ごろごろブルーベリーとチョコたっぷりのブッシュドノエル【魔】
あれ? ぼくってばいつの間に眠っていたんだろう。目をこすりながら辺りを見回してみると、そこはぼくが住んでいる世界とは全然違う世界が広がっていた。ぼくの住んでいる世界はどんな世界かって? えっとね、君たちの言葉でいえば妖怪っていえばわかりやすいかな。常に湿っぽくって暗くって、普通の人間だったらものの数分も立ってられないくらい瘴気がすごい場所なんだ。その瘴気にあてられちゃうとね、みぃんな壊れちゃうんだ。ぼくは壊れない丈夫な人間がだぁい好きなんだけど、そんな人間今までみたことないんだ。どこかにいないかなぁなんて考えていたら、いつの間にか眠っていたんだ。
ぼくは空を見てみた。真っ暗なんだけどちかちかと何かが小さく光っているのが見えて、ぼくは思わず嬉しくなって必死に手を伸ばしてみたんだけど、それを掴むことができなかったんだ。あぁ、あんなにきらきらしているのに……欲しいなあ。でも、届かないんじゃあしょうがないよね。諦めることにするよ。それからぼくが目にしたのは、黄色い生き物を象った何かなのかな? ぼくが触っても動かないし、声をかけても反応はない。軽く叩いてみたらコンコンと少し軽い音が聞こえた。その生き物を象ったものの上には白くて触るとちょっぴり冷たいものが積もっていた。初めての経験にぼくはなんだかわくわくが止まらなかった。ほかには何があるのかな。ぼくは好奇心が動かすままに動いていると、遠くで女性の声が聞こえた。
「ねぇ見て! 今年も雪が降ってるわよ!」
「わぁ! 本当だ! きれいだね!」
その女性は白くて冷たいものを指して誰かと話をしていた。この白い物は「ゆき」っていうんだね。へぇ、一つ勉強になったよ。ぼくは「ゆき」に触れ、その冷たさに思わず笑っていると、さっき聞こえた女性の声が段々近くなってきていることに気が付いた。
「あら? この辺じゃあまり見ない顔ね。最近引っ越してきたのかしら?」
「……あんたさぁ、それより別のところを突っ込みなさいよ。あなた、そんな恰好で寒いでしょ? ほら、わたしのマフラーあげるから。風邪ひかないでよ?」
あれ? この人たち。ぼくを見ても全然怖がらない。いつもだったら、大きな声をあげて逃げるのに……珍しいこともあるものなんだね。
「ところで、あなたはどこからきたの?」
ぼく……? えっと……あまり詳しくは言えないんだけど、ここではないってことだけでもいいかな?
「……まぁ、事情があるのなら仕方ないわね。あなた、わたしたちと違ってちょっと耳がとがっているものね」
「……ほんとだ。今気が付いた。よく気が付いたね」
「あんたねぇ……」
女性たちのやりとりを聞いてると、なんだか楽しくなってきたぼくは、この世界のことをもっと知りたいっていう気持ちになった。ぼくは思い切って女性たちにこの近くを案内してもらえないかお願いをしてみた。断られるかもなぁ……なんて思っていたら、女性たちはあっさり快諾してくれた。
「いいわよ。時間ならたっぷりあるし」
「ここであなたと会えたのも何かの縁よね。さ、ちょっと寒いかもしれないけど、この時期にしか見れない特別な景色があるの。行きましょ」
そういうと、女性はぼくの手を引いて歩き始めた。これが……手の温もりっていうのかな。今まで誰かの手を握ったことがないから、なんだか嬉しいな。ぼくの嬉しい気持ちに呼応したのか、ぼくの友達たちが物陰からぼくたちの様子を伺っているのが見えた。ぼくは友達たちにしか聞こえない声で「大丈夫だよ。あとでいーっぱいお土産話するからね」と言って、女性たちに手を引かれるまま、ゆきがうっすらと積もっている道を歩いた。
しばらく歩いていると、目の前が少し眩しい場所に着いた。白に赤に……黄色の色が交互に光っては消える不思議な光景に、ぼくは目を丸くした。
「なに? 電飾が珍しいの?」
でんしょくっていうんだ。あれ、すっごくきれいだね。ぼくの住んでいる世界にはないから、珍しくて。
「へぇ。そうなんだ。あなたの住んでる世界で明かりっていったら何を指すのかしら?」
明かり? そうだなぁ、ぼくの世界の明かりはね、提灯かな。ここで友達たちを紹介しようと思ったところで、ぼくはすぐに止まった。もし、ここで友達たちを紹介しちゃったら……この人たちは壊れちゃうかも……せっかく、色々教えてくれているのにそれは嫌だな。そう思ったぼくは友達たちの紹介はやめて身振り手振りで教えた。
「へぇ、わたしたちが見る機会があるとしたらお化け屋敷とかそういう所よね? ちょっと不気味だけど、嫌いじゃなかな」
「その不気味さも、ほかにはない和の風情も感じるし好きかな」
