中までほくほく♪スイートスイートポテト【竜】
手を伸ばせば雲に触れられそうなそんな天気。ほんの少しだけ冷たい風が吹く街道に、青年と少女それに一つ(?)の頭蓋骨がいた。青年は真っ赤な髪を立て露出の多い装備から見える鍛え抜かれた腹筋を見せつけるようないで立ちで、目つきも手にしている得物と同様に鋭く、もう一人の少女と話している口調も荒っぽかった。対して少女はその青年に対し非常に活発で元気がありあまっているかのようなはしゃぎっぷりだった。見るものすべてが新鮮に映っているのか、気になるものを目にしては青年に対し「あれはなに?」や「これってなに?」とまるで子供のように尋ねていた。青年は尋ねられる度に「めんどくせぇ」とぼやきながらも自分の知っている範囲で教えると、少女は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて答えてくれた青年に礼をした。
「お兄ってやっぱり物知りだね。勉強になるよ」
「……そうかよ」
「あ、ダーリンったら照れてる。カ・ワ・イ・イ♡」
「あーもう! うっせぇなお前たち!!」
青年─ガランはついにたまらず大声を張った。特に浮遊している頭蓋骨─骨美の一言が一番頭にきたらしく、骨美に対して拳をぶんぶんと振り上げる。
「てんめ、いちいちそんな声色で言うんじゃねぇよ! 気色悪ぃんだよ!」
「ンモウ、そんなに照れないでいいじゃない? ね? キアラちゃん?」
「ね? 骨美ちゃん? そうだよ。骨美ちゃんだってれっきとした女の子なんだよ? そんなこと言わないで!」
「……けっ。そうかよ」
骨美というのは、ガランが旅先でたまたま見つけた剣に宿っていた亡霊のようなもので、これを手にした冒険者の数は多数いたのだがどれもこの剣を手にすることはなかった。なぜなら、この剣に選ばれるのと骨美のタイプとは同意義なのだから。つまり、この剣を手にし扱えるということは骨美の好みの男性ということになる。得物との相性は抜群だし、なんなら今まで使っていた武器は何だったのだろうと思ってしまうほどの恐ろしく手に馴染む柄をぐっと握りしめるとそれだけで力が湧いてくる。それはただガランの魔力も含まれているが、それに加え骨美の愛も含まれているんだとかないんだとか。真偽は定かではないが、とりあえずガランが今まで扱ってきた武器の中で一番だということには変わりはなかった。
一方、キアラと呼ばれた少女は武闘派の兄とは別で魔法を駆使して戦うことを得意としている。特に火炎系の魔術は得意中の得意で、相手を怯ます程度の魔術を展開するのにほぼ詠唱なしで使用ができる程だとのこと。他にも変わった使い方として、頭に血が上った兄であるガランの周りを強めの火炎魔法を展開し、空気をなくし窒息させて大人しくさせるという少々危険なこともできる。これは兄妹だからできることであって、どうしてもキアラや骨美が物理的に手に負えないというときに限り、仕方なく魔法の力を借りて兄を大人しくさせることもしばしば。もちろん、加減はしているがうっかり気を抜くと大惨事になりかねないのでその時は骨美と上手く連携をして兄を落ち着かせることを優先に動いている。
妹のキアラが同行するのにも、ちょっとした出来事があった。本来、一人で行くつもりだったどこかのお偉いさんのパーティー会場の場所へ行くのに迷子になりたまたま近くの町で買い物をしていたキアラと遭遇し、疲れていたガランは思わず包み隠さずに話すとキアラは目を輝かせながら「一緒に行く!」と言って聞かなかった。こうなってはもう無理だと知っているガランは仕方なくキアラも自分の旅の同行を許可した。骨美はというと、元々キアラとは大の仲良しであるため何の問題もなかったのだが、ガランは大きな大きな溜息を吐きながら空を仰いだ。
「ねぇお兄。あそこに大きな町が見えるよ。ちょっと休憩していかない?」
「そうネ。結構歩いてきてるシ。一息入れても悪くないワネ」
「……寄らねぇ」
「えぇ! なんでよ! ちょっと休むくらいいいじゃない!」
「そうヨ! ダーリンは大丈夫かもしれないけど、キアラちゃんは疲れているのかもしれないジャナい!」
「……」
お互い頑固な部分で衝突することもあるのだが、今回折れたのはガランだった。だが、ガランがこの町に寄らないと言ったのにはもちろん理由があった。だけど、それを言えばもっとキアラは文句を言うだろうし過保護だと言われてしまうかもしれない。しかし、キアラと骨美のいう通り少しだけなら大丈夫だろうか……少し思い直し渋々といった様子ではあるが、ガランは「しゃーねぇな」と切り出した。
