大粒イチゴたっぷり♡季節のクリーミィタルト【神】
「今日も一日、幸多からんことを」
大きな教会の中でたくさんのシスターたちが祈りを捧げている。その奥ではヤギの角を頭から生やした十二星座の皇子─ナルアダルアがパイプオルガンを弾いていた。ロングトーンを弾き終え、シスターたちは一斉に顔を上げ一礼をし、持ち場へ向かった。その中でも一人、盛大に前から転んで悲鳴を上げるシスターがいた。ピスタチオグリーンの髪を三つ編みにし、フレームの大きな眼鏡をかけ、どこか自信がなさそうに目をうるうるとさせている。彼女の名前はレイミュラ。元々はナルアダルアの教会で育った孤児だったのだが、慈愛に満ちたナルアダルアに憧れてこの教会で働くことを選んだ。他にも色々な選択肢があったのだが、本人はどうしてもここで働きたいと強く望み、その願いが叶い今こうしてナルアダルアと共に教会の務めを果たしている。
……のだが……
如何せん周りの子とは少し違うというかなんというか……。躓いて転ぶのは日常茶飯事で、調味料を間違えたり、聖書をばらまいたりと数えたらきりがない。そんなレイミュラをナルアダルアは優しく包み込み、頭を撫でて落ち着かせる。
「あなたは人一倍、やる気に満ちた子よ。あとは、少しずつ集中してこなしていけば、きっとうまくいくわ」
温かい春の日差しのような言葉に、思わず固まるレイミュラ。それをお構いなしにナルアダルアは優しく頭を撫で続ける。
「あああ……あの。もももう、大丈夫です! ししし、失礼しまっす!」
慌ててナルアダルアから離れ、一礼をし自分の務めに戻らなければと思い踵を返し走った。
転んだ。
そんな他の子たちとは違うレイミュラだが、彼女にしかない特別な力がある。それは、霊感が誰よりも強い。他の子たちには感じられない悪霊の類をいち早く感じとることができる。そういえばここ最近、ナルアダルアの地にもそういったことで困ったという依頼を多く聞く。そういうとき、レイミュラを参加させ悪さをしている霊の特徴や対処法について、じっくりと練ってから現場へ赴き、除霊を行う。そのときのレイミュラの表情は、いつもの頼りない感じとは思えないほど、真剣な表情をしていると聞いている。いくら悪霊たちが逃げようとも、レイミュラの前では無駄で除霊班たちによって跡形もなく除霊されていく。
そして今日。ナルアダルアが教会の前を掃除しているとき、近所に住む老婆が上記内容で困っているとのことだった。早速ナルアダルアはレイミュラにこの話をしようと部屋の扉をノックした。
「レイミュラ。いますか?」
「は、はひっ!」
「失礼します」
素っ頓狂な声をあげながら眼鏡をかけなおすレイミュラ。緊張しているというのはこういうことかとわかるくらい、がちがちに体を強張らせて何か何かとそわそわしているレイミュラに、ナルアダルアは静かに口を開き案件を話した。すると、レイミュラは徐々に緊張感を解いていき、次第に真剣な表情へと変わりうんうんと頷きながら話を聞いていた。
「……ということなのですが、レイミュラ。参加していただけますか?」
「……はい。もちろんです。お役にたてることがあれば……」
「ありがとう。では、準備ができたら教会の入口にお願いね」
「はい!」
イキイキとした表情で返事をするレイミュラに微笑みながらナルアダルアは部屋を後にした。
準備ができたレイミュラは教会の入口で待機をしていると、続々と除霊班たちが到着した。幸いにも前回参加したときと同じ仲間だったため、レイミュラは緊張せずに済んだ。
「今回も宜しくお願いします」
「は……はい! お願いします!」
「レイミュラさんの探知があるおかげで、前回被害を出すことなく済んだんです!」
「え……あたしの……おかげ?」
まさか自分が貢献できていたなんて思わなかったレイミュラは思わず聞き返した。
「ええ。それに、悪霊たちの行動パターンもすべてレイミュラさんの言う通りでしたので道具を揃えるのも手早くできたんですよ。いつもなら、あれもいるかなーとか言いながら準備していたのが、今ではものの数分でできちゃうんですから。我々にはそこまで鋭い霊感はないので、とても羨ましいです」
「そ……そんな……ことないですよ」