女性たちはなんだか嬉しそうにぼくの世界の明かりについて話をしていた。それを聞いていると、なんだかぼくまで嬉しくなってきた。会ってまだ間もないのに、この女性たちはぼくの話を真剣に聞いてくれるし、ぼくも女性たちの話が楽しくって聞き入っちゃうし。……こうして誰かとお話する機会、今までなかったもんね。ぼくの世界にないものを女性たちが紹介してくれて、逆にぼくの世界にしかないものを話していると、まるで情報のとりかえっこをしているみたいで、とっても楽しい。もっともっと、ぼくの世界のことも知ってもらいたいし、逆にこの世界のことを知りたい。ぼくが口を開こうとしたとき、女性の一人が「あ! 始まるよ!」といい、真っ暗の中にある大きな木を指さした。しばらくして、大きな木の足元から段々とぴかぴか光りだして、最後は木全体が眩しい光に包まれた。
「わぁ! きれい!」
「点灯式に間に合ったね。どう? きれいでしょ? この季節にしか見れない景色っていうのが、これなの!」
まるで魔術を使ったかのように、大きな木がぴかぴかと光りだしたのをきっかけにあっちこっちでぴかぴかと光り始めた。今度は木だけじゃなくって、小さなお花が飾られてるところや誰かが座る場所とかもっともっと色々な場所が光り始めて、あまりの明るさにぼくは一瞬目の前がちかちかしちゃって、手で目をおさえた。
「ちょっと! 大丈夫??」
あ……うん。大丈夫。ちょっと、眩しすぎちゃっただけだよ。ぼくはゆっくり目を明けると、そこには心配そうにぼくの顔を覗き込む女性たちが立っていた。
「眩しかった?? ちょっと休む?」
「あたし、そこで飲み物買ってくるね」
あ……うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ぼくは笑顔を作ってみると、女性は安心したのか胸をなでおろしていた。ごめんね、ちょっと驚いただけだからと付け足すと、女性は首を横に振りながら丸い物が置ける場所までぼくの手を引くと、同じ形をした四つの足がついたものの上に座るように言った。
「あなたの世界のこと、もっと知ってからくれば良かったかしら……。ごめんなさい」
そんなに謝らないで。ぼく、とっても楽しいから。そんなに……悲しい顔をしないで? ね?
ぼくは女性の頬に優しく触れると、女性は小さく頷いた。
「……うん」
「お待たせ。ちょっと休憩しましょ」
そういって戻ってきた女性は白い容器から白いもやみたいなものが出たものを人数分、四角い板の上にのせて運んできてくれた。ほかにも茶色い輪っかのようなものと、白い輪っかのようなものも一緒だった。また見たことのないものに、ぼくはまたわくわくわが止まらなかった。
「これは、ドーナッツっていうお菓子よ。シンプルなものを選んだんだけど……お口に合うかしら?」
白い容器に入ったものは「こうちゃ」っていう茶色い液体だった。嗅いだことのない爽やかな香りにぼくは思わずうっとりした。
「さ、切り分けたわ。召し上がれ」
「いっただきまーす!」
女性が茶色い輪っか─どーなっつを食べると、その顔は幸せに満ちた笑顔でいっぱいだった。ぼくも切り分けられたどーなっつを一口。ふわふわとした食感に、ほんのり甘いそれは今まで食べたものの中で一番美味しいと感じた。
「お口に合ってよかったわ」
「紅茶もどうぞ。あっついから気を付けてね」
ぼくはふーふーしながらこうちゃを一口飲んでみたんだけど、これも美味しくってついついごくごく飲んじゃった。ちょっぴり酸っぱかったけど、このどーなっつと一緒に食べるととっても美味しかった。それから女性たちと色々なお話をして、楽しい時間は過ぎていったんだけど……そろそろ帰らなくちゃ。
「あ……もうこんな時間なのね」
「楽しい時間って本当にあっという間よね。誰か時計いじくってるんじゃないかしら?」
「あ、わかる。絶対時計進めてる説あるわよね」
「進めた奴、絶対許さん。もっとお話したかったのに」
「ほんと。あなたともっと色々お話したかったな」
そう言ってもらえてぼくも嬉しかった。ぼくもたっくさんお話ができてとっても楽しかったよ。ねぇ、もし……もしも、ぼくがまたここに来たら……また、お話してくれる? ちょっと気になって聞いてみた。
「え? もちろんよ。まだまだあなたの世界のこと、知りたいもの」
「絶対っ! また会いましょ! 約束」
ぼくの不安はすぐに消えてしまった。女性たちは満面の笑顔で頷いてくれた。こんなこと、あるんだな。ぼくは二人にお礼を言ってから背を向けた。そして、ぼくが合図したら決して振り返らないことを言うと、女性たちは不思議そうに顔を見合わせていたけど同時に頷くとぼくは指で「3」を表し、「2」、「1」と指を折った。
パン
両手を合わせ音を出すと、それを合図としぼくの友達たちが「待ってました」とばかりに現れた。友達たちはぼくの足首や手首を掴むと、そのままずぶりずぶりと地の底へと引きずり込んでいった。あの女性たちは……あ、ちゃんと背中向けてくれてる。あ、見えなくなる前に……えっと、なんだっけ。さっき、誰かが言ってたんだけどなぁ。
あ、思い出した。
めりーくりすます