「……ほんの少しだけだかんな」
「ほんと?! やったぁ! お兄ありがと! さ、骨美ちゃん! おしゃれなカフェ探しましょ!」
「いいワネ♪ 行きましょ」
「……ったく……」
ガランの気苦労を知ってか知らずか、キアラと骨美は颯爽と町へと向かって走っていった。
「……何にも起きねぇといいけどな……」
胸の奥底で何かがぐずぐずと燻る感覚に苛まれながら、ガランも町の門を潜った。
その町は至って普通だった。露店でアイテムを売っている人もいれば、あちこちで談笑を楽しんでいる人もいれば、冒険者同士情報の交換をしている人と様々だった。だが、やはりガランはこの町から不穏な気配を感じている。それが何かまではまだわからないが……気を抜いてはいけないともう一人のガランが囁いていた。
「ねぇお兄。あそこのカフェ行ってみようよ。中はほとんど人がいないみたいだし、注文したらすぐにくるかもしれないね」
「もう、キアラちゃんったらさすがネ。行きましょ行きましょ」
「……」
キアラがカフェのドアを開けると軽快なドアチャイムが店内に鳴り響いた。その音に気が付いて店主らしき人物が笑顔を浮かべ出迎えてくれた。
「いらっしゃい。ちょうど昼時が終わったところなんだ。さ、好きなところへどうぞ」
「ありがとうございまーす」
「ナイスなタイミングだったワネ♡」
キアラと骨美は窓際のボックス席に座ると、最後に無言でガランがどっかと腰を下ろした。メニューを広げて何やら二人は楽しそうに話している間、続けて数人が店内に入ってきた。見たところ、その辺の冒険者だろうと思っていたガランは特に気にする様子もなく店内をぐるりと見回すふりをしてやりすごした。
「きーっまった。あとお兄だけだよ」
「……じゃあ、サンドイッチセットで」
「おっけー! すいませーん! 注文お願いしまーす!」
店主らしき人物がメモを片手にキアラたちの席へ向かう途中、さっきの冒険者たちはキアラたちのすぐ後ろの席に腰を下ろした。こんなにも席が空いているというのにそこへ座るのはなんだか妙だと思ったガランは無言のまま、その冒険者たちを睨みつけた。一人はいかにも剣士っぽい見た目のひょろっこい体をした男、隣には大きなロッドを手にした女性、次いで大きなフードで顔を隠した猫背の人物。思いのほか深くフードを被っていて性別を判別するのは難しかったが、腰についている短剣の柄の部分を見れば中々の手練れだということだけはわかった。
(こいつら……何が目的だ?)
ガランは冒険者たちの意図がまったくわからず、ただただ苦い顔をしているとガランが注文したサンドイッチセットが運ばれてきた。
「ほらお兄。サンドイッチセットがきたよ。どしたの? そんな難しい顔しちゃって……」
「……別に。なんでもねぇよ」
「? そう……なら、いいんだけど……」
「……って、お前どんだけ食うんだよ!」
「え? そうかな?」
テーブルに並べられた食事の量に思わず二度見したガラン。その量は女性が食べきれる量とは思えないほどの量だった。ホットケーキプレートにナポリタンとハンバーグのセット、野菜たっぷりのホットサンドとどれも重量感を感じるものばかりだった。しかし、当の本人は「さ、食べるわよ」とさも当たり前かのように手を合わせてフォークを握りナポリタンに手を出した。くるくるとトマトと香味野菜が溶け込んだソースをたっぷりと絡ませそのままパクリ。
「ん~! ちょっぴり酸味がきいてておいひ~!」
「キアラちゃん、ほんと美味しそうに食べるワネ。わたしも見てて嬉しいワ」
いつもながら、キアラの食べっぷりは見ていて気持ちいいのだが今はそんな気分ではない。何かと用心しておいた方がいいと感じているガランは運ばれてきたサンドイッチを適当にかじりつきながら警戒をしていた。
「お待たせしました。大粒モンブランのパフェでございます」
「わぁい! 美味しそう~!」
最後の最後でデザートを頼んだキアラはうきうきしながらスプーンを握り、ひとすくい。零さないよう口に運ぶと言葉通り笑顔が弾けた。思わず頬をおさえながらもぐもぐしていると、キアラは後ろにいる冒険者たちの会話が気になり一瞬、手を止めた。
「どうやらこの町の奥に秘伝書があるって噂だ。それを手にすれば魔法が使えない奴でも魔法が使えるようになるんだって」
「へぇ。そしたらリーダーにぴったりじゃないですか」
「剣を使いながら魔法も扱う……かっこいいじゃないか……うんうん」
そんな何気ない話をしていた冒険者たちは軽い食事だけを摂り、そそくさと出て行ってしまった。そして店内にはガランたちだけが残され、妙に寂しさが漂っていた。
