ひまわりのサブレ【神】
おはよう。今日もいい天気を分けてくれてありがとう。
わたしは天井に大きく開けられた透明な窓から見える大きな太陽に挨拶をする。気持ちの良い朝に思わず大きく背伸びをして気持ちを入れ替えると間もなく、部屋の中に誰かが入ってきた。
「セレフィナ様。朝ごはんをお持ちしました」
まんまるのお皿に盛られていたのは、花の蜜がたっぷりとかけられたスコーンだった。この花の蜜は、ここ─ロザの名産で季節のよって味が変わるということで有名なの。春はとろんとしてて甘味がたっぷり、夏はさっぱりとした甘みが特徴で、秋は春よりもとろみと甘味が強くて、冬はちょっとさらさらしててあっさりしているの。
ロザは花の女神様であるフローラ様の加護を受けていて、一年を通して色とりどりの花が咲くの。そしてわたしはフローラ様から結界の神子に選ばれ、こうして毎日太陽にお祈りをしているの。丸く切り取られた窓から見えるのは、色とりどりの花に喜んでいる人、花の香りを楽しんでいる人、その様子を眺めている人たちが見えたの。こうしてお花に恵まれたのもフローラ様のお陰。わたしはそのお花たちとこの街に住む人たちを守る役目があるの。わたしが毎日お祈りをすると、街に透明な膜が張られてその膜はお花の噂を聞きつけた悪いひとたちから守ることができるの。中に入れないだけではなく、時々迷路のように道をくねくね曲げて出口に繋がるようにしてみたりと、街を守る方法はたっくさんあるの。
ある日、街の外に見えたきれいなお洋服を着た女の子が見えたの。わたしはそのお洋服を一目で気に入っちゃったの。だって、わたしが着ているお洋服よりもずっと可愛ったんだもの。わたしは毎日同じ白いフリルの神子服を着ているのだけど、それももちろん可愛い。可愛いんだけど……。きれいなお洋服を着た女の子は街の外から中の様子をじっと見て、しばらくしたらくるっと背中を向けて帰っていったの。危害を加える様子は感じられなかったけど、わたしは本当はもう少しそこにいて欲しかったなという気持ちがあった。違うかな……正確にはもう少しあの可愛いお洋服を見ていたかったのかもしれない。
あれから毎日、あのきれいなお洋服を着た女の子が来るようになった。そしてその度、わたしは窓からその様子をじっと見ていたの。何か欲しそうに視線を動かしているけど、街の人からはそれを見ることはできない。見えるのはわたしだけ。本当は声をかけたいだけど、それはタブーとされていてできない。じゃあ、何ができるかって言われたら……何もできないって答えるしかできない。そして、その女の子は諦めるように街へ背を向けてとぼとぼと帰っていった。
その日の夜。わたしは空を仰いだ。空には三日月が浮かんでいて、その光は天井に開けられた窓から柔らかい光で部屋の中を照らしてくれた。その時、三日月がきれいだったのかわからないけど、わたしは思わず三日月に問いかけていた。
わたしは……外の世界を知ってはいけませんか?
わたしは結界の神子。街を守るために存在する者。もし、わたしが外へ出てしまったらここに住む街のみんなを守ることができなくなってしまう。だけど、ほんの少しだけでもいい。外の世界がどんな景色なのかを知りたい。外の世界が何色に塗られているかを知りたい。ただそれだけ。それだけを知ることもできないというのなら……わたしは……。
三日月からの返答はなく、わたしはただゆっくりと傾いていく三日月を見ることしかできなかった。
そして、また太陽が顔を出す。今日も祈らなきゃ。みんなが悪いひとたちに襲われないように。みんなの笑顔を守るために。
わたしの頬から一筋の雫が零れた。




