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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット9 感謝の気持ち詰まったプチスイーツセット(HDストーリー)
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キュンと甘酸っぱいラズベリーショコララテ【魔】

「……遅いな」

 わたしは彼の連絡通り、公園のベンチで待っていた。ちらりと腕時計を見ると予定時間よりも十分程遅れていた。きっと何かあったのだろうと思い、わたしはベンチに深く腰掛けなおすと空を泳ぐ雲の群れを眺めていた。ふわふわとゆったりと泳いでいる雲の群れはどこを目指しているのだろうかなんて考えながら眺めていると、急に冷たい風がぴゅうと吹いた。一応、それなりに着込んできたけど、それでも吹いた風はそれらを嘲笑うかのように強く吹いた。

「っくしゅん」

 ぶるりと体が震えたかと思うと思わずくしゃみが一つ。春だと思ったのに……こんなに冷えるとは思わなかったなぁ。わたしは身を縮こませ、熱が逃げないよう必死に抵抗しながら彼の到着を待つことにした。


 ……来るのかな。本当に。



「やっべぇ。遅れちまう」

 おれは仕事を終え、時計を見ると待ち合わせの時間になろうとしていた。慌てたおれは仕事道具を適当に放り投げ、事務所を後にした。

「おいギエム。仕事道具を放り投げるとはどういうつもりだ」

 同僚である悪魔トレーズに文句言われたけど、「今日だけは勘弁!」といい、おれは荷物を引っ掴んで足早に向かった。

「っくそ。今日に限ってなんでこう依頼が重なってくるんだよ。ツイてねぇなぁ」

 仕事がないと嬉しいってわけではない。けど、それは時と場合による。特に今日は追加の依頼だけは勘弁だったのに、次から次へと依頼がやってきやがる。それを知ってか知らずかトレーズはすぐに快諾しちまうもんだからたまったもんじゃない。事前に今日は予定があるって言っておいたのに……あいつ、忘れたのか? でもまぁ、とりあえず今日の依頼はすべてこなしたし、文句はないだろ。おれは駆け足のまま簡単に身なりを整えると、この季節にしては珍しい冷たい風がおれの前を生意気に通って行った。

「……結構冷たいな。今日の風は」

 依頼をこなして体がまだ温かいのが幸いしたのか、衣服の中に寒さは入ってこなかったのだが無防備な顔に冷たい風があたると思わずぶるっと震えてしまいそうなそんな風だった。

「急がねぇと……」

 おれは依頼で疲れた体に鞭打って、彼女が待つ公園へと走った。



「やっぱり……お仕事……なのかな」

 気が付けばわたしはまた腕時計を見ていた。あれから五分経ち、十分経ち、十五分経ち……。予定時間が段々と置いてけぼりを受けている中、わたしは一人公園のベンチに座っていた。冷たい風は友達を増やしてきたのか、徐々に冷たさを増しわたしの手先をじわじわと冷やしていった。それから耳も頬も冷たくなってきて終いには体もぶるぶると震えだした。

「もう少しあったかい物を着てくればよかったな……はは……」

 自嘲しながら空を仰いでいると、大量にあった雲の群れはいつの間にかどこかへ消えてなくなっていた。代わりに見えるのは完熟したオレンジをそのまま塗りたくったような鮮やかな色だった。そしてそのオレンジ色の空の隙間からカシス色の空も交じっていた。そうか、もうそんな時間か。確かにあの人は仕事が忙しいのはわかってる。本人もそうだって何回も言ってたし、今日だって「約束通り行けるか分かんねぇけど……それでもよければ……待っててくれるか?」ってちょっと難しい顔をしてたっけ。あの人の、ちょっと恥ずかしそうな笑顔を見るとなんだか心がふっと軽くなるようなそんな気がする。わたしにとって、あなたはまるで太陽のような存在だから。わたしは、あなたを待っていたいな。



「……すまねぇ。待たせたな」

「……ううん。お仕事、お疲れ様」

「……別に、大したことじゃねぇって。……ほらよ」

「……わたしに?」

「寒……かっただろ? だから、少しでもあったまってほしくて……」

「……ありがとう」

 ギエムが手渡したのは生チョコがたっぷり入ったホットチョコレートだった。とろけるような甘いそのドリンクはこの辺りでは有名で長蛇の列になってしまうこともあると雑誌に書かれていた。今日はホワイトデー。日頃の感謝をお返しする日だと知った日、ギエムは彼女にその思いを伝えるべく、今日彼女を公園に呼びだした。本来は定時で終わるはずだったのだが、前述の通り依頼が重なってしまったせいで遅れてしまった。その道中、ただ伝えるだけでは申し訳ないと思ったギエムは先日、彼女と一緒に読んだ雑誌のことを思い出しドリンクをテイクアウトし、現れた。一時間……いや、それ以上待たせてしまっていたかもしれない。申し訳ないという思いだけでは済まないと思いながら、ギエムは自分ができる最大の思いを彼女に伝えると、彼女は静かに頷きながらドリンクカップをぎゅっと包み込んだ。

「あったかい……」

「その……本当にすまねぇ……」

「ううん。気にしないで。こうしてお話できただけでも嬉しいのに、まさかあのお店に寄ってくれるなんて」

「ま、まぁ……こんなことしかできねぇけど……」

「もう。そんなに謙遜しないで。わたし、今とっても幸せだよ?」

 ギエムの頬に彼女の手が触れると、ギエムはそれ以上何も言えなかった。ただ、できることといえばその手から伝わる彼女の温もりと、小刻みに震える体だった。ギエムは何も言わず上着を彼女にかけると、彼女は一瞬はっとした表情になったがギエムはそれを無言で制しベンチに腰を下ろした。彼女はしばらく考えたのち、ギエムの優しさに甘えることにした。いつもはちょっとぶっきらぼうで言葉足らずだけど、今日はなんだかいつもより優しく感じられるギエムに彼女の心はぽかぽかと温まったいった。


 もう少しだけ、一緒にいさせてください。わたしは……あなたのことが……。

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