クリームたっぷり! メロンソーダフロート【神】
「……暑いですね」
司書の仕事をしている少女─リルファウナは小さく呟いた。司書の制服は年中問わず長袖と決まっており、通気性の悪いシャツを何度見て恨めしいと感じた数は計り知れない。重たい本を運んだり文書の訂正だったりと思っているよりも重労働の日々が続いているのに加え、ここ数日暑い日が続いている。暑さで集中力も続かない中、なんとか今日の仕事を終えたリルファウナは眼鏡を直しながら深い深いため息を吐いた。
「やっと終わりました。はぁ……読みかけの本もあるのに、こんなに暑いんじゃあ集中して読めませんね」
図書館で読むというのもあったのだが、どういうわけか同じ考えを持っている人が重なっているせいか図書館は今までにない位にたくさんの人でにぎわっていた。わざわざそんな人が集まっている中へ入って集中して本が読めるかと聞かれると……。
「……難しそうですね。今読んでいる本は特に興味深い内容がたくさんあるので、できれば集中して読みたいところなのですが……どこかに良い場所はないものでしょうか」
リルファウナの頭の中に浮かぶ場所はすべて、ほかの人も考えているような場所ばかりで遂に思考が袋小路に入ろうとしていたときだった。館内にある掲示板に一枚だけ気になるチラシが貼られていた。
「え? ナイトプール? なにかしら……ちょっと……気になるわ」
ナイトプールという響きになにかときめきを感じたリルファウナは、持っていた本をぎゅっと抱きしめると無言で職場を飛び出していった。
「えっと……会場はここでいいのかしら」
チラシに書かれていた住所を頼りに歩いていると、白い壁のお屋敷にたどりついた。中では軽快な音楽とともに眩しい光源がぴかぴかと光っていた。今まで自分が見たことのないような場所で、果たして本を読むことはできるか些か疑問に思いながらも、思い切って受付を済ませ水着を受け取り手早く着替えた。黒地のシャツタイプの水着に濡れても大丈夫な素材でできたケープを肩にかけ、緑色のパレオを腰に巻き少し低めのヒールをこつこつと鳴らしながらプールサイドに現れたリルファウナ。司書のときとは雰囲気が違い、どこかいつも以上に大人びて見えるのは気のせいだろうか。読みかけの本を片手に頭にはハイビスカスの花を挿し、どこかに腰を落ち着かせる場所はないかと探していると、浮き輪に浮かびながらのんびりしている人を見て「これだ!」と閃いたリルファウナは早速浮き輪を借りて、その上に座り本を開いた。普段とは違う恰好での読書になるのだが、まぁ特に問題はないだろうと思っていると思いのほかバランスをとるのが難しかった。
「あら……中々安定しませんわ。えっと……こう……ひゃああ!!」
危うくバランスを崩しプールの中に落ちる寸前で踏みとどまることができ、何とも言えない汗が額をだらだらと通過していた。なんとか心を落ち着かせバランスを保ちながら今度こそ本を開いた。ちゃぷちゃぷと水の揺らぐ音を聞きながらの読書はまた新鮮だと感じたリルファウナは涼を感じながらページをめくった。
あと少しで読み終えるところまで読み進めたリルファウナは、静かに本を閉じ、一旦プールから上がり本を自分のロッカーへと預けてからまたプールに戻るとゆっくりとプールに入った。戻ってみるとさっきまではなかった光りながら浮かぶバルーンがプールの上に何個か置かれ、雰囲気を盛り上げていた。
本当は夜に出歩くなんてどうなのだろうと思っていたリルファウナだったが、たまにはこうして自分の知らない世界を知ることも大事だということで、思い切って外出届を出してみると案外すんなり通ってしまったことにも驚いた。足先からひんやりとした感覚が駆け上がってきて背中まで走ってくると、ぶるりと体を震わせた。やがて水の冷たさに慣れてきたからか、動いても冷たさをさほど感じなくなってきたリルファウナは軽く泳いでみた。
「意外と動きが制限されるのね……うまく動かすのには少し時間がかかりそうね」
泳ぐことから水の中を歩くことに切り替え、ゆっくり体を動かした。上を見上げれば満点の星々が輝きに満ちていて、自宅では見ることのなかった夜の星たちの会話を聞くことができた。
「ふふっ。今日は思い切って見て大正解ね。また今度、来てみようかしら」
本を読むことを重視していたはずなのに、今はすっかりナイトプールの虜になってしまったリルファウナは今度は本を持参せず、プールを純粋に楽しみたいと思っていた。




