ライム弾けるマイルドソーダ【魔】
その白蛇は空を仰いでいた。長年生きてきたが、こうも効率が悪いものがあってなるものかと。それは捕食時のことだった、白く細長い蛇は音もなく獲物に近づき、毒牙をたてる。そしてじっくりと確実に相手を弱らせてから捕食。これがなんとも非効率ではないかと考えていた。もっと上手く相手を捕食する方法があれば……自身に流れる魔力の胎動に言い聞かせるように白蛇はちろちろと舌を出した。
でも、できないことを望んでも仕方がない。今はこの不自由な体でなんとかするしかないのだから。
もし、この体から脱することができたら何をしたいかって?
そりゃあ……ねぇ。もっと効率的に獲物を狩りたいものだね。
自問自答しながらその白蛇は眠気に襲われ、体を丸め招かれるまま微睡に落ちていった。
翌朝、その白蛇は違和感で目が覚めた。それも妙に不快感が勝る違和感に白蛇は眉をひそめながら辺りを見回した。
「なんだ……これは……」
白蛇は自分の目を疑った。昨日までただの細長い白い蛇だった。だが、今自分の目に映っているのは白い衣服に身を包んでいる人間の姿だった。現状にまだ理解が追い付いていない状況の中、白蛇は白く艶やかな袖に触れてみた。さらさらとしていて、どこか気品溢れる香りに白蛇は心をくすぐられた。そして自身の魔力が表面化しているのか、人間化した白蛇の周りには緑色のシャボン玉がぷわぷわと浮かんでいた。
「これは……」
見たことがあった。これは自身の体を流れる毒の色だ。ただ、毒も一色だけではなくその時の土地の状態や天気などで左右されて色が変化する場合がある。今は緑色だがこれが紫色になったり無色透明だったりと毒の効果は変わらないが、その場に応じて様々に変化する。
「ほほう。これは面白い」
まさか自身が人間になるだなんて誰が思っていただろうか。神の悪戯とは時に奇な物語を生むものだと思いながら、白蛇は今の姿に慣れるべく練習を始めた。
それから幾年の月日が流れた。すっかり今の姿にも慣れ、効率的な食事ができることに白蛇─シュランゲは満足していた。適当なバーに行き、美味しそうな獲物を見つけたら言葉巧みに相手を誘惑し、別室へ移動。そのときの言葉なんてなんとでもなる。
「素敵な君にプレゼントがあるんだ」
この言葉を聞いた獲物は元々酒で赤らんでいる頬を更に赤らめ、私の目を見てくる。私は獲物から視線を外さないまま見つめ返すと、獲物はすっかりその気になりふらふらとした足取りで私の後ろをついてきていた。
「さぁ、こちらに君へのプレゼントを用意したんだ。気に入ってくれると嬉しいな」
私はそう言い、獲物を部屋へと入れた。そこは色とりどりのシャボン玉がぷわぷわと浮かんでいた。緑、紫、無色透明。
「あら、きれいらないの」
呂律が回らないのか聞き取りにくい言葉を発しながら風船へ手を伸ばした獲物は次の瞬間、緑色のシャボン玉が弾け飛んだ。次いで紫、無色透明と部屋の中にあるシャボン玉が次々に弾け飛ぶと獲物はがくがくと足を震わせながらその場にへたりこんだ。
「あ……あしに……ちからが……」
そう。逃げられないように神経の毒を多めに仕込んでおいたシャボン玉をまともに受けた獲物は指一本動かすことができない状態だった。
「大丈夫ですか……?」
「あ……あ……なた……」
「プレゼントはお気に召しましたか?」
「え……あ……あ……あ」
口回りの筋肉が硬直し始め、言葉を発することができなくなった獲物の目は絶望に染まっていた。
「そうですか。気に入ってくれて嬉しいです。では……」
「あ……ら……あ……」
私は絶望に染まった獲物に牙を突き立てた。獲物の体がびくんと動き、それからはもう何も語ることはなかった。さて、食事を始めましょうか。
「では、いただきます」
返ってこないとわかっていながら、この一言は外すことができない私はすっかりこの姿に慣れてしまったようだ。じっくり、味わっていただきましょうか。
その味は甘美なるものでした。




