ぐるぐるトルネードチョコロネ【魔】
カスタードクリームのような艶やかなロングヘアーに銀色に輝くティアラをのせ、薄目のアイスブルーのドレスとヒールは見ているだけで涼しい印象を与えてくれるような色味だった。彼女の名前はフィオーナ。一国の女王を担い、間もなく数年の月日が経過する。彼女の評判は良く言えば「さっぱりしている」、悪く言えば「冷たい」と意見が多く挙がっている。常に目を光らせながら歩く姿は女王よりもそれよりも上の存在なのではないかと思うほどに凛としていて、それでいて恐怖をも感じさせる。
今日はそんな彼女に謁見を申し込んだ他国の者が来ると聞いていたフィオーナは、気怠げに首を回しながらこつこつと赤い絨毯の上を歩いていく。応接間に到着すると、そこにはおどおどとした兵士が立っておりフィオーナを見るや顔は真っ青になり顔から大量の汗をだらだらと流していた。
(……はぁ。時間の無駄だわ)
内心そう思いながらも、フィオーナは軽く会釈をしここに来た理由を尋ねた。すると兵士は目を泳がせながら声を手を震わせながら説明を始めた。だが、結局何が言いたいかわからないため、フィオーナはついには大きな溜息をわざと吐き、目を尖らせながら一言。
「消えなさい。今すぐに」
まるで汚物を見るかのような眼差し、氷のように冷たいその一言はその場にいる全員を一瞬にして凍らせた。目を泳がせていた兵士はすでに涙を浮かべ自分だけでは立てなくなってしまうほどの恐怖を感じ、フィオーナの側近に抱えられそのまま外へと連れ出されていった。
「本当に時間の無駄だったわ」
髪を整えながら応接室を後にし、自室へ戻るフィオーナ。窓の外ではおんおんと泣きながらうずくまっているさっきの兵士が見えたフィオーナは「まだいたのね」と冷たく言い放ち、ぷいと視線を戻した。
「本当ならこの力を使ってもよかったのだけど……さすがにそれはやりすぎよね」
フィオーナが手を広げると、手のひらの上では白色の渦がぐるぐると渦巻いていた。それはさながらトルネードの子供とでも言おうか。手のひらに意識を集中させるとその子供は徐々に大きくなり壁にかけられていた絵画ががたがたと音を立て始めた。
「これ以上はまずいわね」
トルネードの子供を握ると、風が一瞬で消え絵画から聞こえていた悲鳴はぴたりと止んだ。これ以上大きくなってしまってはこの城が飲み込んでしまうことなど容易になってしまう。それはさすがにまずいと思ったフィオーナは自分の力を制御し、自室へ向かった。。
少し前までは、何か気に食わないことがあれば否応なしにこの力を使い誰彼構わず吹き飛ばしていたのだが、とあることがきっかけでそれを克服することができた。とはいえ、完全にとまではいかずとも前よりも被害が少なったという方が正しいかもしれない。今回もその一例に含まれ、相手を冷たい言葉で一蹴するだけで済んだことは彼女が成長した証になるのかもしれない。
それは、小さな小さなティータイムだった。何もかもが時間の無駄だとはねのけていた彼女が、側近からすすめられた紅茶を口にしてからというもの、毎日この時間がないと落ち着かないくらいまでに待ち遠しいものとなっていた。自室に着いたフィオーナはいそいそと着席し、運ばれてくるお茶に心を躍らせていた。
ほどなくして目の前に運ばれてきた紅茶の香りにフィオーナの顔は一瞬で解れ、さっきまでの冷たい表情はどこかへ吹っ飛んでしまっていた。
「お待たせいたしました。本日はダージリンとプチパンケーキをお持ちしました。プチパンケーキにはダブルベリーソース、カスタードソース、ホイップクリームを添えてみました。どうぞお召し上がりください」
「あぁ……なんて甘い香りなの。いただくわ」
ほんのりバニラの香りが漂うプチパンケーキにうっとりしながら、フィオーナはその甘い時間をじっくりゆっくりと噛み締めた。
(……もう少し自分を見つめる時間を取っても悪くないかもしれないわね)
甘い香りからの提案にフィオーナはうんうんと頷きながら、今後はもう少し自分を見つめてもいいかもなと思いながら、小さな小さなティータイムを優雅に過ごした。




