シュガーレモン☆アラモード【神&魔】
「……あっついね……」
「……ああ」
学園の屋上にてランチタイムを過ごしている二人の学生もとい二人の皇子。一人は腰くらいまでの赤い髪に頭からやや巻いている角を生やしている牡羊座の皇子シェラハ。もう一人は白銀色のショートヘア、そこから覗く鋭い二本の角。鼻にはケガをしているのか絆創膏を貼っており白を基調としたスポーティなセット服を身に着けているのは牡牛座の皇子アマテル。彼らはとある使命を果たすため、日々戦いの渦中にある。その使命を放棄してしまえば世界が滅びるかもしれない……そんなことを言っても信じられないのは当然なのでクラスメイトにはもちろん、教師たちにも口外していない。なので、シェラハとアマテルは皇子であることを隠しながら日々勉学、戦闘に励んでいる。
もう少しでランチタイムが終わりそうな時間。柔らかく吹く風に髪を弄ばれているシェラハはふと空を仰いだ。雲一つないいい天気。いい天気なのはいいことなのだが、いかんせん太陽が本気を出しすぎてはいないかと直接問いたくなるほど暑かった。僅かにできている日陰に避難しながら最後の牛乳を口にするアマテルは短く息を吐きながらまたすぐにごろんと転がった。
「午後って……確か……」
シェラハは鞄から電子端末を取り出し、午後の授業を確認すると視聴覚室で講義があるのを確認。長めの溜息を吐きながらいそいそと片づけを始めながら、アマテルにそろそろ授業が始まることを告げると、アマテルはだるそうに「ああ」とだけ返事をしまだ転がっていた。
「んもう。遅れても知らないからね」
ちょっぴり頬を膨らませながら先に屋上を後にしたシェラハ。とんとんとリズミカルに階段を下りロッカーから必要なものとランチバッグを交換し足早に視聴覚室へと向かうと、何やら人だかりができていた。何事かと思いクラスメイトに声をかけると、「これを見てよ」とばかりに張り紙に指を指していた。どれどれとシェラハが貼られた紙の文字を目で追うとそこには教師とは思えないほどの走り書きで「急遽、休講っ!」とだけ書かれていた。
「何この……やる気のない文字は……」
「シェラハもそう思う? でもまぁ、これで今日の授業がないとなればいいかって」
「そうね。帰りましょ」
「シェラハはどうする? うちらこのあと近くにできたカフェ行くんだけど、一緒にどう?」
クラスメイトに誘われたシェラハは少し悩んだふりをしてから用事があるとだけ言って断った。残念そうに肩を落とすクラスメイトに別れを告げ、シェラハは足早に屋上へと駆けた。
「アマテルくーん。いる?」
「あぁ? んだよ……人が昼寝してるときによ……」
だるそうに返事をするアマテルにむくれるシェラハ。口を尖らせながら午後の講義が休講になったことを告げると、アマテルは「そりゃあよかった。おかげで昼寝ができるってもんだ」と言いながら再び目を閉じようとしたところ、シェラハがそれを阻止した。
「もうアマテル君ってば。たまにはさ、こう……出かけない? こう暑いとさ涼みたくなるじゃん? それに、暑くて昼寝どころじゃなかったんじゃない?」
……確かにそうだった。アマテルの額には大粒の汗が滲んでおりシェラハが来るまでは中々寝付けなかった。かといってこれから涼しい場所といっても、こう暑いと涼しい場所というのは限られるのではないかと思ったアマテルだが、それはシェラハに腕をぐいと引っ張られ問答無用で引きずられていくことになる。
「ほら。一緒に涼みにいこ」
「あ……シェラハ……ばか! 引っ張んな!!」
ずるずると引きずられながらアマテルの悲鳴は誰もいない廊下に木霊した。
校舎を出てしばらく歩いた先に大きな川がある。そこならばと思い、シェラハはアマテルと並んで歩いていると、アマテルは不満そうにぶつぶつと文句を言っていた。
「ったく……なんでオレが……」
「いーじゃん。どうせ予定もなにもなかったんでしょ?」
「……ねーけど……」
「ん! じゃあ、ちょっとだけ付き合ってよ。そのあと、アマテル君にも付き合うからさ」
「……へーへー」
