カラフルポップチョコ【魔】
「……今日も雨ね」
窓に張り付く雨粒を見つめながら大きな溜息を吐く女性─レディ・シトラスは、世界的にも有名なドレスデザイナーである。ベリーショートヘアに明るい緑をさしており、耳には大きなイヤリングをぶら下げている。鍔が広い帽子の側面にはブルーローズを象った装飾をつけており、そのブルーローズから虹色の羽飾りを付けている。
レディ・シトラスは自室兼オフィスで新作ドレスのアイデアを練っていた。今度の新作は誰でも気軽に参加ができて且つ晴れやかなものをイメージしてはいるのだが、こうも続く雨のせいなのかアイデアがさっぱり浮かばずもやもやしていた。レディ・シトラスの傍らには巨大な万年筆のようなものが置かれており、イメージが浮かべばその万年筆がさらさらと走り下書きが完成する。
「……ふぅ。だめね」
何度かイメージをしてはみるものの、どうしても納得のいくものができずにすっかり冷えた紅茶を一口含むと、ドアからノック音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼致します。新しい紅茶をお持ちしました」
額から二本の鋭い角を生やした服飾の仕立て屋ミシェイリアス。とても礼儀正しく、彼が経営するお店はとても繁盛しているのだが、現在はレディ・シトラス専属となっており休業状態になっている。彼が仕立てる衣装はどれも一級品で世界的有名なドレスデザイナーと力を合わせれば鬼に金棒となり、瞬く間に有名となった。レディ・シトラスからの製作依頼がない時は、こうしてレディ・シトラスの身の回りをお世話することになっており、普段からそういったことに慣れているミシェイリアスにとってはなんら変わらない生活となっている。
「早くしないと……」
ぎりりと唇を噛むレディ・シトラス。焦る理由は納期……ではない。それは、自身の若さを保つためであった。レディ・シトラスは魔族であり、傍らにある万年筆で描かれた下書きは魔力を含み、その衣装を身に着けた者の魂をほんの僅か吸い取り自分の力に変え美貌を保っているというなんとも危険なことをしているのである、しかし、その吸い取る量というものがかなり微量なもののため、そこまで被害はなく普段生活している分にはなんら支障はない。そのおかげでレディ・シトラスは美貌を保ち文字通り「美魔女」として囁かれている。そして今、新作のアイデアが浮かばないということは、新しく衣装を着る人から魂を吸い取ることができなくなり、美貌を保てなくなってしまうという。そうなってはドレスデザイナーとしてやっていくことが危ういと感じているからこそ、焦燥感が拭え切れていないのである。
「……この季節は雨が多いですからね」
静かに新しい紅茶を置くミシェイリアス。その言葉にはどこか温もりと労いが込められていた。うんうんと唸るレディ・シトラスは新しく淹れられた紅茶に手を伸ばし、一口含むと目をぱっと輝かせた。まるで口の中に咲き誇るバラ園が広がったようなそんな感覚に陥ったレディ・シトラスはしばらく沈黙した後、恐る恐るイメージをした。
「えっと……バラ……バラ……うん」
バラにも様々な色があってもいいと想像すると、それに万年筆が呼応しゆっくりとではあるが紙の上を歩き出した。青く光りながら描かれる足跡は徐々に速さを取り戻し、徒歩からスキップ、ジョグへと変わりそこからはもう止まらなかった。アイデアの泉がこんこんと湧き出てレディ・シトラスは「あれもいいわ。うん、これもいい」と呟きながら新作のアイデアを思い浮かべていく。アイデアの山が出来上がる頃には、レディ・シトラスの顔はすっかり満足したような笑顔が戻っており、残った紅茶を楽しんでいた。
「ミシェイリアス。あなたのおかげよ」
「勿体ないお言葉です。では、何かあればお呼びください。わたしは仕立て作業に入ります」
アイデアがの山を抱えながらミシェイリアスは退室した。残ったレディ・シトラスは窓に張り付く雨粒を見つめ小さく笑った。
「……雨。最初は嫌な思いしかなかったけど……考え方によっては悪くないわね」
一仕事終えたレディ・シトラスの表情は次の仕事への希望で満ち溢れていた。




