ほろほろ絵馬クッキー【神】
新年を迎え、あちこちでは挨拶やお詣りをする人たちで賑わっている。札師の住んでいる町も同じで、外では子供たちが羽子板をして遊んでいる声が聞こえてくる。そんな中、札師は何やら大量の紙と墨を持ってばたばたと用意をしていた。青色の振袖に黒いミニハットには色鮮やかな花が縫い付けられており、札師が歩く度に仄かに甘い香りが漂ってくる。大き目のレンズの眼鏡をかけ、桜色した長い髪は左右できれいにまとめられていて、とても華やかだった。
札師─マツリはこの町の中では有名な札売りの娘として知られている。特に厄除けや家内安全などに対しては絶大な効果があると評判で、どこからか聞きつけた遠い誰かもわざわざここまできて札を買いに来るほどだった。そのほかにも、彼女が書く札には抜群の効果があるとして知られているのだが、それはあまり口にはしていない。
「さぁて、今年もいっちょやりますかねえ。ユウキ、ちょっと手伝ってくれる?」
「は、はい! 先生」
ユウキと呼ばれた少女はマツリでは持ちきれない札の残りを運んでいた。ぶかぶかの袖を揺らしながら歩く姿はどこか危なっかしいが、彼女は一生懸命に札運びの手伝いをしてくれていた。ユウキは同じ陰陽師であるハルアキの後輩にあたり、その実力は先輩であるハルアキもお墨付き。もしかしたら、ハルアキよりも才能があるかもしれないとマツリはハルアキにぼそっと呟くと、ハルアキは面白くなさそうに深いため息を吐いた。しかし、そんなこととはつゆ知らずユウキはマツリの指示のもと、妖怪退治をこなしている。実力はあるのだが、いかんせん自信がさっぱりなく、その実力をフルで発揮するのには相当の時間を要しそうだとマツリは思っている。
「お待たせしました。これでお札全部です」
「あぁ、ありがと! そんじゃ、始めますかね!」
マツリは愛用の筆を手に取ると、流れるように動かしただの札からあっという間にご利益のある札へと変えていった。
「家内安全、商売繁盛。良縁祈願に学力向上。なんでもこーい!」
まだ依頼を聞いていないのに、筆を走らせ次から次へとご利益札を生産していくマツリ。その中から依頼人は目的の札を手に取り、ユウキが窓口となり支払いを済ませていく。それを延々と繰り返し、カラスが鳴き始めた頃には山ほどあった札は数える程までに減っていた。
「うんうん。今日はこのくらいかなぁ。ユウキ、お手伝いありがと♪」
マツリはユウキの頭を撫で、明日に備えてまた大量の札の準備を始めた。札の準備をしてから数時間、マツリはいつの間にか夢の中へと誘われていて、すやすやと寝息を立てて眠っていた。後片付けや戸締りをしていたユウキがそれに気が付き、ユウキはそっと毛布をかけて自身も体を休めるため、自室へと戻っていった。
翌日。気持ちの良い青空の下、今日もマツリは威勢のいい声で沢山の札を書き続けていた。
「新春万福、笑門来福。迎春万歳、初志貫徹♪ ほかにもあったらなんでも言ってね~!」
昨日よりも札を増産した成果もあり、沢山の人にご利益札を渡すことができた。途中、墨がなくなりそうになったらすかさずユウキが補充し、札がなくなりそうになればそれを補充するという言わなくてもユウキは自分で考えて動いてくれているおかげで、マツリの筆も止まることを知らなかった。
「ほい! 今日はこれでおしまいだよー!」
最後の一枚を手にした依頼人は目に涙を浮かべながら歓喜し、マツリに何度もお礼をしながら帰っていった。
「ふぅ。これで新年のお仕事はおしまいね。ユウキ、今年もよろしくね」
「は、はい! 今年も頑張りましゅ……嚙んじゃいました……」
くすくす笑いながらマツリは自室へ戻り、腰を下ろすとどっと疲れがやってきたのかしばらくその場から動くことができなかった。
「はぁ……それにしても……書いたわねぇ」
もうどのくらい書いたかなんてわからないなぁなんて思いながら、机の上に一枚だけ残っていた白紙の札を見たマツリ。しばらく考えた後、マツリは筆をとりさらさらと何か書いて扉へぺたりと貼り付けた。
「先生! 依頼の手紙が郵便受けに入ってましたー!」
「えー! 年賀状じゃないの? もう、依頼ってなにかしら?」
ユウキに呼ばれて部屋出たマツリ。ぴしゃりと閉めた扉には「商売繁盛」と書かれた札が揺れていた。