やる気メーターがマイナスまで下がりきっているアマテルに何を言っても無駄だということは、幼馴染であるシェラわかっている。ぶつぶつ言っていても結局は付き合ってくれるということに。こうして太陽からの無慈悲な熱線を受けながら歩くこと数分。水面がきらきらと輝く川に到着した。川には誰もおらず、これをチャンスだと思ったシェラハは小さく駆け足で川へと向かった。
「えっへへー! いっちばーん!」
鞄を適当に放り投げ、靴下を脱ぎ足を川に浸すと思いのほか冷たかったのか、シェラハは身震いをしたまましばらく動かなかった。
「……冷たい……けど、気持ちいいよ! アマテルくーーん!」
「……ったく」
口では悪態をつきながらもちゃっかり付き合うアマテル。彼も靴下を脱ぎ川に足を浸すと、足から脳へと冷たさが一気に通過したような錯覚に陥った。
「……っ! めてぇ……」
しかし次第に慣れてきたのか、ざぶざぶと川を横断するアマテルにシェラハは「すごーい!」と声を挙げた。川から辺りを見回すアマテル。特に人も多くない時間帯なのかもしれないが、ここまで誰もいないと心なしか気分もいいと思えてくる。
「……?」
アマテルの顔がほんの僅かに歪んだ。視線の先に見えるのは……人? さっきまで誰もいなかったはずなのだが……確かめようとアマテルは川から上がり人影が見えた先へと走っていった。
「ちょっとアマテル君?! どこ行くの?」
慌ててシェラハも川から上がり、アマテルを追いかける。しばらく駆けた先には浴衣姿の女性竜人が川べりで大きな番傘を差しながら佇んでいた。その傍らには大きなスイカを岩と岩の間に浮かべ冷やしていた。
「あら? こんな時間に学生さんなんて珍しいわね」
なんだか嬉しいのか、その竜人女性は微笑みを浮かべながらアマテルを見た。
「わたしはフロワ・イエロ。たまたまここを散歩していたら大きなスイカを手に入れてね。よかったら一緒に食べない? 冷たくって美味しいわよ」
「もう……アマテル君てば……どうしたの? あら?」
「こんにちはお嬢さん。良かったら一緒にあまぁいスイカ食べない? わたし一人では食べきれないくってね」
「え! いいんですか?」
「もちろんよ。そこのお兄さんも一緒にどう?」
「……」
ぶすっとした表情をしながらそっぽを向いたアマテルに対し、シェラハは背中をばちんと叩きながらフロワ・イエロと名乗る竜人女性に何度も頭を下げた。
「気にしないで。ほら、あなたたちもこっちへいらっしゃい。今、切り分けるわね」
フロワ・イエロは川からスイカを引き上げ、軽くポンポンと叩いてから目にも止まらぬ速さでスイカを切り分けてしまった。その間、フロワ・イエロの微笑みは一切崩れていない。
「はい、お待たせ。たぁっくさん食べてね」
「有難うございます! いただきます!」
「……っす」
川に足を浸しながら食べるスイカは格別だった。スイカの甘味が口いっぱいに広がり、なんとも一足早い夏を告げているようなそんな味がした。
「いい顔ね。お姉さんも貰おうかしら」
そう言いフロワ・イエロも一口齧ると目を細めて喜んでいた。
「とっても甘くって美味しいわね。おかわりもまだまだあるから遠慮しないでね」
「はい! ほら、アマテル君もお礼を……!」
「……ざっす」
「うふふっ。いいのよ。こうして誰かと一緒に食べられるだなんて思ってなかったから、お姉さんとっても嬉しいわ」
こうしてその場で知り合ったフロワ・イエロと一緒にスイカを食べるシェラハとアマテル。何気ない会話で笑ったり驚いたりと楽しい時間というものはあっという間に過ぎ、気が付けばオレンジ色の空が広がっていた。
「あらあら。もうこんな時間なのね」
「もっとお話したかったですが……明日は朝から授業がありまして……」
「いいのよ。また今度お話しましょ。それまで、楽しいお話を用意しておくわ」
「はい! フロワ・イエロさん、ありがとうございます!」
最後に元気よく挨拶をし、フロワ・イエロと別れた二人は家路へと就いた。ちょっぴり早い夏の味を口の中に残しながら。




