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抹茶バニラのどら焼き【竜】

 新緑が深まる季節。あちこちでは心地よい風に包まれながら、たくさんの人たちがカメラを構えていた。いわゆる青紅葉を一目見ようとある庭園では入場制限がかけられるほどの賑わいだった。そんな行列を不思議そうな目で眺めている少女がいた。山吹色の着物に朝日に照らされた大地のような輝く茶色い髪を腰まで伸ばし、その頭には小さな風車を模した簪を挿していた。

 少女の名前はちかぜ。風車職人として自作の風車を各地で売り歩いている。少し足を延ばしてみようと思い、知らない場所へと足を踏み込んだらどうやら自分の住んでいる場所とは程遠い場所へとやってきてしまったちかぜは、不安の中に期待が光る顔で歩いていた。ちかぜの帯には数種類の風車が風を捉え気持ちよさそうにくるくると回っているのを見た通行人からは「あの風車可愛いね」と声をかけられ、ちかぜはなんだか嬉しい気持ちになった。

「あたしの作った風車でみんなを笑顔にしたい」

 そんな気持ちから始めた風車職人。元々手先が器用だったこともあり、師匠からの手ほどきもそこそこに作品を作ることができてしまった。そこからはちかぜの感性に任せ、師匠はそれ以上ちかぜには言わなくなった。やがてちかぜは一つの願いを抱くようになった。それは、各地に風車を広めたいということだった。昔ほど風車を手に取る人は多くないことを知った上で、ちかぜは師匠からの教えと自分の感性を武器に広める旅を始めた。そこでしか手に入らない素材を用いり作った風車は、どれもこれもが魅力的で小さな子供から大人まで幅広く人気だった。そしてそれをモットーとして掲げているうちに、ちかぜの風車は瞬く間に人気となり話題となった。

 そんなちかぜが今いる場所。それは、なにやら大きな石の畳が並んでいて、たくさんの人が行き来している場所だった。ここは一体どこなのだろうと思ったちかぜは、近くにあったお店に入り情報を仕入れた。すると、ちかぜの耳に入ってきたのは聞いたこともない地名だった。一体なぜここへとたどり着いてしまったのか理解が及ばなかった……が、ちかぜはそれを逆に考えてみた。何かいいことがあるかもしれないから、ここへ来たのだと。そう考えるとなんだかわくわくがとまらないちかぜは、情報を提供してくれたお店の人に満面の笑顔と自作の風車を手渡した。

「あら! 可愛らしいな。ほな、これ持っていき」

 ちかぜの風車を受け取ったお店の人は、なにやら小さな箱をちかぜに手渡すとにこっと笑った。

「よかったら道中で食べてな」

「あ、ありがとうございます!」

 こうして笑顔で別れたちかぜは、小さな箱をしっかりと持ちながら人の流れに身を任せてみた。大きな流れに身を任せ辿り着いたのは大きな寺院だった。そこではなにやら小さな紙と紙を交換している様子を目撃したちかぜ。しばらく見ているとそれはお金だということがわかり、ちかぜは手持ちのがまぐちから小銭を取り出し、紙と交換した。「拝観券」と書かれているが、ちかぜには読めずなんだろうと首を傾げながら先へと進むと、ふっと爽やかな風がちかぜの横を通り抜けた。透き通ったその風は、ほんの僅かに汗ばんだ額を刹那的に冷を感じさせてくれた。帯に挿していた風車が同時にくるくると回りだし、その効果は更に倍増され一気に涼しく感じた。少しずつ歩いていくと、今度はまるで舞台のような場所が見えた。天気がよく日差しもたっぷりの場所に近付くと今度は一気に解放感を感じることができた。その解放感を感じたまま、目下に視線を移すとそこにはまた美しい青紅葉が小さく揺れていた。

「まぁ。なんて素敵な場所なんでしょう」

 澄んだ空気に絶景。これほどまでの贅沢があっただろうか。ちかぜは小さく笑いながら先へと進んだ。人の流れに沿って進むと今度はさっきまで自分が立っていた場所が見える丘に着いた。そこではたくさんの人が小さな黒いものに向かって笑顔を向けていた。なんだろうと思い、首を傾げているとちかぜの視線に気が付いた女の子が「あっ!」と声を挙げた。

「あなた……その風車、とっても可愛いね」

「あ、ほんとだ。しかも……色使いが繊細」

 帯に挿している風車を見つけた女の子は次々にちかぜが作った風車を褒めていた。そして一人の女の子がなんとも言いにくそうにしていると、その女の子は意を決し口を開いた。

「……もし、よければそれを手に取って写真撮ってもいいですか?」

 写真……という言葉にピンとこなかったちかぜは、とにかくこの風車を手にしたいということがわかり、帯から風車を取り女の子たちに手渡した。

「はい。どうぞ」

「わぁ……ありがとうございます! すぐ返します!」

 そう言い、女の子たちは小さい黒いものに向かって眩しい笑顔を向けていた。そしてそれを見た女の子たちは一斉に歓声を挙げた。

「すっごい……きれい。可愛い!」

「ほんとだ! 可愛い!」

 女の子たちが喜んでいる様子を見て、嬉しくなったちかぜはその子たちに近付き「よかったら、差し上げます」と言った。すると女の子たちは顔を見合わせまた大きく喜んだ。

「ありがとう! 大事にする!」

「あ、せっかくだしさ、お姉さんも一緒に写真撮ろう!」

「しゃしん……?」

「ほらほら。こっちこっち!」

 女の子たちはちかぜを真ん中に立たせた。小さい黒いものを持った女の子が「こっち見てぇ」と合図を送り、視線を集めた。

「あの子の手を見ててくださいね」

 一人の女の子がちかぜにそう言うと、ちかぜは小さく頷き指示された場所を見つめた。

「笑って笑ってー」

 次の指示が飛んできて、ちかぜは薄く笑みを浮かべると小さくて黒いものから「かちり」と音が聞こえた。そしてものの数分で一枚の紙がちかぜに手渡された。

「はい! 可愛い風車をくれたお礼!」

 それはさっきみんなで映った写真だった。みんな心から嬉しそうな笑顔を浮かべ映っている様子に、ちかぜは感じたことのない喜びを感じていた。

「本当にありがとうございます。あたしも大事にします」

「えへへ。よかった。お姉さん、またねー」

 こうして女の子たちと別れたちかぜは、ふと胸にある思いが芽生えた。それは、もっとこの世界を知りたいという純粋な思いだった。知らないからこそ知りえることがもっともっとあるのではないかと思うと、ちかぜは動かずにはいられなかった。

「もっと……知りたい。知って、その思いを……風車に……!」

 夕日に照らされたちかぜの顔は、それに負けないくらいに輝いていた。

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