プチライアーパフ【魔】
「昨日未明、○○ストリートで顔のない遺体が発見されました。被害者はアスティン・カーラと思われる証言が多数挙がっております。ここ最近、同様の事件が頻発しており、警察は警戒を強めているとのことです」
がさついた画面から流れてくる不穏なニュース。事件の内容を読み上げる男性の顔は「またか」といった様子でコメンテーターに意見を求めると、これまた同様にコメンテーターも同じような顔をしながら見解を述べた。
「またですって。あなた。気を付けないと」
「そうだな。夜の外出は控えないとな」
「そう……ね」
画面を見ながら夫婦はそういうと、静かに画面の電源を落とした。男性はぴしりとしたタキシード、女性はふわりとした純白のドレスのような装いで自宅を出た。少し買い物に行くには相応しくないようにも思える格好ではあるが、夫婦はそんなことを気にせずに燦々と降り注ぐ太陽の下を優雅に歩いた。
いつからだろうか。こんな事件が起こっていた。夜遅くに女性の顔がずたずたに引き裂かれるというあまりにも凄惨な事件が起こった。被害者には共通点はなく、無差別的に行われているこの事件の犯人は未だ捕まっていない。初めて事件が起こってからすでに数か月が経過しようとしているのにも関わらず、犯人が捕まらないということに、警察はもちろんメディアもうんざりしていた。なかにはもう犯人は捕まらないだろうという住人もいてか、ここまで警察が何もできないというとなるとそう思う人が出てもおかしくなかった。それに、こうも被害情報ばかりで警察がなにも成果をあげていないことに住人もうんざりしていて、気を付ける人とそうでない人とで壁ができつつある。この町は比較的大きい部類に入るのだが、住人の大半が女性ともありその壁はますます固く高くそびえるものとなっていた。
しかし、こうも緊張状態が続くと体だけでなく心も疲弊してしまう。そこでこの町には夜だけ開く町内にあるホール内にて小さなパーティのようなものが開かれている。それは事件が起こる前から行われており、ちょっとした気晴らしにはちょうどいい場所となっていた。そして、パーティの帰り道に事件が起こったという話に繋がる。
今日も事件のことを忘れようと、ホールにはたくさんの住人が集まっていた。中にはうんと着飾りいつもの自分とは違った自分を楽しんでみようとする人が多く見受けられた。その中に、さきほど画面を見て夜には注意しないといけないと言っていた夫婦が混じっていた。その夫婦も出かけるときのぱりっとした装いとは違い、何倍もの豪華な装いで軽快にステップを踏んでいた。軽くシャンパンを口にし、心地よい酔いに心も解れてきた女性は、ふと夜風にあたりたくなり、ホールの外へと出た。少しひんやりとした夜風が、女性の頬を撫でると事件のことなど考えることなどバカバカしいと思った女性は軽く背伸びをして空に浮かぶ小さな瞬きを眺めていた。すると、女性の近くから誰かが歩いてくる音が聞こえた。ヒールのようなこつこつとした足音が徐々に近付いてくると、女性は誰かしらと意識をそちらに向けた。
金色の髪にどこか虚ろな瞳、メロンソーダのようなふわふわのドレスに身を包んだ少女が女性に近付いていた。長年、この町に住んでいるけどこのような少女を見たことがない女性は不思議に思い、少女に声をかけた。
「あなた、この町に住んでいるのかしら?」
「……」
女性の問いかけに答えない少女。ただ、視線だけはまっすぐに女性をとらえており何か言いたそうに訴えていた。
「えっと……どこから来たのかしら?」
「……」
質問を変えて問いかけてみるも反応はなく、ついには困ってしまった女性。どうしたらコミュニケーションがとれるかを考えていると、女性は少女が身に着けているドレスに着眼した。
「あなたのそのドレス、とっても素敵ね」
配色がきれいなドレスを心から褒める女性の顔には、満面の笑顔が浮かんでいた。それは純粋にそのドレスが素敵だということを証明している。自分にもこんな素敵な配色のドレスがあればなぁと考えてしまったのは内緒だが、女性は手を合わせ少女を褒めた。
「もしよかったら、そのドレスが売っているお店を教えてほしいわ」
「……お」
「え?」
少女の口から零れた言葉が聞き取れなかった女性は、もう一度何て言ったかを確認するため少女に問いかけた。
「今、なんて?」
すると少女はけたけたと笑いながら右手を上げた。上げられた右手には何か禍々しい赤黒い煙のようなものが纏わりつき、見ただけで恐怖を覚えるのは容易だった。
「あ……あああ……」
「あなたの貌、とっても素敵ね。ねぇ、お願いがあるのだけど……」
「ひ……ひぃ……!」
恐怖で立てなくなってしまった女性に少女が近付くと、女性は涙を浮かべながら何度も後ずさった。しかし、そこには壁がありこれ以上は逃げることが適わないとわかると、さらに大粒の涙を流した。
「あなたのその笑顔、ちょうだい?」
「い……いやぁあ!!」
「大丈夫よ。すぐに終わるから……ね」
ザッ
一瞬にして振り下ろされた右手は、女性の顔を引き裂いた。そして少女は右手にこびりついた女性の顔を自分の顔に当てはめた。
「あは……あはははは! 素敵な笑顔もらっちゃったー! あは、あははは!」
赤黒いワインをぼたぼたと零しながら少女の顔に張り付く女性だった顔からは生気は感じられない。ただそこにあるのは、恐怖という名の仮面だった。
「ねぇねぇ。これ、あたしの顔? ねぇ、あたしの顔ってどんな顔? どれが本当の顔?」
少女は何度も女性に質問をしても、女性からの返答が返ってくるわけもない。何も答えない女性に「もう」と言いながら突き放すと、少女は新しく手に入った顔を手に持ちながら闇へと消えていった。それからしばらくして、ホールが閉まる時間帯になり皆が帰り道に見たのは顔面がばっくりと剥ぎ取られた女性の亡骸だった。




