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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット4 お気軽スイーツ☆詰め合わせ(3千文字以下のサクサクストーリー)
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281/452

ライムとレモンの爽やかプチパフェ【神】

「む?」

「あら?」

「おや」

 暗がりの中、これまた珍しい三人が顔を合わせた。一人は水の女神─アプサラス。主に癒しを得意とする彼女は、誰にでも優しく明るく接しそして癒す。そもそも彼女に「怒る」という感情はあるのだろうかと思ってしまうほど、いつどんな時でも笑顔を絶やさない。

 もう一人は戦女神ヴァイセ。クリーム色のロングヘアーを左右に垂らし、腰には白銀色の双剣を差しておりその目には眩い程の希望に満ち溢れていた。

 最後の一人は大きな竪琴を持つ吟遊詩人の男性─シベリウス。鍔広の帽子を深々と被り、手には金色に輝く大きな竪琴を持っていた。物静かな佇まいだが、噂によると彼の演奏を聞くと心が奮い立ったり、穏やかな気持ちになれたりと様々だ。一体どれだけの経験を重ねたのかわからない位ぼろぼろになった彼のマントは、今まで数々の人々を癒し、励まし、勇気づけたかを物語っていた。

「珍しい組み合わせだな。一体みんなはどうしてここに?」

「ヴァイセさんこそ……それに、シベリウスさんまで」

「どうやら、運命の悪戯に導かれたようですね」

 あははと笑いながら、シベリウスは竪琴を鳴らした。ほかの二人は反応に困りながら何か思い当たる節はないか記憶を手繰り始めた。

「……そういえば」

 最初に思い出したのは水の女神アプサラスだった。アプサラスは腰のポーチから小さく折りたたまれた紙を広げた。そして書かれている文字を読み上げると、次いでヴァイセもはっと顔を上げた。

「……わたしの元にも同じ手紙が届いたぞ。それに、この場所は一体……」

「手紙と一緒に入ってた紙にはここに来なさい的な内容で書かれてたから……」

「まぁ、そう暗い顔をしなくても大丈夫でしょう」

 不安の色に塗りつぶされそうな二人の前に、一人だけ冷静なシベリウスは静かに竪琴を鳴らした。さっきとは違い、なんだか心が落ち着くような段々と不安が逃げていきそうなそんな明るくて、温かい音楽だった。

「すみません。シベリウスさん。そうですよね。落ち込んでばかりもいられないですね」

「アプサラスさんが笑顔になると、みなさんも笑顔になります。いつも感謝しております」

「いえいえ。あたし、元気だけが取り柄だから……うん! 大丈夫! きっと乗り越えられるよ!」

 すっかり元気を取り戻したアプサラスは、元気よく腕を振り上げ「おー!」と声を挙げた。その姿にヴァイセも元気をもらい、一緒に腕を挙げた。


 しばらくして、前触れもなく目の前にあった壁のようなものからギギギと重い音がした。辺りに重い音が鳴り響くと、三人は飛び跳ねて驚いた。一体何事かとシベリウスが先陣を切って調べると、中に通じる扉が開いたようだと話した。中とはいったいなんだとばかりにヴァイセ、置いていかれてしまうのではないかと心配になり、泣きそうになりながら慌てて駆け足になるアプサラス。三人が扉の中に入ると、そこは小さなバーのようなギルドのような場所だった。ほんの少し湿気っぽいのが気になるが、今はそれよりもここは何処なのかを知りたいという三人はお互いに身を寄せて辺りをキョロキョロと見回した。

 やがて大きなスクリーンに大きなノイズが生じると、そこから何やら人の声らしき音が聞こえた。注意して耳を澄ますと、「三人で協力して戦え」とのことだった。

「た……戦うって……」

「……ということは、ここは控室のようなものか?」

「……」

 ただ機械的にそう告げたられた三人は役割について話し合いを始めた。

「先陣はわたしが出よう」

「じゃあ、あたしはヴァイセさんの傷を癒すね」

「では私はお二人の健闘を歌にして語り継ぎましょう」

「いや、戦ってくださいよ!」

 戦うとは言わず、歌にするというシベリウスに強烈な突っ込みをするアプサラス。それをやれやれといった様子で見ているヴァイセは、腰から双剣を抜き戦闘の準備を始めた。この中で戦いの経験が豊富なのはヴァイセのみであり、できる限り二人を守りながら戦うと決めたヴァイセの目には先ほどよりも輝きが増して光っているように見えた。準備を終えた三人をまるで見ていたかのように、目の前にあった扉が静かに開くと「入れ」と言わんばかりの圧を感じた。三人は互いに顔を見合わせ小さく頷いた後、扉の先へと進んだ。やがて視界が開けると、そこは大きな円形をした闘技場だった。向かいには既に対戦相手が立っていてこちらをじろりと睨んでいる。

