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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット13 暑さに負けるな! クールなスイーツ(夏休みストーリー)
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気持ちほぐれるマイルドラムネ【魔】

「まったく。なんでいつもいつも性懲りもなくやってくるのかしら。本当に面倒ね」

 カシス色のロングヘアーに尖った耳、星空をそのまま切り取ったかのようなダークブルーのネックファーには、星や月を模したアクセサリーがつけられていた。透明度が高すぎるスカートは彼女の脚線をより美しく際立たせていた。ふと彼女は背後に転がる無数の盗賊たちを見てもう今日だけで何度目かわからない大きなため息を吐いた。

 彼女の名前はシアン。父に魔族、母に人間との間に生まれた半魔族の彼女は常日頃から何の能力を持っていない母を憎んでいた。もし母親が人間ではなく父と同じ魔族ならもっと力を受け継げた可能性があったかもしれないというのに……父はなぜなんの能力もないただの人間を選んだのだろう。それを確かめる術は今はもうない。

「憎んでも憎んでも憎み切れない……。でも……」

 今、こうして生きていられるのは少なからず二人のおかげだということ。その事実は変わらない。だから、憎んでも恨んでも、決して口にはしないものの心のどこかで感謝をしている。


 鬱蒼と茂る森の中を歩くこと数時間。さすがのシアンもやや高めのヒールを履いての悪路は堪えたようで、要所要所で休みながら歩いていた。時折足首をさすりながら歩く姿は見ていてどこか痛々しかった。

「……ちょっと疲れたわね。どこかで休める場所はあるかしら」

 空を仰いだシアンの目にはぼんやりと浮かぶ黄色い月が浮かんでいた。まるで今の気持ちを映しているかのようなそんな月だった。やがて休む頻度も多くなり、さすがにこれ以上は危険だと判断したシアンの目にはうっすらと涙を浮かべながらふうと肩を落とした。

「……? なにかしら。どこからか……音楽?」

 うっすらと聞こえる何か高い音のようなものに思わずシアンは反応した。じっと耳を澄ませていると、遠くの方でそれは聞こえた。

「……なにかしら。人、いるのかしら?」

 何かの罠なのかもしれないと一瞬疑ったが、シアンにはその音が妙に心地よく聞こえ、騙されたらその時は父の力─怨恨の魔晶石を使ってやっつければいいかと思い、すっかり熱をもった足を引きずるように音のする方へと進み始めた。


 しばらく歩くと、その音は近くなり段々とはっきりと聞こえるようになってきた。最初は高い音だけだったが、近付いていくにつれてどんどんと体を震わせる音も聞こえてきた。さらに近付くと今度は楽しそうな笑い声まで聞こえてきたシアンは「もう少し……もう少しだけ頑張るのよ」と自分を励ましながら歩き続けた。やがて町の入り口が見えたシアンはほっとした様子で様子を伺うと皆が皆、変わった服を着ていることに気が付いた。

「なにかしら……? あの洋服??」

 色とりどりの服には花が描かれていたり、模様が描かれていたりと様々だった。興味を持ったシアンはいつの間にかふらふらと町の中へと入っていたのか、町の人に声をかけられるまで気が付いていなかった。

「あら? お客さんかしら?」

「ひゃあっ!!!」

 突然の声に驚いたシアンは今までに出したことのない声で悲鳴を上げた。びっくりしたシアンが振り返ると、そこにはシアンが気になっている服を着ている穏やかな笑みを浮かべた女性が立っていた。

「おやおや。驚かせてしまってごめんね。なんだかお祭りに興味がありそうだったから声をかけさせてもらったんだけど……」

「あ……あ……ああ。その、突然大きな声を出してすみませんでした」

「いいんだよ。驚かせてしまったのはあたしなんだし。お詫びといってはなんだけど、うちの町自慢の納涼祭に参加していかないかい?」

「のう……りょう……さい??」

 初めて聞く言葉に首を傾げたシアンは、ずきりと痛む足に顔を歪め、痛む右足を見るとすっかり腫れて真っ赤になっていた。

「ああ……」

「おやおや。どうしたんだい。そんなに真っ赤になって。手当するから、うちにおいで」

「え……でも」

「いいから。ほら、そんな足じゃあまともに歩けないでしょ。ゆっくりでいいから。うちはすぐそこだから、そこまで我慢してね」

 さっきまで穏やかだった女性の顔がシアンの腫れた右足を見た途端、目を見開きながら驚いていた。シアンが改めて右足を見ると、さっきまではそこまで腫れていなかった右足がぷっくりと腫れあがっていた。ずきずきと痛む右足を引きずりながら、また女性の力を借りながらなんとか女性の家へと到着した。すぐに玄関に座り、女性は履物を乱暴に脱ぎ捨てばたばたと家の中へと入っていった。

「……なんだか……落ち着く香りね」

 シアンが女性の家に入ったとき、まず感じたのはどこか懐かしいような優しい香りだった。木の温もりをたっぷり感じられるような家は、痛みで顔を歪ませるシアンの心をちょっとずつ癒していく。

「ほら、診せてみな」

「……っ!!」

「痛いんだね。じゃあ、動かなさいで」

 最早動かすの難しくなるまで痛くなった足に、女性は白い四角形のものをぴたりと貼り付けた。貼り付けられた瞬間、痛みがすーっと引いていくようなひんやり感にシアンは心から安心したような息を漏らした。

「……はぁ……冷たくって気持ちいい……ありがとうございます」

「いいっていいって。もう少しそのままでいてね」

「……はい……」

 女性に言われるままそのままでいると、女性は簡単な食事を用意してくれた。三角形に形作られたものと緑色の温かい飲み物だった。見たことのない食べ物をじっと見つめていると、女性は「おにぎりが珍しいかい?」と少し頬を緩ませながら言った。

