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油断大敵!ぱちぱちエール【竜】

「はい、依頼達成の報酬だよ。いつもありがとう」

 依頼達成の報酬を受け取り、ぼくは自分の部屋へと戻る途中白い光に包まれた。


どかーん


 まるで近くに雷が落ちたような大きな音に驚いたぼくは、窓から付近を確認する。特に落ちた……わけではなさそうだ。でも、あんなに大きな音がするなんて……何かあったのかな。一旦、自分の部屋で荷物を置いてから考えようと思い、足早に戻った。

 部屋に戻った頃には、今にも雨が降り出しそうな天気に変わっていた。確認するなら早めがいいかなと思い、ぼくはすぐに大きな音がした方へと走る。その間にも天気はどんどん悪くなっていくけど……このままにしてはいけないような気がしたぼくは速度をあげて走った。


 外へ出ると、湿気を含んだ風がぼくの頬を撫でる。じっとりとしていて少し走ると汗ばむような湿度にぼくは顔を歪めた。でも、これをきちんと確認しなきゃと思い、大きな音が聞こえたところへ向かうと、やがて大地が窪んでいるのに気が付く。直感的にここに落ちたのかと思ったぼくは恐る恐る覗き込んだ。大きく窪んだ大地の真ん中に小さな女の子が立っていた。ただ、普通の女の子と違うのは体から電気がほとばしり、帯電をしているということだ。それに加え、エメラルドグリーンの髪、同色の角を頭から生やし、そこに電気をため込んでいるのがわかる。ディープブラックの尻尾や翼など、竜の特徴を持った女の子は何をするでもなく、ただその場で空を仰いでいた。

 ぼくがその女の子のところへ向かおうと、窪みを下っていくとぼくに気が付いた女の子は鋭い目で睨む。

「来ないでっ!!」

 まるで槍を投げてきたかのような鋭さに、ぼくは両手を挙げて無抵抗を示す。それでも女の子の視線の鋭さは収まらなかった。

「あなたも……あたしが目当てなの……?」

 言っている意味がよくわからなくて、ぼくは女の子にどういう意味かを尋ねた。すると、女の子は首を横に振りながら後ずさる。

「もう……騙されないんだから……もう……二度と……」

 騙されないという言葉がひっかかり、ぼくは女の子を刺激しないようにどういうことか説明をしてくれないかと尋ねた。女の子は呼吸こそ荒いものの少しだけだけど警戒を解いてくれた。

「あなた……あたしをさらいにきた人の……仲間じゃないの……?」

 そんなつもりはないと正面から言うと、女の子は少しずつ落ち着きを取り戻しぼくを見据えた。まずは名前から聞いてもいいかなと言うと、女の子は小さな声で「……トネルム」と答えた。トネルムか。ぼくを信じてくれてありがとう。

「……別にまだあなたを信じたわけじゃないけど……」

 少しむっとした表情で言うと、ぼくはまず窪みから出ようと提案するとそれに小さく頷いた。ちょっと急なものだったけど、なんとか上がり切ることができた……けど、天気はますます悪くなってきている。一旦、ぼくの所属しているギルドで休まないかいと言うも、トネルムはそれを頑なに拒否した。一体何があってそこまで拒絶をするのか……ぼくには想像もつかなった。ぼくが難しい顔をしていると、トネルムは口を開いた。

「……あたし、雷をため込むことができるの……なんでも珍しいみたいで……その……それが原因であたしのお母さんやお父さん、妹……みんな連れて行かれちゃって……」

 雷をため込むというのは、確かに聞いたことがなかった。普通、帯電してもすぐに放出がされるものだけど、この子の場合はそうではないらしい。それであるが故に……。

「何度も声をかけられた。うちは安全だよ、ゆっくりしていきなって。でも、それに飲み込まれたら最後……何をされるかわかったもんじゃない。でも、中にはちゃんと優しくしてくれる人もいた……あたしにりんごをくれたお婆ちゃんがあたしの頭を撫でようとしたから、咄嗟に触らないでって言って……その手を叩いちゃったの……お婆ちゃんはびっくりしてた。そうだよね……いきなり手、叩いちゃったんだもん。でもね、危ないんだ……これに触ると痺れるだけじゃすまないし……最悪は……」

 その先は容易に想像ができた。トネルムはそれ以降、口をつぐんでしまい何も話さなかった。彼女は人が好き……なのだがその雷のせいで人を傷付けてしまうことが怖い。優しい子なのは間違いない。だが、その優しさ故に孤独を自ら選ぶという……。ぼくはなんともいたたまれない気持ちだった。

「……もういいでしょ。あたし、もう行くから」

 トネルムが立ち、すたすたと歩き出すと雲行きが本格的に怪しくなり、ごろごろと雷鳴が轟き始めた。空気の中に含まれる湿気もさっきよりも増えた感じもするし、このままだと雨も降るだろう。トネルムに体を濡らさないよう屋根のあるところへ避難するよう言うと、トネルムはまた首を横に振った。

「あたしがいるところに雷は落ちるの。そして、そのエネルギーはこの角に蓄えられるの……だから、どこに行っても同じ……誰かを傷付けるくらいなら……ずっと一人でいい」

 そう言いながら去っていくトネルムの頬から、一筋の雫が流れていたような気がした。


「なによあの人……あたしの話なんか真剣に聞いて……」

 トネルムは一人ぶつぶつ言いながら歩き、轟く空を睨んだ。まるでここに落ちなさいとばかりに手を高く挙げると、待ってましたとばかりに強烈な閃光と共に雷が落ちた。遅れて雷鳴が空を揺らしこれから大荒れになることを告げているようだった。

