ぱらそるてぃしぐれ【竜】
「はいっ!」
鋭い突きを相手の額でぴたりと止めると、相手は両手を挙げ降参を示した。
「お……おみごと……」
木刀をしまい、ふうと小さく息を吐きながらお辞儀をし手ぬぐいで汗を拭う少女がいた。とても美しい装いに反し、剣の腕はかなりの腕前で師範と並ぶか否かといった腕前と専らの噂。ほんのり湿った手ぬぐいを首からかけ、水を一口含むとどこか緊張感がほぐれたような安心した表情を見せる少女─キャメリア。刀鍛冶屋の娘でもあり優秀な刀工でもある。刀工の腕も中々のもので父親も思わず唸るほどの腕前を持っているのだが、当の本人からするとそれはあまり嬉しくないと思っている。なぜなら……。
「……やっぱり、使いにくいですわね……」
木刀を手に取り、軽く持っては見るもその無骨やさ使いにくさに飽き飽きしていた。どうして刀というものは、鞘から取り出す動作があるのだろう。もちろん、ケガをしないためではあることは十分承知はしているのだが、それでもその動作ひとつで命を落としてしまうこともなくはない。更に鞘から出てくるのはなんの飾り気もないただの刃となればもうたまったものではない。何かこうおしゃれなものはないものだろうかと頭を悩ませているキャメリア。普段も色々な服装に興味を持ち、あれやこれやと試し毎日鏡の前に写る自分と勝負のつかないにらめっこを続けている。気に入った装いのままで刀鍛冶をしようものなら、父親から顔を真っ赤にして怒られ「着替えてこい!」と言われてしまう。なんでこんなにも窮屈なのだろうと思ったキャメリアは表情を曇らせた。
「……もっとおしゃれなもの……おしゃれ……」
師範の言葉など耳に入っていない様子のまま、キャメリアは道場を後にし帰路に就いた。その道すがら、談笑している女の子たちを見てキャメリアは気が付いた。
「……そうですわ! その手はありましたわ!」
こうしちゃいられないとばかりに駆け足で自宅へ戻り、工房へ籠ると頭に描いた設計図を頼りに手を動かしていた。丁度昼ご飯を食べていた父親は嵐のような勢いで帰ってきたかと思えばそのまま工房に籠る娘を見て「なんだなんだ!?」と困惑した表情を浮かべていた。
「そうよ。こうすれば……おしゃれも楽しめますわ……これを……こうして……」
あっという間に仕上げの工程に入ると、最後に簡単な点検を済ませ異常がないことを確認したキャメリアは「うん!」と満足そうに微笑むとできたばかりの作品を持って出かけて行った。
「……な、なんだ?」
事情が全く呑み込めない父親はぽろりと零れる握り飯をそのままに、また嵐のようにどこかへ出かけて行った娘を呆然と見送っていた。
心地よい青空の下、できたばかりの作品を片手に歩くキャメリア。それは一見、柄の長い傘のように見え、露先には彼女が可愛いと思う取り外し可能の装飾が踊るように揺れる。うきうきした気分で傘を開くと飾り傘のような小さい表面をしているのだが、その中をしっかりと見てみると、傘の骨の一部が鋭くなっているのが見えた。そう、まるで槍のように。これこそが、キャメリアが求めていたおしゃれと使い勝手を両立した新しい傘刀を発明した。
「うふふ。我ながら上手く出来ましたわ」
石突の部分はそれこそ槍のように鋭いのだが、傘を開いている間は気になることはないので問題はなくいざとなれば武器にもなるという刀鍛冶と剣術を上手く混ぜ合わせた作品となった。気分がよくなったキャメリアはその辺を鼻歌交じりに散歩をしていると、道行く女の子たちがキャメリアが持っている傘に注目をし始めた。
「なにあれ? とっても可愛いわね」
「しかも、なんか強そうじゃない?」
ひそひそ話もキャメリアの耳に届けば、それは賛辞となって入るためとても気分がよかった。もし、これを量産すれば女の子たちは手に取ってくれるだろうかと思ったキャメリアは適当に聞き込みをすると、大半が「欲しい」とのことだった。その意見を大事にしたキャメリアは自宅兼工房に戻ると親に挨拶しないで量産をし始めた。
「おいおい。キャメリア、一体なにしてんだ?」
「今、ちょっと手が離せません」
「……はぁ」
こうなっては話を一切受け付けないということは誰よりも知っている父親は、呆れたような大きな溜息を吐くと「やれやれ」と言いながら小さな書斎に籠った。
「開けば傘、閉じれば槍。お洒落を楽しみたい女の子たちの必須ですわ」
今までの無骨な刀とは無縁なハイカラな傘は瞬く間に知れ渡り、キャメリアの住んでいる町ではあっという間に売れ、その情報は近隣の町へと飛んでいった。騒ぎが大きくなってから経緯をしった父は怒りたいような嬉しいような何とも言えない感情に苛まれながら、娘に檄を飛ばされながら作業をしていた。まさか娘がここまで考えていたなんて知らなかった父親は刀の概念をひっくり返した考えに、最初は反対であったが「騙されたと思って」という娘の言葉に一旦は受け入れた。受け入れたが早いが、たくさんのお客が押し寄せていることが答えだと身をもって知った父親は、持てる力を最大限に活用し娘に協力した。
キャメリアは華々しいデビューを飾り次回作にお熱である反面、父親は目をくるくると回しながらぶっ倒れていた。




