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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット4 お気軽スイーツ☆詰め合わせ(3千文字以下のサクサクストーリー)
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強めに弾けるコーラポップキャンディ【魔】

 いつもの場所に妹がいない。ほかの人間にそう言っても大したことないだろうという反応だろう。だが、おれは違う。唯一の肉親である妹がいないとなると、それだけで夜も眠れない。あいつを……あいつを探しにいかねば。


 おれ─ガヤンギースは、一国の聖騎士団に所属し毎日任務や訓練に勤しんでいる。元々剣術は得意だったし、ほかにできることがないと思っていたおれはダメ元で聖騎士応募のチラシに申し込みをすると、呆気なく採用となった。人が少ないのか、それとも採用担当者の目がつかれていたのかはわからないが、おれはこの機会を逃さぬよう最善を尽くした。おれの両親はいつの間にかいなくなっていて、物心つくころには年が少し離れた妹と暮らしていた。両親がいないおれたちは自分たちができる最善のことを選びながら苦しい生活を送っていた。近所の子からもいじめられて毎日辛い思いをしている妹を少しでも楽をさせてやりたい。聖騎士団に入団する動機はこれ一本に固まり、面接を担当してくれた人にそうまっすぐ伝えるとその面接官はうんうんと何度もうなずきながら書類にサインをすると、それをおれに寄越した。

「お前の活躍、期待している。無理のないように励んでくれ。妹さん、心配させない程度に……な」

 その一言がおれを奮い立たせてくれたといっても過言ではなかった。見た目は少し強面だったのだが、あの一言を言っているとき、ふっと表情が緩んで見えた。


 毎日厳しい訓練を終え、自宅に帰ると妹は真っ先に俺に抱き着いた。よほど心配したのだろうか、その顔はとても疲れていた。

「お兄ちゃん、お帰りなさい。今日も訓練、お疲れ様」

「ああ。遅くなってすまない」

「ううん。さ、そんなことより早くご飯食べよ」

 前より資金が手に入りやすくなり、食事も満足に摂ることができるのも、おれがダメ元で聖騎士団に応募した結果なのかもしれない。何がなんでも妹はおれが絶対に守って見せる。おれは口に出さずに決意を固めながら妹が作ってくれた料理に舌鼓を打った。

 食事が済んでしばらく、おれは訓練の疲れがどっと出たのかいつの間にか片付けも手伝わずに眠ってしまった。深い深い睡魔に襲われたおれはその眠気に抗うことができず、そのまま手を引かれてしまっていた。どこからか入ってきた冷気に気が付いたとき、おれはゆっくりと目を開けた。

「……眠ってしまったようだ」

 頭の中でぐわんぐわんと何かが鳴り響いているような感覚に眉をひそめると、食事のとき真正面に座っていた妹がいなくなっていた。それどころか、妹の気配を感じないことに違和感を覚えたおれはすぐに妹の部屋を見て愕然とした。この時間帯、いつもならお気に入りのベッドに座って本を読んでいるのだが、今部屋にあるのは虚無だけだった。

「あ……あいつは……どこにいったんだ」

 おれは目の前の光景が信じられず、頭を振っていると足元に紙がこすれるような音がしたのに気が付いた。なんだと思いそれを拾い上げると、内容はまるでおれを挑発をしているかのようなものだった。

「おまえのいもうとはもらった。かえしてほしければまかいまで」

 わざとなのか、それとも遊んでいるのか。書かれている文体は笑っているかのように少し癖があった。おれは文章を読み終えると、ふつふつと怒りが湧き上がっていた。おれの大事な妹を……たった一人の肉親を奪われたおれはどんな手段を使ってでも妹を取り戻すと誓うと、妹の引き出しから便箋を一枚失敬し一文残した。

「妹が誘拐された。そのため、しばらく帰ることができません。申し訳ございません」

 短くそう書き残し、魔の者がまるでおれを誘うかのような歪んだ空間を用意していた。おれはそれに頭を突っ込みゆっくりと空間に飲み込まれていった。次第に濃くなっていく魔界の空気に気分が悪くなってくるのを必死に堪え、ようやく降り立った魔の地。一刻も早く妹を救出し、ここから脱出せねば。おれは特に当てもなく歩いていると、妙に足元がびりびりと痺れる感覚に何度か襲われた。これは一体なんだと原因を探るよりも妹の居場所の手掛かりが欲しかったおれは、一歩踏み出す度にびりびりと痺れる感覚に無理やり慣れていった。

 やがて少し広い場所に出ると、そこは一段と空気が重くじめじめしていた。おれが住んでいた世界とは打って変わって非常に動きにくい。何かが纏わりついているような感覚も途中から加わったことで更に不快さは増していった。さらに嫌なものは重なるもので風邪の初期症状のようなだるさ、喉のいがいが感が妹を探したいという思考にノイズを走らせる。早く、早く妹を……探して帰らないと。いつまでもここにいるのは命に関わってくるかもしれない。それは足元のびりびり痺れる感覚からしばらく経過した今、おれの内側にも被害が及んでいた。それは精神的に苦しくなってきたということ。奥へ進む度、嫌な記憶や不吉な出来事が頭をよぎる様になり慣れない魔界の空気とダブルで疲弊していた。

「あいつは……どこ……だ」

 体力には自信あるのだが、このままでは……と考えていると、おれの目の前で紫色の風が小さく渦巻いているのが見えた。何かと思いしばらく待っていると、現れたのは小さな小悪魔だった。

「だ……誰だお前は」

 おれが問いかけると、その小悪魔はにやりと笑いながら口を開いた。

「お前の妹をさらった奴だと言ったら……どうする?」

 その言葉に一気に頭に血が上ったおれは、その小悪魔の首根っこを掴み睨みつけた。しかし、小悪魔はただにやにやと笑い続けながら続けた。

「お前の妹はオレが預かってる。返してほしけりゃこの先にある城まで来い。来れるものなら……な」

「貴様ぁあ!!」

 馬鹿にしているような物言いに、おれは遂に我慢がならなくなり腰から剣を抜き小悪魔に突き付けた。それでも小悪魔は臆することなくむしろおれを嘲笑うかのように宙をくるりと回った。

「というか、よく魔界まで来たな。さぞ人間のお前には辛かろう。それにだいぶ奥深く耐えられたな。さぁて、あとどのくらいお前がお前であるのか楽しみだな。頑張れなー」

 けけけと笑いながら小悪魔は消えると、おれはふと思った。この魔界の空気に毒されながら仮に妹を見つけることができても、おれはおれを保ったままあいつと帰ることができるのか……?いや、帰るのだ。おれはどうなったっていい。あいつが……あいつが元の世界に帰ることができるのなら、おれはどうなったって……。

(妹さんに心配かけない程度に……な)

 ふと聖騎士団入団面接の映像が浮かんだ。そうだ。おれがいなくなったら、あいつは一人になってしまう。だから、おれはあいつと一緒にここから出ないといけない。そのためなら、おれはこの苦痛に耐えてみせる。

 あの小悪魔が言っていた言葉をそのまま信じるのなら、この先に城があるはずだ。そこで妹を救出し脱出する方法を聞き出し、生還。そう、簡単なことだ。この痛みさえ我慢すれば、どうってことない。あいつが受けている苦痛に比べれば、こんなもの大したものではない。おれは前よりも痺れる感覚が強くなっていることなどどうでもよく、今はただ妹を救出することだけを頭に、あの小悪魔が言っていた城を目指した。たとえ、それが罠だったとしても……おれは……。

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