「おに……ぎり?」

「そうだよ。あんまり力を入れずにふんわりと握るのがコツだよ。さ、召し上がれ」

「い……いいんですか?」

「もちろん。あなたが元気になるよう、心を入れてみたから食べてみて」

「あ、ありがとうございます」

 両手でしっかりと持ちながら恐る恐る一口。途端、口の中に広がるもちもちとした触感の後にほんのり甘味がシアンの心を優しく解していく。

「美味しい……こんなに美味しい物、初めて食べたわ」

「あら。そう言ってくれて嬉しいね」

 くすくすと笑う女性に、ついつられて笑うシアン。なんだろう、シアンはこの空間がなんとなく居心地がいいと感じていた。


 しばらくして、右足の様子を確認するとさっきまで腫れていた右足は嘘のように引いていた。まるで魔法のような効果にシアンは思わず「嘘!」と声を張った。女性もまさかこんな短時間で腫れが引くとは思っていなかったらしく、一緒になって驚いていた。

「こんなにあっという間に……ありがとうございます」

「いいって。あ、歩けるかい?」

 女性の手を借りて立ち上がり、ゆっくりと歩いてみると違和感なく歩くことができたシアンは「大丈夫です」と答えると女性はにっこり笑いながら「そうかいそうかい」と嬉しそうに頷いた。そしてそのままシアンを家の中へと案内し、「せっかくだしお祭り気分を満喫しないとね」といい、目にも止まらぬ速さでシアンをドレスアップしていった。それは町の人が来ていたあの鮮やかな服─浴衣だった。

「うん! 似合ってるよ!」

 鏡越しに見る見たことのない艶やかな服に、シアンはしばらく声を失くしていた。まさか自分が着ることになるなんて思っていなかったというのもあってか、その驚きに嘘偽りはなかった。

「きれい……」

 濃厚な紫色の地に同じ色の帯、金色の蝶が舞っているような浴衣は、一回でシアンの気持ちをさらに解きほぐした。普段とは違うものを身に着けるだけでこんなにも心は弾むものなんだと思ったシアンは何度も鏡の前でくるりと回ってみせた。

「おお。似合ってるね。それでお祭りにいったらもっと楽しめるよ。さ、行っておいで」

「え……ええ。ありがとう。ちょっと借りていきます」

「あいよ。ごゆっくりどうぞ」

 そう言い、シアンは用意してくれた履物─下駄に履き替えからんころんと音を鳴らした。その音はシアンの心が奏でる音と似ていた。


「うわぁ……」

 そこは夜に浮かぶ宝石のような煌めきだった。温かい灯りの下では美味しそうな食べ物、または楽しそうな遊びを提供していた。子供はもちろん、シアンと同じくらいの男性も女性も皆楽しそうに笑っていた。

「きれい……」

 いつも見ているのは「陰」の煌めき、しかしここにあるのは純粋な「陽」の煌めきだった。見たことも感じたこともない温かな雰囲気にシアンは思わず笑みが零れた。ゆっくりと足を踏み出すとあっちでは香ばしい香り、こっちでは甘い香りなど見ても香りでも楽しめる納涼祭というものにシアンの心はいつの間にかぴょんぴょんと弾んでいた。そこでふと目に留まったのは変わった形をした瓶だった。何かと思いその瓶を見るとなんと瓶の中にビー玉が入っていた。

「これ……どうやって入れてるのかしら」

 素朴な疑問を口にしたシアンに気が付いた店主は「一本どうだい?」と気前よく冷えた瓶を取り出し手早く水気を拭き取り、何かをぐっと押し込んだ。すると「ぽん」という音とともにしゅわしゅわと弾ける音があふれ出した。

「あいよ! お待たせ」

「あ……ありがとうございます」

 店主から瓶を受け取り一口含むと、口の中で小さなカプセルがぱちぱちと弾けた。味わったことのない感覚に思わず「しゅわしゅわする」と率直な感想を言うと、店主はがははと笑いながら「それはラムネっていうんだ。こうして、専用の部品を使って押し込むと飲める仕掛けよ」と説明してくれた。

「へぇ……面白いわね……」

 ますます興味を持ったシアンがラムネを飲み干すと、カランカランと耳に心地よい音色が響いた。それはラムネの瓶の中に入ったビー玉が奏でたものだった。

「……きれい。美味しいし、もう一本もらっていいかしら?」

「あいよ!」

「あ、今度はわたしがやってみてもいいですか?」

「お! やってみるかい? ここを……そうもって、ぐっと力を込めるんだ!」

「こう……かしら……きゃっ!」

 ぽんと音を立てビー玉が瓶の中へと入るとしゅわしゅわと泡が溢れだした。泡が落ち着いたのを見計らって口に含むと、甘くて爽やかな喉越しがシアンをさらにごきげんにしていく。

「気に入ったわ。ねぇ、記念に一本もらっていいかしら?」

「もちろん。ありがとうよ」

「ごちそうさま」

 記念に一本持ち帰ることにしたシアンは人気のない椅子に腰をかけ、瓶を揺らした。からからと奏でる音がシアンの耳に美しく聞こえ、しばらくその音を聞き入っていた。

「はじめは納涼祭なんて興味なかったけれど……たまにはいいわね」

 瓶越し覗く夜空もまた面白く映ったシアンは小さくくすくすと笑った。そして、夜空に浮かぶ大きな大きな花に驚きながら、小さく呟いた。

「お(・)父(・)さ(・)ん(・)、お(・)母(・)さ(・)ん(・)。ありがとう」

 その声は大きな花が咲くのと同時に夜空へと吸い込まれていった。

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