ふんわり甘ぁいぴちぴちピーチシフォン【神】
瑞々しい肌に艶やかな金色の髪と胸元を揺らしながら歩く一人のシスターがいた。本当にシスターと呼んでいいかは疑わしいが、しっかりとシスターの制服である表は黒地、裏は桃色のウィンプルを被っており、やや露出の高い召し物を着けていた。疑わしいというのは、その露出の多さなのだが、本人はどこ吹く風といった様子だった。
彼女の名前はリティシア。迷える子羊を救う立場ではあるが、その実、女性にはとことん甘く、男性にはひどく厳しいことで有名だった。なぜなのかは不明だが、懺悔室に入り同じ内容を話しても男性と女性では反応が正反対の結果になるというなんとも不思議なシスターである。その豊かな肢体にリティシアはなにやら嫌らしい笑みを浮かべ歩いていると、背後から足音が聞こえすぐに気持ちを切り替え、静かな笑みを浮かべながら歩いた。
(あっぶないあぶない。わしとしたことが、迂闊にも声が出そうになったわい)
そしてさらにこのシスター、御年七十を超える爺が転化したものである。転化する前は神であったのだが、極度の女好きに他の神も呆れかえってしまうほどだった。それならばと、爺は自分の姿をよぼよぼの姿ではなく、自分好みの女性に転化してしまえばいいという発想に行きついたのである。こうして自分好みの女性に転化し、シスターという立場を利用しあれやこれやと善からぬことを企んでいる最中、爺の魔力とシスターの魔力一致すると報告があがりあえなくバレてしまい破門されてしまったのだ。
行き場をなくしたリティシアは夕日を眺めながら涙を流していると、どこからともなく現れた人物に拾われた。それが、審理機関という集団だった。具体的な活動内容の報告はないが、罪人を裁くことをしているとどこからか情報が入っていた。それは、人気のないところで行われているのか、はたまた別室に誘拐をしているのかは不明。どのような基準で、どのような方法で裁くのか謎に包まれた機関であることには間違いない。
そんな謎多き機関ではあるものの、定期的に懺悔室を開放し悩める人の声を聴いているリティシアは気分も胸も弾ませながら懺悔室に入り、様々な悩みに向き合ってきている。ここでのリティシアの正体を知るものは誰もおらず、リティシアが口を滑らせない限り安全である。リティシアはほんの一瞬の気の緩みで一人称を「私」から「わし」に変わってしまう癖がある。その癖を隠し通せばなんとかなるのだが……はてさて。
「ふう。これで全員ですね。では、本日の懺悔室はこれにて終了とさせていただきますねー」
穏やかな笑みを浮かべながら懺悔室の扉を閉め、更には教会の扉も閉め終えたリティシアは息を吐き、小さく呟いた。
(やれやれ。癖を出さないというのも中々難しいのう……でも、ここで生きていくには仕方のないことじゃて)
誰にも聞こえない声でそう呟くと、背後で扉が開く音が聞こえた。ずかずかと歩くような足音には覚えがある。あの足音は……そう。
「ネーメね。おかえりなさい」
「ただいま。リティシア姉さん」
「んもう。その姉さんって……恥ずかしいわ」
「あたしにとって、リティシア姉さんは姉さんなんだ」
「……あなたがそう呼びたいのなら……」
二つの大きな戦斧を軽々と片手で持ち上げる少女─ネーメ。釣りあがった目はどこか挑戦的で暴力的。肩だしルックに黒いジャンバーを身に着け、ゆったりとしたパンツにはリティシアが身に着けているダイヤをモチーフにした飾りを付けていた。ネーメはここに入る前は生活はとても荒れていて、堕落しかけていたところをリティシアに声をかけてもらい、機関に入った。今ではリティシアを姉のように慕っており、非力で戦えないリティシアに変わってネーメが戦うこともしばしば。良くも悪くも純粋で、一度こう決めるとそう決めつけてしまう部分があり、罪がある者と判断したら何が何でも裁こうとする危うさもある。リティシアの前に立ちふさがったり、リティシアの代わりに戦うその姿はまるで騎士のような振る舞いだった。
ある日のこと。リティシアを守るため、相手を裁くため、戦斧を両手に持ちまっすぐに戦っている姿を見たリティシアはなんとも複雑な気持ちだった。
(こんなスケベ爺を、あの子だけはまっすぐな目で見てくるんじゃ。やりづらいったらないわい)
リティシアの正体をネーメにはもちろん明かしていない。だからこそなのか、ネーメはリティシアを本気で守ってくれている。純粋が故の迷いのない行動に、リティシアは背中辺りにむず痒さを感じていた。もし、正体を明かしてもこの子は変わらないのだろうか。一抹の不安を感じながら自分の身を抱いていると、ネーメの声が聞こえた。
「姉さん。断罪、終わりました」
その声にはっとしたリティシアは慌てて笑みを浮かべ、ネーメにお礼をすると流れるようにネーメの手を取り自分の胸元へ引き寄せた。
「ね、姉さん。何を……」
「もう。これは、わたしからのご褒美。可愛い子なら大歓迎よ♡」
「ね……姉さん……」
一瞬何が起きたのかを理解するのに時間を要したネーメは、やっと今起きている事態を頭で理解した時、このままだと窒息してしまうということに気が付いたネーメはリティシアの腕をばしばしと叩いて離すよう求めた。
「姉さん……苦しい」
「あらやだ。わたしったら」
解放されたネーメはやっと酸素の供給を許され、何度も肩で呼吸を整えた。リティシアはぜえぜえと呼吸するネーメを今度は後ろからぎゅっと抱きしめ再びネーメにお礼をした。
「いつもありがとうね」
「……いえ。姉さんの力になれるのなら……このくらい」
「うふふ。さ、今日も一日お疲れさまでした。美味しいご飯でも食べて、ゆっくり休みましょ」
リティシアはさりげなくネーメの手を握り、食堂へと向かった。この時、リティシアは自分の本当の姿では感じられない温もりを感じていた。そして、心の中でこう呟いた。
(あなたの光になるためなら、わたしだって……惜しまないから)




