くるみたっぷりのスイートパイ【魔】
クリスマス。それは年に一度の大きな祝祭。幻想的な明かりの中、美味しいご馳走を食べたり、プレゼントを交換したり、楽しく談笑したりと皆が思い思いの時を過ごす素敵な一夜だ。町のあちこちでは、大きな木に飾り付けをしクリスマスツリーへと変身させ、雰囲気を一層盛り上げていた。
そんな中、髑髏のついた杖をつきながら不気味に笑う老人がいた。背中には歪に曲がった木の根のようなものが張り付いており、その所々には真っ赤に燃える実のようなものがついていた。赤い実のようなものは生きているのか時々脈打つように跳ねると、さらにその不気味さを際立たせた。紫色のフードを深くかぶっていてもわかるほど立派な白い髭、そして赤い実と同じあるいはそれ以上に真っ赤な瞳はすっかり暗くなった夜道を怪しく照らしていた。
老人の名前はオードナー。魔樹と呼ばれるものに寄生された魔術師という噂があるのだが、それ以上のことは誰も知らない。なぜなら、知っている者は全てこの魔樹に自我を奪われ、最後は生ける屍になってしまったからだ。この魔樹についている赤い実を埋め込まれると、そこから急速に根を張り脳や神経を張られ自分では取り除くことができない。仮に取り除いたとしても、一度根を張られてしまった者は助かる見込みは皆無。遅かれ早かれ脳を侵食され、全て同じ末路を辿ることとなる。しかし、オードナーは違った。魔樹と共生することができた代わりに得たものは、膨大な魔力だった。その魔力を用いることはとても容易なこととなったオードナーは、この魔樹の素晴らしさを伝えるべく、新たな宿主を絶賛大募集しているという。
「さてさて、生きのいい宿主はどこかのう……」
中々新しい宿主が見つからないでいるが、それでもオードナー自身は焦る様子はなく、むしろ探すことも楽しんでいるかのような様子にひっひっひと笑っていると遠くから何やら子供たちが遊んでいる声が聞こえた。
「むむ。どこじゃ」
オードナーはその場で足を止め、耳を澄ませると今いる場所からそう遠くない場所から聞こえたことがわかった。オードナーは「いい宿主になれるといいのう」とけたけた笑いながら笑い声のする方へと歩き出した。やがて開けた場所に出ると、そこはそこそこ大きな町だった。町の中どこもかしこも綺麗に飾り付けがされていて、まだ日が高い場所にあるのにも関わらずその存在感は印象的だった。寒空の下、何人かの子供たちは頬を赤くさせながら元気にかけっこをして遊んでいるのを見たオードナーは「ほう」と唸りながらたっぷりとした白い顎鬚を撫でた。
「まだ幼いが……いや、幼いうちから寄生させればきっといい宿主になりえるかもしれんのう」
一人でぶつぶつ呟いていると、町の中で遊んでいる子供の一人が「あっ!」と大きな声をあげた。その声に何事かと思ったオードナーは意識を戻すと、自分の方を指さしながら笑っている子供と目があった。
「むっ……見つかってしまったか。まぁ良い。どれ、宿主に相応しいか……」
「おっきなクリスマスツリーだ!」
「……は???」
「ねぇねぇ! みんなきてー! おっきなクリスマスツリーだよーー!」
子供がそう叫ぶとわらわらと沢山の子供たちが現れた。集まった子供たちはオードナーを見るや否や「ほんとだ! おっきなクリスマスツリーだ!」とか「すっごーい! かざりつけがまたできるよ!」とか口々に言っていた。一体何が起こっているのか理解に時間を要していると、いつの間にオードナーの腕をぐわしと掴まれていた。子供にしては中々に力が強く気は付いたときには既に振りほどくのは困難だった。
「おじちゃん、こっちでいっしょにあそぼうよ」
「みんなできれいにかざってあげる」
「こ、これ。童ども……や……やめるんじゃ……ひぃいい!」
じたばたと藻掻いて抵抗してみるも、オードナーの抵抗は無駄に終わり叫び声は空しく寒空に吸い込まれていった。
「やったぁ! きれいにできたよ!」
「ほんとだ! まちのものよりかわいくできたかも?」
「かざりつけもしやすかったし、たのしかったなー」
「ぐ……ぐぬぬぬ」
子供たちから何度も「おじちゃんはうごかないで!」と釘を刺されてしまったオードナーは、仕方なくただ子供たちが飽きるまで放っておくことにした。しかし、子供たちは中々飽きが来ないのか、家の中から色々なものを持ってきてはオードナーの背中にある魔樹に付けてみたり外して見せたりと自由奔放だった。結局、オードナーが解放されたのは日がとっぷりと暮れたときだった。その時間は町に施された様々な色をした明かりがぴかぴかと光だし、日が高いときとはまた違った雰囲気を演出していた。オードナーもそれらと同じようにぴかぴかと光っていた。
「おじちゃん、とってもきれいだよー」
「あと、もーるもつけてっと……」
「あ、くつしたつけわすれてるーー」
「あ……も……もういいかのう……」
オードナーが尋ねると、子供たちはみんなで顔を見合わせながら悩み始めた。どうしようかと協議をしていると、うち一人が「いいよー」と間の抜けた声で答えた。一瞬遅れ、オードナーは改めて解放されるとそそくさと逃げるように町を出て行った。
「おじちゃん、またあそびにきてねーー」
「ばいばーーい」
「たのしかったよー」
「ま、またのう。いい子にしてるんじゃぞ」
少し引きつった笑顔を浮かべながらオードナーはすっかり闇が深くなった森の中へと消えていった。
しかし、これでは終わらなかった。
「むぅ……魔樹に変な装飾されてからやけに眩しいのう……」
規則的に点滅に目が疲れてきたのか、オードナーは髑髏のついた杖で何度か装飾を外そうと試みたのだが、複雑に入り組んでいるせいか取り外すことができなかった。
「お……おのれ童たちめ……。次に会ったときは有無をも言わさず宿主にしてやろうぞ」
怒りに任せて夜空に向かって吼えたオードナーだったが、ふと思い返すとそんなに悪い気がしなかった……ような。
「あんなに元気にはしゃぐ童たち……どれだけぶりに見たことか……」
今回はまぁいいだろうと思ったオードナーは、子供たちの力作を壊さないよう静かに体制を考えながら体を休めることにした。
その日、オードナーは今までに見たことのないとても温かい夢に包まれた。