「……ねぇ、お兄。聞いた? この町の奥に秘伝書っていうのがあるんだって。それを使えば、きっとお兄も魔法が使えて万能になれるかもよ?」
「いらねぇよそんなもん。本当にそんなものがあるのかも怪しいし、仮にそれを手にしたからといって本当に魔法が使えるのか……。いくらなんでも話がうますぎる」
「……お兄」
「それ食ったらさっさとこの町を出るぞ」
「……うん」
(ダーリンったらどうしたのかしら)
(わからない……この町に来る前から妙に表情が暗いというか……なんか……)
(そうよネ。何があったのかしラ)
ガランの様子が気になりだしたキアラと骨美。とりあえず、ここはガランの言う通り食事を終えたらこの町を出るという指示に従うことにした。わがままを聞いてくれたのだから、今度はこっちがお願いを聞く番だ。わかってはいるけど、キアラには気にあることがあった。
(もし、お兄が魔法を使えるようになったら……)
さっきの冒険者たちの会話がどうしても頭を離れず、食事を終えカフェを出たあとガランと骨美には内緒でこっそり抜けだし、冒険者たちが言っていた町の奥へと向かった。抜け出すことはさほど難しくはなかったのだが、問題は本当にこの町の奥にそのような秘伝書があるのだろうか。だけど、もしそれを手にして兄が扱えたら……なんて考えていると鬱蒼とした雑木林がキアラの目の前に現れた。他に道がないか確認しても、どうやらこの道しかなくキアラは自身に気合を入れ進むことにした。
「待っててね、お兄。きっと秘伝書見つけて戻ってくるから」
キアラは真偽が定かではない、魔法が使えない人でも魔法が使えるようになる秘伝書を求め木々をかき分け突き進んでいった。
「はぁ……はぁ……結構歩いたよね。奥ってどのくらいなんだろ……」
頬は枝に裂かれ、うっすらと血が滲み途中から水を含んだ土に足元を取られ長時間歩いて疲労が蓄積された両足を無理やりに動かしている。もうそろそろ見えてもいいころなのだがと思っていると、遠くで洞穴のようなものを見つけたキアラはぱっと表情を明るくさせ、気力を振り絞り進んでいくとそこにはさっきカフェで話していた冒険者一行がいた。
(本当にあるんだ。よーし)
冒険者たちに気づかれないよう、忍び足で近づきそれらしき物を見つけたら得意の火炎魔法で蹴散らせばなんとかなるだろうと甘く考えていたキアラの背後から鋭い衝撃が襲った。
「うっ」
遠のく意識の中、最後に見えたのは不気味に笑っている冒険者たちだった。
「……ん……」
「よう。気が付いたかい」
湿気が全身を纏わりつくような言葉で目を覚ましたキアラ。そこにはにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべた剣士が立っていた。その横ではくすくすと笑いながらロッドを握っている女性。そして、フードを深く被った人物だった。次に気が付いたのは、自身の自由がきかないことだった。まずは手首、そして足首、最後は口元とすべての自由を封じられていた。
「まさかこんな罠にはまるとは……君も間抜けだね」
「単純だけど効果は絶大ですわね」
「……早くしないと連れが来る可能性がある」
「わかってるって。さ、お嬢さん。あなたが身に着けている装備品、すべて剥ぎ取らせていただきます。そのあとは……ひひひっ」
悪寒が走ったキアラは思わず身じろぎした。きっとろくなことはないだろうと察したキアラは逃げ出すことはもちろん、声を上げることもできない。ただされるがままの状態である。必死に藻掻き抵抗していると剣士の顔に段々といらいらとした表情が浮かび、次の瞬間頬に衝撃が走った。
パシィッ
乾いた音ともに徐々に熱を帯びる頬。叩かれたのだ。まったく見ず知らずの人物に。こみあげてくる恐怖に唸ることしかできないキアラに、冒険者たちは下卑た笑いを浮かべながら一歩また一歩キアラに近づき装備品に手をかける。
「大人しくしていれば叩かれずに済んだものを……」
「んんん! んんんん!!!」
「抵抗しても無駄だっていうのがわからないのかい? この小娘は……魔法で大人しくさせましょうか」
「いや、魔力の無駄だ。騒がせておけば疲れて叫ばなくなるだろう。放っておけ」
「んんんん!!」
せめて口が自由だったらば得意の火炎魔法が使えるのに、この状況では何も使うことができない。キアラは目に涙を浮かべながら大好きな兄─ガランと骨美の顔を思い浮かべた。
(助けて……! 助けて……! お兄! 骨美ちゃん!!)
