。リィニーは遠方へと出かける機会が多くなった。魔石についても知りたいという気持ちから、あちこちを見て回るのも楽しそうだという理由を話すと里の長は目を垂れながら長い長い白い髭を撫でていた。
「そうかそうか。それじゃあ、見聞を開いておいで。いつでも帰ってきていいからね」
優しく送り出してくれた里のみんなにひと時の別れを告げ、リィニーは最低限の荷物を背負い出発した。里を出てしばらく、大きな城下町に辿り着いたリィニーは早速魔術の専門店へと足を運んだ。人通りが多くまるで縫うように歩いていくと、そこにはいかにも魔術使いだという人がたむろしている店があった。店の外では買ったばかりの鉱石にうっとりしている者や、新作の魔術書を脇に抱えながら感動に浸っている者など様々だった。そんな人たちの間をすり抜け、専門店へ入ると中も中で沢山の人で賑わっていた。くつくつと音を立てながら生成されている薬品や、羊皮紙の匂いが漂う古文書、呪術に使う道具などが所狭しと並んでいた。リィニーはカウンターに立っている一人の店員に声をかけ、自身が所持している魔石を見せた。すると店員は目をかっと見開き声をあげた。
「こ……これは……。お嬢さん、これをどこで……」
静かだった店員がここまで興奮するのにはきっと何かあるのだろうと思ったのだが、その振れ幅がすごかった。リィニーはただ正直に手に入れた経緯を説明すると、店員は空気を抜かれ一気にすぼむ風船のようにすんと大人しくなった。
「……なるほど。悪魔が所持していたと。まぁ、所詮悪魔がこれを持っているからといって使える代物ではない。お嬢さん、あんたは幸運だよ。大事に持っておきなさい」
店員の話によると、これはマナ(人や自然に宿る霊的なエネルギー)を宿した魔石だそう。しかもここまで大きい魔石は店員も初めて見たそうで、さっきの興奮はそれが原因だそう。これは持ち主に肉体的に力を付与するものであり、普段から身体を動かし狩りをしているリィニーにとっては相性ばつぐんだった。それに、リィニー自身にも僅かながらマナを有していたというのも、この魔石とすぐにリンクができたというのも大きな理由だった。これにて、この魔石がマナを有しているものだとわかったリィニーは店員に何度もお礼をいい、専門店を後にした。それから宿を探し、ここでいくつか依頼をこなすことにした。
数々の依頼をこなし、資金的にも余裕がでた頃。リィニーは次の地へ向かおうと宿の主人に挨拶をしようとしたとき、主人から変わった依頼を受けた。達成条件は「楽しむこと」という今まで受けた依頼の中では風変りな条件だった。
「これ、よかったらどうぞ」
「なにかしら……? え、達成報告なしで……いいの?」
「ああ。なんでも近くにある施設で『ないとぷーる』という催しがあるんだ。よかったら羽を伸ばすのもありなんじゃないかってね」
そういえば、ここのところ魔石の力を借りて毎日毎日狩りに奮闘していたリィニー。手に入れたのは素材や軍資金。来た時は寂しかった財布も、今となっては大きく膨れ上がっていた。
「……それじゃあ、ここを出る前に行ってきてもいいかしら」
「ああ。もちろんだ。楽しんできてくれ」
こうしてリィニーは宿の主人の好意で、もう一晩お世話になることになった。そして城下町最後の日は『ないとぷーる』という催しに参加するため、会場へと向かった。夕日が辺りを染める頃に到着したリィニーはひとりそわそわしていた。見たことのないちかちかした明かりや、聞いたことのない音楽に自分が場違いではないかと不安になってしまっていた。
「……いいのよね。わたし……」
ちょっぴり不安な気持ちを抱きながら、受付を済ませロッカーで水着に着替えたリィニーはそこに広がる眩しくて楽しそうな空間に目を奪われた。
「……なんてきれいなの……」
大きな四角い穴の中には大量の水が張っており、その中では男性女性種族関係なく楽しく遊んでいた。ボールで遊んでいる人や、プールの上をぷかぷか浮かんでいる人など様々だったが、その中でもリィニーの興味を引いたのは大きなボールの中に人が入って歩いているアクティビティだった。水の上を歩くなんて日常が考えられないことがここではできるんだと理解したリィニーは、準備運動もそこそこにそのアクティビティの列に並んだ。
「次の方どうぞー」
いよいよリィニーの順番になり、巨大なボールの中へと入っていく。確かに水の上に立っていてだけど不安定な感覚もあるという、未経験な興奮がリィニーのテンションを一気にあげた。
「何これ何これ?! おっもしろーい!!」
持前の運動神経を生かし、すいすいっと水面を歩き始めるリィニー。他の参加者が転びながら前に進んでいる中、一人だけすいすい歩いている様子にいつの間にか周りから視線を集めていた。ちょうど折り返し地点に到着したとき、リィニーはふと周りに視線を落とした。プールで遊んでいる人たち全員がリィニーに注がれていた。
「ちょっ……ちょっと……。もしかして、注目を集めちゃってる……???」
ボールの中であれだけ楽しそうにはしゃいでいたり、水面をすいすいっと歩いているのであれば注目を浴びるのは必然的だった。つい羽目を外して遊んでしまったことに恥ずかしさを覚えたリィニーは静かにゴール地点に到着し、次の参加者と交代した。顔を赤らめながらドリンクスタンドで無料のドリンクを受け取り、ベンチに腰掛けドリンクを口に含みながら空を仰いだ。満点の星空にうっとりしながらも、まだ恥ずかしさが抜けないのか顔から熱が中々引いてくれな。
「ちょっと……はしゃぎすぎちゃったかな。……恥ずかしい」
ようやく顔から熱が引いた頃、ナイトプールはもっと賑やかになっていた。たくさんの人で賑わう一夜限りの催しに、リィニーは飲み終えたドリンクをカウンターに戻し聞きなれない音楽をノリノリで演奏している奏者の前に立ち、その身をゆだねた。心が揺れるまま身体を揺らし、何も縛りもなくただただ音楽に合わせて身体を動かすことが楽しいとわかると、いつの間にか他の人たちとハイタッチをしたりと大いに楽しんでいた。
「今日くらい……いいわよね」
小さく舌をぺろっと出しながら、最後の最後まで未体験な夜の催しを楽しんだリィニー。そして終わりの時を迎え、参加者がまばらになった頃。宿屋へと戻るリィニーの心はわくわくとドキドキで満ち溢れていた。




