パールピーチと抹茶ムースのぷちたると【神】
肌寒かった季節が退き、その代わりに一年の始まりを告げる季節が目を開いた。草木は芽吹き、頬を撫でる風は温かく、なんだか心まで弾ませてくれるような不思議な魔力を持っていた。あちこちで新しい一年の到来を喜んでいる中、とある村でも歓声が起こっていた。
その村では新しい神降ろしの巫女が選ばれたとのことで、そこに住む人たち全員で誕生を祝福していた。選ばれたのはエルフィリア。まるで桜のような髪色に、同色の着物を身に着けまるで春のような温かな笑みを絶やさないごく普通の少女だった。先代が病で伏してしまい、村の少女の中から選ばれたエルフィリアは普通の生活を送っていた。それが突然、神降ろしの巫女に選出されたことにより、劇的に変わったかと言われればそうでもないらしい。
生活は今までとさほど変化はないのだが、強いて言うのならばひと月に何回かお祈りをするくらいだそう。特に季節が変わる節目は頻度が増えるくらいで、あとは普段の生活をしていてもいいとのことだった。一時はどうなってしまうのかと心配していたエルフィリアは胸を撫でおろし、村長に深々と挨拶をしたあと、村のみんなに挨拶回りを始めた。みな、新しい巫女が誕生したことを大いに喜んでいて、中には大粒の涙を流す者もいた。エルフィリアはそっと寄り添い、彼女にしかかけられない優しくも温かい言葉を紡ぐと、ふっと表情を柔らかくし小さく頷いた。
挨拶周りが終わったところで、エルフェリアはふと村の外が気になり一人出かけて行った。村の人たちには「そんなに遠くに行きませんのでご安心を」と言い、まるで行先が決まっているかのような足取りで村の外へと言ってしまった。エルフェリアには先代のような戦闘能力はなく、彼女にあるのは枯れ木に花を咲かせることくらい。なので、村の出入口を警護している者から「本当に大丈夫だろうか」と村長に申し出をしてみるも、「これもあやつのためだ。なにかあったのだろう」とだけ言い、家の中へと入ってしまった。村長がそういうのならそれ以上は何も言えないと思った警護している者はあまり納得のいかない様子のまま出入口の警護へと戻った。
村の人たちの心配を他所に、エルフェリアはとてとてとどこかへ向かうとそこには傷だらけの女性が倒れていた。真雪のような白と黒檀のような黒がとても特徴的な髪色、そして黒檀のような黒い衣装を身に着けていて背中には女性以上の長さの太刀があった。
「ぐ……油断した……」
かなりの深手を負っており、傷口からは出血が止めどなく溢れていた。そこへエルフェリアがそっと近づき傷口に向かって手を広げた。
「な……何を……」
「そのまま、ゆっくりと深呼吸をしてくださいな」
「……あ……ああ」
エルフェリアは女性の傷口に手を広げてしばらくじっとしていると、傷口付近が温かくなってきたことに気が付いた女性は思わず小さく声を挙げた。
「傷が……塞がっていく?」
「もう少し……もう少しですからね」
エルフェリアが緑色の膜を展開すると、傷口はゆっくりと確実に口を閉じていき、膜が消えるのと同時に口はしっかりと閉じ、なにも零さなくなった。
「はい。手当が完了しましたよ」
「あ……ああ。すまない……その……」
「あたしはエルフェリア。近くの村で巫女……になったばかりなの。これから村に戻るのだけど、よかったらあなたもどうかしら?」
「え……ええ? い、いいのか……?? あ、名乗っていなかったな。拙者はアンゼ。剣士なのだが、不覚にも背後から襲われてしまってな……さっきの有様よ。ありがとう。エルフェリアがいなかったらどうなっていたか……」
「うふふ。なんだか風が少し騒がしくてね。さぁ、一緒に村へ帰りましょ」
「……エルフェリア殿。この御恩は一生忘れません!」
アンゼと名乗った女性剣士はまるで忠誠を誓うように敬礼をすると、エルフェリアはくすくすと笑いながら手を伸ばした。
「そんな堅苦しくしないでいいんですよ。普段のあなたのままで、あなたらしくいてくれるだけで嬉しいのだから」
「あ……」
ふわりと吹いた春風。それと同時にアンゼの中に芽生えたひとつの決意。それは、「生涯をかけてもこの方を守り抜く」ということだった。今までにあのような温かい笑みを向けられたことがあっただろうか、あんなに優しい言葉をかけてもらったことはあっただろうか。アンゼは今までの経験からそういったことがなかったことを確認すると、再び春の陽気のような温かな笑みを向けてくれるエルフェリアを守りたいと心から誓った瞬間だった。エルフェリアに手を引かれて村へと入るアンゼは周りから「どうしたの?」といった目で見られながら村長の家へと入ると、エルフェリアから村の外で倒れていた方を救護しましたと報告の後、アンゼは簡単に自己紹介をした。村長はアンゼの背中にある巨大な太刀に目を向け、警護の仕事をしてくれるなら村にいてもいいと言った。元々(エルフェリアの)警護をするつもりだったアンゼは二つ返事で了承し、早速警護をする者たちに挨拶をして回った。最初、女性ということもあってかあまり真面目に挨拶をしてくれないことにむっとしたアンゼだったが、いざ実際に稽古で挨拶をすると真面目に挨拶をしなかった者たちの態度は一変した。それからというもの、アンゼはエルフェリアの側近になれるまで何度も何度も修行を積み、村にきてから数か月でその許しを得た。それは愛ゆえの成せるものなのだろうか。アンゼは改めて(エルフェリアの)警護の仕事に就ける喜びを深く噛みしめていた。
一方その頃。エルフェリアは村の人たちとおやつの準備をしていた。村で採れたもち米と小豆を使いおはぎを作っていた。みんなが笑顔になれるよう、ひとつひとつ丁寧に作っていると遠くから聞いたことのない声が聞こえた。
「巫女さまぁあああ!」
土煙を巻き上げながら走ってくるアンゼに村の人たちは驚いているのだが、当の本人はくすくすと笑うだけだった。できたて作り立てのおはぎを丁寧に皿に盛りつけ、自分の側近になってくれたあの人へ心を込めて。
「おかえりなさい。そして、お疲れ様です。どうぞ召し上がってください」