「ひっひっひ。さぁて、まずは足の装備から剥がして……っ!!」
メコォッ
嫌らしい笑みを浮かべていた剣士の顔が歪に凹んだ。それも骨が砕けるような音と共に。そして少し遅れて剣士は勢いよくぶっ飛び、洞穴の壁に激しく衝突した。もうもうと土煙を発しながら一瞬、何が起きたのか理解ができていない冒険者の二人とキアラ。やがて土煙が晴れると、そこには大好きなあの兄が立っていた。そしてその表情は……バチクソにキレれていた。
「おぉう。てめぇら、うちの妹に何してくれてんだ?」
「ダーリンの妹って知っての狼藉カシラ?」
残った冒険者の二人は口をぱくぱくさせながら首を横に振っているが、そんなことは関係ない。ガランは問答無用で残る二人も殴り飛ばした。
「大丈夫? キアラちゃん。さ、解けたワ」
「お兄……! それに、骨美ちゃんまで……どうしてここが……」
「この町、あんまりいい噂がないってどこかで聞いたことがあってな。そしたら……本当だったとはな」
「あらヤダ。キアラちゃん。頬、真っ赤ジャナイ? どうしたの?」
「どれだ! ……熱持ってるじゃねぇか。殴られたのか……?」
「……うん」
「そっか。すまねぇ。もっとオレが早く来ていれば……」
「そんな。お兄は悪くない。悪いには……何も言わないで飛び出したわたしだもの……」
「いや。すまない。代わりといっちゃなんだ。殴られた奴、覚えてるか?」
「え? あ、うん。今、あそこでのびてる剣士の人」
「……魔力の放出を許可する」
「え? でも、わたし加減できなくなるとどうなるか、お兄は知ってるでしょ?」
「……今日に限り許す。さ、お前が受けた痛み、あいつの体に刻んでやれ」
「お兄……うん。わかった。でも、さすがに調整するね」
「ワタシも許せないワ! キアラちゃんに傷つけた奴! ワタシの魔力も使って頂戴♡」」
骨美がそう言うと、キアラの体が段々と熱くなっていくのがわかった。どくどくと脈打つ魔力の胎動に呼吸を合わせ、魔力の放出先である手のひらに意識を集中させ静かにしっかりと詠唱をしていく。
「虚空の狭間にて吹き立つ荒神よ。一度唸りてその脅威を解き放て。エンシェント・イラプション」
凄まじい轟音と共に地面が激しく揺れ、次いで大地の裂け目から強烈な熱風が「ようやく外に出られた」とばかりに噴出した。荒れ狂う地面の中、必死に踏ん張りながらなんとか外へ出られたガランたち。それから少し遅れてキアラを騙した冒険者たちがひいこら言いながら出てきた。それを見つけたガランは冒険者たちをぎろりと睨むと、冒険者たちは情けない声で何度も謝りながら物凄い速さで逃げて行った。
「あ、待て! 畜生!」
「もう二度と顔を見せるんじゃナイワヨ!!」
言いたかったことが言えなかったガランは消化不良になりながらも、キアラが無事であったことにまずは安心していた。キアラはとりあえず魔力を調整しつつ熱風を制御し、沈静化させることに成功するとその場にすとんと腰を落とし、泣き出してしまった。
「お、おい」
「お兄……ごめん。わたし、お兄の力になりたくって秘伝書……探そうって……でも、結果はお兄に迷惑かけちゃって……ごめん……ごめんなさい」
大粒の涙をぽろぽろと零しながら泣くキアラに、ガランはどうしたものかと頭を掻きながらキアラを優しく抱きしめた。
「お前が無事ならそれでいい。だけど、もう無理すんな……わかったか?」
「お兄……うん……ごめん……ありがとう……」
「あぁ、アタシもダーリンのアツ~イ抱擁されたいワァ♡」
「あーもう! てめぇは黙ってろ!」
「いいじゃなイ。アタシもいつかはダーリンに抱かれるっていうのは諦めてないカラ♡ いつでも準備できてるから……さぁ、ダーリン♡」」
「諦めろ。今すぐに諦めろ」
「ぷっ……あはははは! もう骨美ちゃん、お兄、いいコンビすぎ! もう、お腹痛い! あはははは」
「どこがっ!」
「あら嬉シイ♡」
あべこべな答えにキアラはさらに笑い転げた。睨むガランに目をうっとりとさせる骨美。兄妹と浮遊する頭蓋骨という一風変わった一行が再び冒険の旅へ出発するのにそう時間はかからなかった。




