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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット13 暑さに負けるな! クールなスイーツ(夏休みストーリー)
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ひんやりしゅわわ♪イチゴのミルククレープアイス【竜】

 影の国─ダン・スカー。晴れることのない闇に覆われた国にも、季節というものは廻っているようで、ひと月前までは快適に過ごしていた国民の表情がなんとも苦しそうに歪んでいた。いくら闇の国とはいえ、気温まではどうすることもできなかった。影の国の隣でも少し蒸し暑い日が続き、冷たい飲み物が心地よいと感じるそんな日だった。自室にてとある女性が黙々と書類の整理をしていると、ダン・スカーの女王であるスカアハから一通の手紙が届いた。

「オイフェ様。スカアハ様より書状が届きました」

 オイフェと呼ばれたのは、ダン・スカーの隣国を統べるの女王であり屈強な武人である。腰まである黒檀のような艶やかな長い髪、白銀色の鎧に身を包み戦場に立つその姿はまさに戦乙女と陰で呼ばれている。指揮官として時には兵士として戦場に立ち、兵士たちを鼓舞しながら複数本の槍に魔力を付与させ、自在に操り戦う。その攻撃には一切の無駄がなく、隙が無い。幾千、幾万の戦場に立ってきたオイフェの実力は敵も味方も認めているほど、美しく輝いて見える。戦いがあるからこそ均衡が保たれている過酷なこの地で、あといくつもの戦場がオイフェを待っているのか。それは神のみぞ知る。

 一時は敵対したことのある影の国の女王スカアハからの手紙に、一瞬はっとしたスカアハは伝令から静かに手紙を受け取った。真っ白な封筒の裏には真っ赤なシーリングスタンプが捺印されていて、小さく「親愛なるオイフェ殿」と書かれていた。封を破り、美しく折りたたまれた便箋を広げるとこれまた美しい文字で端的にこう書かれていた。


 ─ 近日、催しを行う。ぜひとも参加されたし。 日程は追って連絡する。 ─


「……なんとも彼女らしいわ」

 小さく笑いながら便箋を折りたたみ、封筒に戻したオイフェ。窓の外に視線を移すと、そこにはオイフェの愛する民たちが額に大粒の汗を浮かべながら右往左往している姿があった。民がいるからこそ、この国がなりたっている……そう思ったオイフェはこの国の民たちにも何か還元できるものをと考え、早速便箋を取り出し、さらさらと書き伝令を呼び届けるよう命じた。

「……今、瞬きの平和を少しでも楽しんでもらえたら嬉しいわ」

 オイフェの思いを込めた手紙は、滞りなくスカアハの元に届いていた。早速広げて読んだスカアハの口の端はゆっくりと持ち上がり、くすりと笑った。

「……ほう。ならば、早めに準備をしたほうがよさそうだ。……この日はどうだろうか」

 ペンを走らせ、伝令に手紙を届けさせる。隣国ということもあってか事は順調に運び、予定していた日付よりもだいぶ早く開催できる運びとなった。主催はスカアハなのだが、それを補佐するのはオイフェ。お互いの良いところを補いながら開催された夏祭り。期間は一週間、誰でも参加できる企画を盛りだくさん用意し華やかな飾りつけを施した影の国は、今までに見たことがないくらいに光り輝いていた。子供たちの笑顔、大人たちも童心にかえり催しに夢中になっている姿を浴衣に身を包んだオイフェが静かに見守りながら歩いていた。

「おかあさん、次はあれが食べたい!」

「はいはい。そう急がないの」

「次はあれやってみたい」

「お、あれは父さん得意だぞ。一緒にやるか」

 露店から聞こえてくる温かい声の数々に、思わず笑みが零れるオイフェ。やがて露店を通り過ぎ王宮の前に到着すると、そこには美しい字で「体験会場」と書かれた看板が立てかけられていた。静かに暖簾を払い、中に入ると係員がせっせと準備をしていた。

「あ、オイフェ様! 体験の準備整いました! さ、どうぞ!」

 この夏祭りの目玉である、「ハーバリウム体験」。スカアハは彼女を優先的に体験できるよう、取り計らってくれたのだ。そしてそのお客さん第一号として、席につき係員からの説明を受け作業を始めた。

「ハーバリウム……なんとも美しいな」

 自分の好きな花を瓶に詰め、専用の油を注ぎインテリアとして飾ることができるハーバリウム。不思議なことに、油の中にある花は永久的に枯れることがないと聞き、オイフェは小さく驚いたのと同時に胸の中に複雑な思いを抱いていた。

「永遠……か。変わらぬまま過ごしている私としてはなんとも複雑ではあるが……でも……」

 最後に蓋をぎゅっと閉め、細いリボンを巻き完成した自分だけのハーバリウムを眺めたオイフェの顔は、どこか満足そうだった。

「変わらないことがいけないのではない。確かに変わらないというのは、時に自分の生命を脅かす場合もある。武術の腕が上達しないままや、生き延びる術を学ばないまま……どれも欠けてはいけないもの。だが……民の平和を願う、これからも民の幸せを願うという気持ちは変わらない。これからも、民のために最善を尽くすと誓おう」

 小さな袋に手作りハーバリウムを入れ、最後に主催者にお礼のメッセージを係員に手渡し会場を後にしたオイフェ。もう用事は終わり、あとは帰るだけなのだがその足はぴたりと止まったままだった。それはまるで、今まで得る機会が少なかった楽しい時間を少しでも取り戻したいという気持ちがそうさせているかのようだった。

「……わたしも、この幸せに浸ってもいいだろうか……スカアハ」

 小さく零れた言葉に返事をする者はいなかった。だけど、オイフェはこの日だけ、本来の姿に戻ったかのように露店の催しを心から楽しんでいった。その嬉しそうな顔を見た露店の店主たちはそのことを主催者であるスカアハに報告すると、スカアハはにっこりと笑みを浮かべた。

「そうかそうか。これは……また楽しみが増えたな」

 顎を撫でながらスカアハは、次の催しの企画を考え始めていた。

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