「……」

 トネルムの角に雷が落ち、そのエネルギーを蓄える。ばちばちと音をたてて帯電している様は雷神を見ているかのよう。その小さな雷神は人気のないところへと行こうとした時、目の前に竜人が現れ囲まれた。その目は嫌らしくトネルムを見ていて、口からはだらしなく唾液を垂らしている。その竜人はトネルムを捕らえようとしているのか、分厚い袋を携えていた。察したトネルムは恐怖に顔が引きつる。

「や……やめて……こないで……っ!!!」


 遠くで何かが聞こえた気がする。まさかと思い、さっきトネルムが歩いていった方へと走ると数人の竜人が何か大きな袋を抱えていた。袋はじたばたと暴れていることから、もしかしたらトネルムかと思い、竜人を引き留めた。

「あ、なんだ。人間かよ」

「この辺で女の子がいたかって? 知らねぇな」

「おれたちは忙しいんだ。声かけるんじゃねえよ」

(…………!!!)

 やっぱりトネルムはその袋の中に。ぼくはカバンからデッキを取り出し、その袋目掛けて駒を投げた。

「加減は苦手なんだよっ!!」


 スパ スパスパ!


 レグスの斬撃が袋だけを切り裂き、中から縛られたトネルムを救出することができた。あとは、こいつらにお仕置きをしなくちゃ……ぼくは竜人たちを睨み次の駒を投げた。

「斬られるだけじゃすまんぞ!」

 炎のような真っ赤な鎧を纏った竜人アルンが大きな太刀を振り回し、いたずらをした輩たちを翻弄する。空高く打ち上げられた輩たちが地に着くまでにもう一つお見舞いすることに。

「上には上がいることを教えてやろう!」

 凄まじい怒気を纏ったジェンイーが、その怒気を闘気に変換させ刀に付与させると輩たちを地面に思い切り叩きつけた。衝撃の重さに輩たちの肺にあった酸素はすべて絞り出されしばらくの間ぴくりともしなかった。

 これでもう悪さはしないだろうと判断したぼくはデッキをしまい、トネルムの介抱にあたった。ゆっくりと抱き起し軽く揺さぶるとトネルムの瞳が開き、ぼくを見る。

「きゃあっ!」

 驚いたトネルムはぼくを突き飛ばし、足をもつれさせながら遠ざかっていく。

「いや……いやあぁ!」

 トネルムにぼくだと呼び止めても、振り返らずただめちゃくちゃに走っている。ぼくは先回りをしてトネルムの前に立ち……抱き締めた。

「や……やめて……お願いっ!! 」


 う……うううっ あああぁぁぁぁぁぁああ!!!


 凄まじい電撃がぼくの中を駆け巡る。髪の焦げる臭い、皮膚が焼けていく臭い、水分という水分が一気になくなってしまう感覚にぼくの頭の中は一瞬で真っ白になった。それでも体はトネルムをしっかりと抱き締めていた。

「お願い……もう……離して……これ以上は……あなたが……」

 それでもトネルムを離してはいけない気がしてならない僕は、ただただトネルムを抱き締めていた。たとえ、意識が飛んで行ってしまっても……。


「ぇ……ねぇ……あなた……大丈夫? ねぇったら……」

 トネルムの声で目が覚めたぼくは、頭を軽く振り辺りを見回した。どうやらぼくは気絶をしていたみたいでここ数分前の記憶がさっぱりなかった。

「はぁ……よかった。気が付いて……ほんとに……った……」

 ぼくが気が付いたことに安堵したトネルムは、小さくしゃくりあげながら泣いていた。

「あなた……なんであたしを……あんなことしたら……あなた……んでたかもしれないのに」

 まだ頭にもやがかかっているような感覚に襲われながらも、記憶をさかのぼってみる。確か、ぼくは……うん。ぎゅっとしたね。

「なんで……あれは……ぶないじゃない……もうっ!!!」

 ぼろぼろと涙を流しながらぼくを叩く。心配させちゃったみたいだ……ごめんね。僕はトネルムに謝ると涙を拭いながら首を振った。

「ううん……でも、無事でよかった……とに……っかた……」

 ぼくはトネルムに少しでも安心してほしかった。信じて欲しかった。こういう人間もいるんだよということを感じて欲しかった。その一心だったから。ぼくの体はどうなろうと、トネルムにはそのことをわかって欲しかった。

「あたしに……?」

 うん。ちょっと唐突だったからびっくりさせちゃったことは謝る。けど、それしか方法がなかったんだ……ごめんね。

「……ん。でも、あなたから優しい気持ち、伝わったよ。……抱かれたの初めてだったから……その……嬉しかった」

 もじもじしながら言うトネルム。だけど、すぐにぼくをきっと睨み厳しい口調で怒鳴った。

「でも! もうあんな無茶なことはしないで! お願いだから……」

 わかったよとぼくは言うと、トネルムは小さく頷いた。いつの間にか雲間から晴れ間が差し、天気は回復傾向にありそうだ。よし、じゃあ帰ろうか。

「え? か、帰るってどこに……」

 決まってるじゃないか。ぼくの所属しているギルドだよ。ギルド長も話せばわかってくれる人だから、ぼくから話してみる。一緒に来ないかい?

「……さっきも言ったけど、雷が……」

 気にしないよ。トネルムにはもっと色々な世界を見て欲しい。それに……

「それに……なに?」

 君は一人じゃない。君を温かく迎えてくれる人ばっかりだ。どうだい? 僕はトネルムに手を差し伸べる。

「……うん……」

 トネルムはぼくの手を取ると、はにかんだ笑顔でぼくを見た。それを笑顔で返し、トネルムと一緒にギルドへと向かった。ぼくの手を握るトネルムの手は優しく、ほんの少しだけ緊張が混じっていた。

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