とろけるお餅で作ったイチゴ大福【竜】
「こんな家、出てってやる!!」
そう勢い良く飛び出していった少女─ヒナギク。ヒナギクの家は先祖代々から受け継いだ大きなお寺なのだが、物心ついたころからお寺の仕事を任されていた。最初の方こそ楽しそうにしていたのだが、年齢を重ねるごとに段々と嫌がるようになっていた。それもそのはずで、年頃の女の子となれば同じくらいの友達わいわい話したり遊びにいったりしたい気持ちで溢れているのに、住職である父親はそれらを一切許さなかった。一度父親を怒らせると非常に面倒くさいということは過去に経験済みなので、無暗と怒らせたりはしないのだが、とあるきっかけでヒナギクは我慢の限界を迎え家を飛び出したというわけだ。
しかし、飛び出したはいいもののその勢いは長くは続かなかった。飛び出して一週間経つか否かという日にヒナギクはこっそりと帰宅していた。理由は「頭が冷えたから」というものだった。それを聞いた父親は呆れたように大きな溜息を吐きながら首を横に振った。
「心配させやがって」
父親からの拳骨を食らったヒナギクは目の前でちかちかと光る星が見えたような感覚に陥った。強烈な痛みに頭を抱えながらヒナギクは小さな声で「心配させてごめん」と父親に謝った。それが聞こえたのかどうかはわからないが、父親は首を少しだけ動かし「さっさと手伝え」とだけいい、それ以上は何も言わなかった。それからというもの、ヒナギクは父親からのお手伝いという名の修行が始まった。いつもなら文句を言いながら修行をしているのだが、今回の件があったせいかヒナギクは大人しく修行に専念していた。
家に帰ってきたのが秋口だったのに、いつの間にか季節は移ろい冷たい風がびゅうびゅうと吹く冬がやってきた。ヒナギクの家兼寺は山の中にあるため、連日のように雪が降っている。その度にヒナギクの悲鳴が寺の外から聞こえてくるというのがこの家のお決まりなんだとか。そんな悲鳴が聞こえる今日、スコップ片手にヒナギクは屋根に降り積もった雪を忌々し気に睨みつけていた。
「さて……どうしたものか」
今日は世間一般にいう「クリスマス」という日。友達とケーキを食べたり遊んだりする楽しい日と聞いていたヒナギクは、友達を集めてクリスマスパーティーをしたいと前々から思っていた。ヒナギクは思い切って父親にクリスマスパーティーをしてもいいかと聞いてみたところ、父親は「うちは寺だ。そんなものは関係ない」と一蹴されてしまったのだ。そんなのどうでもいいじゃんと思いながら、ヒナギクがぶーたれていると、父親が「雪かきをしておいてくれ」と頼んだのでさらに頬を膨らませながら外に出るとそこには立派に積もった雪がヒナギクを見下ろしていた。
「こうなったら……奥の手を使うしかないわね。おとーさん! 雪かき終わったらクリパ、していい??」
交換条件ならどうだとヒナギクが息を飲みながら返事を待っていると、奥から「構わん」と低い声が聞こえた。その声に嬉しくなったヒナギクは「よっしゃーー! はりきっていくぞーー!」と小躍りしながら袖を捲った。
「クリパー! クリパー! ぜぇったいクリパやるんだからぁ!」
恐ろしいほどの執念を口にしながらヒナギクは猛烈な勢いでスコップで雪を救っては投げてを繰り返していた。それもそのはずで、友達と会うのも久しぶりだし何よりみんなで集まって遊ぶというのにわくわくが抑えられなかった。この後、楽しいクリスマスパーティーが待っていると考えるだけで、ヒナギクの手は止まることはなかった。
「ふぅ。ちょっと休憩っと」
袖で汗を拭いながら辺りを見回すと、だいぶ除雪作業が完了していることに満足気に頷くヒナギク。この調子でどんどん進めれば、クリスマスパーティーまで十分間に合うと思ったヒナギクは適当に水分と食事を摂ったら最大の山場─屋根の除雪作業へと向かった。
「うっひゃあ。結構高いなぁ」
はしごを上り、屋根の上から見下ろす景色に思わず足がすくみそうになったヒナギク。ただでさえ足場があるのに加え、高く積もった雪に足元をすくわれないよう、細心の注意を払いながらスコップを突き立てた。
「こんのーー!」
鬱憤を晴らすかのような掛け声とともに雪を切り分け、それを下へとどすどす下ろしていく。調子が出てきたヒナギクは鼻歌を歌いながら進めていくと、屋根の上に積もっていた立派な雪はすっかりなくなり、元の黒い屋根瓦が顔を出していた。
「よっし! あとは落とした雪をまたきれいにすれば完了だね」
とんとんと梯子を下り、今下した雪をまた手際よくどかしていくこと数十分。すっかりきれいになった寺兼家を見たヒナギクは胸を張って父親に報告をすると「約束だ。楽しんで来い」と普段はあまり笑わない父親がうっすらと笑みを浮かべながらヒナギクの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「……うんっ! 行ってきます!」
ヒナギクは自室から前以て準備していた遊び道具をひっつかみ、しばらくぶりに会う友達の家へと走った。冷たく刺すような冬の吐息ももろともせず、ヒナギクは胸を躍らせながら一直線に向かっていった。そんな嬉しそうな娘の後ろ姿を見送った父親は小さく呟いた。
「めりーくりすます」
言いなれない言葉にむず痒さを覚えた父親は、すぐに台所へと向かい自分の夕飯の準備を始めた。