褒められ恥ずかしいのか、レイミュラは顔を真っ赤にしながらぼそぼそと答えた。レイミュラは物心ついたときから「何か見えるな」という感覚を覚えていた。それが次第にはっきりとし、友達に聞いても「そこには誰もいないよ」と返されてしまう。そこで自分にしか見えていないというのを知り、他の子たちとは少し浮いた存在になってしまった。霊感があるというのは、まるでラジオで波長を合わせるのと似ている。波長が合えば見ることも声を聞くこともできる。いや、嫌でも見えてしまったり聞こえてしまうということになる。正直、レイミュラは怖かった。見たくもないものを見続ける、聞きたくないことを聞き続けなくてはいけないのかと何度も悲観した。
そんなとき、ナルアダルアはいつも傍にいてくれた。怖くて眠れない日や耳を塞いでもその隙間から聞こえてくる声があった日は、いつもナルアダルアが優しく抱きしめてなだめてくれた。一人では怖くて眠れなくても、ナルアダルアが傍にいるだけで安心ができる。そして、いつも自分の世話を焼いてくれるナルアダルアの力になりたいと本気で思い、この霊感を受け入れ自分にしかできない務めを果たすため、こうして除霊班の一員として頑張っている。
「……ここです」
「こりゃあ……霊感ない私でも嫌な感じはあるね」
「みんな、気を引き締めていこう」
小さな一軒家から漂う負の感情の波。紫色の波は除霊班が入ってくること静かに拒んでいるかのように、入口に近付こうとすると急に濃くなる。
「いつまでも居座られても困るのよね。ちょっとばかし、力尽くで……」
除霊班の一人が鞄から聖水を取り出し、ドアノブにかけた。レイミュラには聞こえて除霊班には聞こえないおぞましい悲鳴をあげながら解呪が行われると、そのままドアノブに手をかけ中へと入った。鼻をつんと突く据えた臭いが充満し、思わず顔を歪める除霊班たち。少し遅れて中の様子を見るレイミュラは意識を集中させ、家の中をけらけらと笑いながら浮遊している霊たちを指さすと、除霊班たちは除霊効果が高い煙を発生させるとさっきまで鼻を突いていた臭いは少しずつ浄化されていった。隠れている霊がいないか、レイミュラは入念にチェックを入れてから次は二階へ向かうことにした。ぼろぼろの階段を崩れないよう慎重に上ると、さっきよりも強烈な臭いが除霊班とレイミュラの鼻に深く突き刺さった。
「これは……一個ずつ潰さないといけないですね」
レイミュラは三つある部屋をひとつずつ指さしながら言うと、除霊班の三人は一人ずつ部屋へ入り除霊効果のある煙を発生させた。ひとつまたひとつと強力な念を持つ悪霊たちが消えていき、最後は廊下に煙を発生させれば浄化は完了。最後の煙が廊下にばら撒かれると、重苦しかった空気は消え去り、ようやくこの家にも平穏が訪れた。
「……これで最後ですね。浄化完了ですね」
「部屋に入った瞬間、体がずんと重たくなって進むのも一苦労でしたけど……ここまで来たら『負けられるかー』って気持ちになって頑張りました!」
「あたしもそうだった。すっごく重たくて息苦しかったけど……負けたくなかった。レイミュラだって怖い思いをしてついてきてくれているのに……情けない顔なんてできないじゃない」
「ぼくも……悪霊たちが耳元で何か言っているような感覚がありましたけど、歯を食いしばって耐えました。終わったら体が軽く感じたので、除霊は成功したんだって実感しました。これも色々対策してくれたレイミュラさんのお陰です。いつも有難うございます」
「あ……いえ……あたしは……その……」
もごもごと口を動かしていると、除霊班の一人がレイミュラの肩を優しく叩いた。
「あなたね。もーっと自信持っていいのよ。この依頼が成功したのは、レイミュラ。あなたのお陰なんだから。あなたがいなかったら、この近辺で暮らす人たちはずっと苦しい思いをしたままだったんだから。ね?」
「……はい」
「ん。わかればよろしい。じゃあ、報告をしに行きましょう」
初めて除霊班と同行したときを思い出したレイミュラ。怖くて足が震えてしまい、動くことができない自分を除霊班のみんなは嫌な顔ひとつせずに補佐をしてくれた。そして補佐をしてくれたことに対し、頑張らないとという気持ちが湧きあがったレイミュラは自分にしかない力を使い見事除霊に成功した。
「これは……あたしにしかできない……ことなんだ」
胸の辺りがぽかぽかと温かくなり、レイミュラはほんのちょっぴり自分に自信を持つことができた。怖い……けど、ナルアダルアや除霊班のみんながいればきっと大丈夫だと自分に言い聞かせ、これからもみんなの力になるために頑張ろうと誓った。
「レイミュラー。早く行くわよー」
「はーい! 今行きますー!」
すっかり自信を持ったレイミュラは元気に挨拶をしながら除霊班のみんなと合流した。その日のレイミュラの顔は、真っ赤に燃える夕日のようにぴかぴかと輝いていた。




