すっきり新緑のミントティー【神&竜】
気持ちの良い青空が広がっていた。雲もなく風も穏やかで、絶好のお出かけ日和だ。
「うむ。今日もいい天気じゃ。今日のパトロールが終わったら……ふふふ」
自宅の窓を全開にし、お仕事が終わったあとのことを考えているのは、一族と一緒に長年住んでいるエルフの女性─リディ。たくさんの花々をあしらったワッペンをつけたポンチョに茶色いロングブーツ、背中にはいざというときのために弓を背負っていた。リディはこの森を一族で守っており、そのパトロール部隊として活躍している。見かけは幼く見えるが、エルフというのは長生きであり実際は相応の年数を重ねていて、話術や弓術に優れている。特にリディは弓術に関しては一族の中で秀でていて、いわば守り神である。また、森に迷った人たちに道の案内や生態の紹介などもこなすというマルチな才能を発揮している。
鼻歌を歌いながらパトロールの準備しながら、その後のお楽しみの準備も欠かさなかった。大き目のランチバスケットに大好物の果物、サンドイッチをこれでもかと詰め込み準備万端。あとは、お仕事であるパトロールをこなすだけとなり、リディはうんと背伸びをしブーツの先をとんとんと整え気分を切り替えた。
「さて、すぐに終わらせるぞ」
自宅を飛び出し、さっそくパトロールモードに突入したリディは軽々と枝から枝へと飛び移り怪しい箇所がないか、何か特別な変化はないか注意深く見て回った。
「……あう。お腹空いたっす……」
どうしてここにいるのかもわからない赤毛の少女がいた。開いているのか閉じているのかといえば九割閉じている眠そうな目、気怠そうな雰囲気にやや露出多めの肌着。そして手には自分用なのか枕を抱えていた。
「……なんでこんなとこにいるんすかね……ふゎああ」
大きな欠伸を一つしたのは竜人のマロニィ。毎日毎日惰眠を貪ることがなによりの至福だと断言している彼女は、見た目からもわかる通り動くことが苦手である。そんな動くことが苦手な彼女がなぜここにいるのか……それは本人にもわからなかった。
「……もしかして……寝ながら移動しちゃったんすかね……覚えてないっす差」
独り言を言いながら歩いているマロニィ。木々の間から眩しい日差しが差し込む森の中を当てもなく歩いていると、マロニィのお腹がぐうと鳴った。
「……もう……だめっす……お腹……」
ついに空腹に耐えきれず、マロニィはその場で倒れこんでしまった。しかし倒れてから数秒も立たずに彼女の元気な鼾が聞こえたのは言うまでもない。
「パトロールパトロール。今日も何事もなく終わり……」
そうではなかった。あともう少しでパトロールが終わりそうというとき、リディの目に信じられない光景が飛び込んできた。それは森の中でうつ伏せで倒れている人を見たからである。
「ちょっと、お主。大丈夫か!」
リディは慎重に倒れている人物の肩を揺らすと、規則正しい鼾が聞こえほっと胸を撫でおろした。
「……おなか……すいた……おなか……すいた……」
赤色の髪をした少女は寝言でそういうと、リディは小さくしかし力強く頷くとパトロールを早々に切り上げ自宅へと向かった。パトロールモードを解除し、これからはランチタイムモードへと突入したリディは準備していたランチバスケットを抱えて再び森の中へと消えると、さっき倒れていた人物の元へと戻った。
「お主。大丈夫か。さ、りんごだ」
リディがそっと赤い髪をした少女の前に熟れたりんごを差し出すと、ゆっくりのそりと動きながらりんごを手に取り、齧った。それも寝ながら。
「お主……中々器用な真似をするな……」
初めて見る光景に驚きながらも、リディはその人物が食事を終えるまで傍に居続けた。
「ん……甘くって美味しいっす……」
ようやく目を開けた赤い髪少女。目の前には見知らぬ女性が座っていて、一体何事かと頭をぽりぽりと搔きながら説明を求めた。リディはかいつまんで事情を離すとようやく合点がいったのか、少女は「ああ……」と力なく声を漏らした。
「お主、名はなんと? わらわはリディ。この森でパトロールをしておった」
「あたしっすか? マロニィっす」
「マロニィ! よかったらこのあと、ランチタイムにでもせんか? ちょうどその時間じゃ」
「……いいんすか?」
「もちろんじゃ。もし、よければわらわとっておきの場所を案内するぞ。いい場所での食事はまた格別ぞ?」
「……いいっすね。そんじゃ、ちょっと待っててほしいっす」
そう言ってゆっくりと時間をかけて立ち上がったマロニィ。なにやら手から帯状のものが見え、それをうまく使い立ち上がった。本人曰く、これは闘気を帯状にしたものだそうで背中をかいたりおやつを取るときに便利だそう。本来は戦うための手段だと思うのだが、本人はあまり戦うことに対し積極的ではない(積極的になる場合もあるそうだが、それについては教えてくれなかった)。
「よいっしょっと。お待たせっす」
「うむ。それじゃあ、こっちじゃ」
まさか二人でランチができるとは思ってなかったリディはルンルン気分でお気に入りの場所までスキップした。そのあとを大きな欠伸をしながらついていくマロニィ。眠そうではあるが、その目はどこか楽しそうであった。
「おお……広くっていいっすね」
「ふふん。ここは一族の中でもわらわしか知らん特別の場所じゃ!」
えへんと胸を張り自慢するリディ。小さな川のせせらぎを聞きながら大きな切り株の上に荷物を広げて食べるランチは格別だそう。ランチバスケットからたくさんの果物とサンドイッチを広げ、自家製のドリンクで乾杯をする二人。リディは果物、マロニィはサンドイッチに手を伸ばした。
「……美味しいっす」
「でしょ?? この森の果物はいつ食べても美味しいのじゃ」
「羨ましいっす……あうん」
果物が挟まったサンドイッチに手を伸ばし、もむもむと口を動かすマロニィ。普段なら眠気が勝っているのに、今日に限っては眠気は起こらず見たことのない景色と美味しい果物に夢中になっていた。小鳥たちは小さく歌い、風は優しく吹くこの森の中はまるで安らぎを提供しているかのような過ごしやすさだった。その雰囲気につい甘えてしまったマロニィは次から次へと食べ物に手が伸びており、気が付けばランチバスケットの中は空っぽになり二人ともドリンク片手に空を仰いでいた。
「……こういうの……したことなかったっすから……すごく新鮮っす」
「そうなのか?? よかったらまたランチしよう!」
「……うち、たまたまここに来たんすよ……。だから……約束はできないっす」
「何か思い出したときでも構わん。また、わらわとランチしようぞ」
「……そう言われるのも初めてなんすよ」
照れくさそうに頭を掻くマロニィ。それを見てくすくす笑うリディ。まんざらでもない様子にリディは小さな花を手渡した。
「これ、どこに居てもここに導いてくれるおまじないをかけておる。だから、ランチしたくなったらこれを空に投げるのじゃ」
「……便利っすね。いいんすか?」
「うむ! お主とはもう友達じゃ! 楽しかった!」
「……嬉しいっす」
少し名残惜しいがそろそろ帰らなければいけないリディは何度も振り返り、マロニィに手を振った。いよいよリディが見えなくなるとマロニィは独り言ちた。
「……たまには……いいっすね。誰かと食べるご飯」
ひと際大きな欠伸をしたマロニィはふらふらと夕焼け色に染まる森の中を歩き出した。またランチができると信じながら。




