プチっところころシュークリーム【神】
「ありがとうございましたぁ!」
とある森の中にある小さな洋服屋さん。素材調達から品出し、仕立てまでなんでもこなす山羊族の少女─メイクレア。実家である仕立て屋を手伝いながら毎日小さな店主として奮闘している。明るく人懐っこい性格をしていて、来店するお客さんに対し、眩しいばかりの笑顔で対応することで有名となり、今では彼女にしか仕立てを頼みたくないというお客さんも増えてきているんだとか。毎日素材を採取し、注文を受けたお客さんが笑顔になることを思い浮かべながらひとつひとつ仕上げていくその品は、どれも一級品である。夢は実家を引き継ぎ最高の洋服を仕立てること。その夢を実現するために、素材採取には妥協がなく自分が納得するまで採取をした結果、両親を心配させてしまう場面の多々あったとか。しかし、それはお客さんを思う気持ちが強く出てしまったものだと両親は思い、あまり強くは言わなかった。代わりに「素材探しに夢中になって明日お前がいないとお客さんが悲しくから程ほどにな」とだけ言った。その言葉にメイクレアは心を打たれ、以降素材探しをするときは短時間で済ませるようにした。
そんな毎日が楽しくも忙しい彼女のお店に小さな職人が顔を出した。店内の入口からひょこっと顔を出しているのは、頭頂部からネズミの耳をぴこぴこと動かしきょろきょろと店内を見回しメイクレアと目が合うと目が山なりにになりながら微笑んだ。
「あ! ミミリーちゃん!」
ミミリーと呼ばれた少女は小走りでメイクレアに抱き着き、久しぶりの再会を喜んでいた。モンブラン色のショートヘアーにヘッドドレスをつけ、爽やかなミントグリーンのリボンを左右の袖口と胸元に着けていた。手には彼女の商売道具である大きな刺繡針が握られていた。身の丈と同じくらいに長いその刺繍針は彼女の手にかかればどんな細かい刺繍もあっという間につくれてしまうものだった。
「お母さん、お父さん。あたしの友達の商品も一緒に置いてもいい?」
一瞬顔を見合わせた両親だったが、すぐに笑顔になり小さく頷きあうと母親は「ぜひ」と即答だった。こうして小さな刺繍作家はメイクレアの仕立て屋に作品を置くことが許された。
ミミリーがメイクレアの仕立て屋に入ってしばらく。店内にはどれも色鮮やかで細かいステッチが美しい作品が所狭しと並んでいた。接客はメイクレアにお任せし、ミミリーは作業場で黙々と刺繍作業を行っていた。可愛い鳥たちが空を飛んでいるものや、小動物たちがくつろいでいる様子、花々が生き生きと芽吹いている様子などをどれも妥協することなく表現していた。
「あら、新しいのができたのかい」
近所に住んでいる女性がミミリーが作った刺繍に目が行った。
「そうなんです。しかもさっきできたばかりなんです」
「へぇ、そりゃすごいや。じゃあ、ひとつ貰おうかね」
「ありがとうございます!」
できたばかりの刺繍が売れ、作った本人よりも紹介したメイクレアが一番喜んでいた。手早く包み手渡しをすると、女性はにっこり笑い「また来るよ。作者さんによろしく言っておいておくれ」と言い店を出た。ドアチャイムが静かになったのを確認してから、メイクレアはすぐに作業部屋に行きミミリーに話すと、ミミリーは顔を真っ赤にして喜んでいた。
「え、もう売れたの?」
「そうだよそうだよ! ミミリーちゃんの作品大人気だよ!」
「そ……そうなんだ。もっとたくさんできるよう頑張るね」
「あ、無理しなくていいよ。ミミリーちゃんのペースでいいから」
「……うん。みんなの笑顔、あたしも願ってるから」
そう言うと、ミミリーはまた作品に集中し始めた。一針一針心を込めて糸を通していくその目は職人も顔負けの眼差しだった。みんなが作品を見て笑顔になれるよう、譲れない思いが込められた作品はきっと誰の心も解きほぐす魔法が込められていた。ミミリーの小さな手に大きな夢と笑顔が詰まった作品ができるまで、そう時間はかからなかった。