「うう……怖い……でも、この三人なら……!!」

 アプサラスは自分を勇気づけ、両手に水の泡を作り出した。いつでも投げる準備はできてると顔で答えると、ヴァイセは双剣を握り構えた。しばらくして合図が出たのと同時にヴァイセを地を蹴り、先手必勝相手を切りつけた。

(なんだ……いつも以上に身体が軽い)

 いつもと戦っている調子でいたのだが、今日はいつもよりも素早く動けている自分に驚いているヴァイセ。味方たちの方に視線を送ると、そこにはシベリウスが竪琴を鳴らしていた。その音はとても軽快で足だけでなく心までも軽くさせてくれるような疾走感のある音だった。

「まだまだいけるぞ!」

 ヴァイセは目にも止まらぬ斬撃を敵陣営に浴びせた。しかし、敵陣営も一方的ではなかった。なんとかヴァイセの攻撃を搔い潜った一人がアプサラス目掛け向かってきた。

「しまった!」

 今から向かっても間に合わないと悟ったヴァイセに一瞬の隙が生まれた。その隙を敵陣営は見逃さなかった。重く速い一撃がヴァイセに放たれると、ヴァイセは苦悶の表情を浮かべながら吹き飛ばされた。

「ヴァイセさん!」

 予め作っておいた水の泡をクッションにし、ヴァイセの衝撃を吸収してから再度水の泡を作り向かってきた敵に向かって投げつけた。

「えーいっ!」

 水の泡は目の前で勢いよく爆ぜ、直接的なダメージはなくとも視界を濁らせることはできる。その間にアプサラスはヴァイセに癒しの魔法を唱えた。みるみるうちに傷は回復していき、すぐに立ち上がったヴァイセはアプサラスに襲い掛かった敵に一撃をお見舞いしてから、残っている二人に颯爽と向かっていった。

「ヴァイセさん。大丈夫かな。まだ完全に癒えてないのに」

 応急処置を施したとはいえ、ヴァイセの傷は中々に深かったように見えたアプサラスは思わずぽつりと呟いた。念のため、癒しの魔法をいつでも使えるよう準備をしようと両手を広げた瞬間、アプサラスは悲鳴をあげた。

「ひゃあ!!」

 なんと、さっきヴァイセが一撃をお見舞いした敵は気絶から復帰し、アプサラスの足首を握っていた。

「は、離してぇ!!」

 必死に抵抗するアプサラスだが、敵は中々アプサラスから手を離さない。とそこへ、演奏を終えて満足しているシベリウスが笑みを浮かべていた。

「ていっ!」

 言うが早いが、シベリウスは愛用の竪琴を相手の頭目掛け振り下ろしたのだ。ごんと鈍い音と共に敵の一人を完全に気絶させたシベリウスは額の汗をぐいと拭った。まさかの行動にアプサラスはお礼を言いつつ、小さく突っ込んだ。

「え……溜まっていたのかな」

 アプサラスの一言が聞こえているのかいないのかは不明だが、シベリウスは満面の笑みを浮かべながら竪琴を構えなおし、形勢逆転の音楽を奏でた。少々荒っぽさはあるものの、その荒っぽさが逆に気持ちを高ぶらせてくれるような音楽に、ヴァイセは必殺剣を放った。

「聞け! 我が命が奏でる輪舞を!」

 流れるような剣撃に敵陣は一人残らず気絶。こうして三人は見事勝利することができた。これも、三人が息を合わせてできたものだと感じながら三人は互いに拳を合わせ健闘を称えた。


 その日の夜。用意された控室のベッドの上ではヴァイセとアプサラスは既に夢の中だった。それも、シベリウスの生演奏付き。今度はゆったりとした優しい音楽で、聞いているとふわふわと夢見心地になれそうな音だった。

「……ふわぁ……」

 思わず演奏しているシベリウスも眠たそうに目を擦ると、竪琴を静かに置き鍔広の帽子をアイマスク代わりにして床に就いた。

「さて、明日はどんな演奏ができますでしょうか……」

 どこか嬉しそうなシベリウスは、治まらないウキウキを感じながら夢の中へと落ちていった。

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