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決め手はメープル♪アップルカスタードカヌレ【神】

 神の国。それは天使や妖精、エルフが住まう場所。中でも天使たちは他のものたちが簡単に入れないよう、特殊な施錠をしている。そのため、天使たちの住まう場所を知るものはほぼいないと言っても過言ではない。

そんな天使たちが住まう中に、ひと際声を張り、指導をしている天使がいた。蜂蜜色のロングヘアーに同色のティアラをつけており、赤を基調としたローブを身に着けていた。背中からは神々しい純白の羽が生えており、その姿を見ただけでも心が洗われるようだった。

 彼女の名前はミカエル。四大天使の長であり、神の法を司る炎の大天使だ。天軍の総司令を務めており、有事の際はミカエルをブレーンとし、皆が動くという形をとっている。高潔を尊び、責任感が非常に強い性格をしている反面、融通が利かなかったりたった一度でも「悪」だと判断した場合は徹底的に裁きを下すという非常に厳しい性格の持ち主。非常に怒りっぽい面は自覚をしている……つもりではあるが、つい瞬間湯沸かし器となり、叱責をしてしまう自分を何度も何度も反省してきた。友人たちから教えてもらった言葉─「短気は損気」をいつも胸にしまい込み、今日も訓練に精を出していた。


「もう音を上げるのか。まだまだ訓練はこれからだ」

「ひ……ひぃい……」

「情けない声を出すな。さぁ、持ち場に就き剣を構えろ」

 ミカエルが直々に剣を取り、新米兵士たちに訓練をつけていた。入ったばかりの兵士たちは剣も握ったことのない新米中の新米ばかりだった。ほかの担当者なら「これは骨が折れるなぁ」と嘆くところ、ミカエルは「鍛え甲斐があるな」と言い、目を輝かせていた。何はともあれ、まずは実践形式で教えるのが一番手っ取り早いと思ったミカエルは新米兵士たちに剣を握らせ、素振りをさせた。数えるのも億劫になるくらいまで素振りをさせた後、小休止を挟み今度はミカエルとの実践。選ばれた新米兵士の腕は既にぱんぱんで握ることがやっとな新米兵士にミカエルは容赦なく剣を振るった。

「剣が下がってきているぞ。しっかり握らないとやられてしまうぞ」

「は……はひ……」

「お前はもっとできるはずだ。なぜ本気を出さない。疲れたふりをすれば私が手加減をするとでも思っているのか?」

「く……くぅう」

「そんな甘い考えは捨てろ。さぁ、私から剣を奪ってみろ」

「う……うわぁあ!!」

 新米兵士は残っている握力の全てを使い、ミカエルが振り下ろした剣を弾いた。金属と金属がぶつかる音が訓練施設の中に響くのと、静寂が広がるのは同時だった。しばらくしてからミカエルが握っていた剣が訓練施設の冷たい足場に突き刺さると、新米兵士ははぁはぁと肩で息をしながらミカエルをキッと睨みつけた。

「これで……満足ですか……」

 まさか本当に剣を弾かれるとは思っていなかったミカエルは、手に残っているびりびり感を噛みしめながら新米兵士を見た。

「上出来だ。更に力をつけるんだ。今日の訓練はここまでだ。明日もここに集合だ」

 まだ手の痺れが残っているミカエルは新米兵士たちにくるりと背を向け、退室しようとしたときこそこそ話が聞こえた。

(なぁ。ミカエル様っていっつも厳しいよな)

(なんというか……冗談がわからないっていうか、すぐ怒るよね)

(わからないことがあっても迂闊に聞けないよな。なんか近づきにくいし)

 雑踏の中、ミカエルの耳に入ってきた言葉。言い返したい気持ちもあるのだが、今はぐっと歯を食いしばりその場を後にした。


 自室に戻り、ミカエルは自身の顔を鏡で見た。

「ひどく疲れているな……ははっ」

 自嘲し、力なくベッドの上に転がると大きく溜息を吐きながら天井を仰いだ。

(厳しいよね)

(すぐ怒るよね)

(近付きにくい)

新米兵士たちに言われた言葉がミカエルの苦い思い出を呼び起こした。

 それは、天軍の椅子が埋まっていた頃の話。いつもの通り、会議を始めようと軍事指令室に招集をかけたのだが中々集まらなかった。もう間もなくだというのに……心配になりつつ苛立ちを隠せないミカエルは何度も時計を見ていた。

「ごめんごめーん。遅くなっちゃったー」

 最初にやってきたのは風を司るラファエル。申し訳なさそうに入ってくるも、どこか楽しそうだった雰囲気が拭えていない様子にミカエルは小さく「構わん」とだけ返した。その後、少し時間が経ってから知を司るウリエル、氷を司るガブリエル。それともう一人、今回は少し違った観点からも意見を取り入れたいというミカエルの希望があり、呼んでいるのだが……中々やってこない。

「来ないね。何かあったのかな」

「まぁ、もう少し待ってみましょうか」

「……とっくに開始時間は過ぎているのだがな」

 明らかに怒っている口調に、ラファエルとウリエルはあははと小さく笑い窓の外に目を反らした。そんな中、ガブリエルは一人静かに読書をしていた。


 キィ

 

 扉の開く音に気が付いたのはラファエルだった。その声にウリエルは扉から現れる人物が誰なのかを待っていると、そこにはただ冷たい表情の男性が入ってきた。

「あれ……君は……」

「確かぁ……」

「ルシフェル。遅い」

「……すまない」

 光を掲げるもの─ルシフェルは非常にのっそりとした動作で着席すると、ミカエルはようやくかと言わんばかりに大きく息を吐いた。

「定時より少し押しているが、定例会議を始める」

「はぁい」

「さっさと終わりにしましょう。読書が捗りませんわ」

 ガブリエルの一言を気にしつつも、ミカエルは今後の方針について考えをまとめた。報告書によると、どれも細々としているが問題があちこちで起こっているようだった。あっちではマナの供給不足、こっちでは妙な噂に振り回されているから探ってほしいなど様々だった。

「マナの供給不足? 何があったんだろ」

「では、その調査を私たちが行きましょう」

「え? わたし……たち?」

「ええ。一緒に頑張りましょ。ラファエル」

「あ……はぁい。ボク、がんばりまーす」

 にっこりと笑いながらラファエルを見るウリエルに何も言い返せず、ただ静かに挙手をするラファエル。ほかの調査にあたってはガブリエルとルシフェルに担当してもらいたいと伝えると、ガブリエルは本に栞を挟み「仕方ありませんね」といいすっくと立ちあがった。そして静かに部屋を後にするガブリエルについていくかと思われたルシフェルは……まだ着席したままだった。

「おいルシフェル。お前も調査に行くんだ」

「……わかっている。だが、その前に一つだけ」

「な……なんだ」

 普段、あまり意見をしないルシフェルがミカエルの目を真っすぐ見ながら言った。

「今日までお前の言動を見てきたが……さすがに気を張りすぎではないかと思ってな」

「……なに?」

「お前は周りに気配りというものがあまりできないようにも思えるときがある。我々はある程度お前のことを知っているからいいものの、知らない奴からすればただの威圧にしか過ぎん」

「……時間も守れない奴には言われたくない」

「そういうところだ。まぁ、遅れてしまったことは素直に詫びよう。だが、もう少しあり方について……」

「お前に何がわかる!」

 ルシフェルの話の途中、ミカエルは瞬間的に頭に血が昇り怒鳴った。それは今まで苦難を乗り越えてきた同志に対して幾度となく発してきた言葉。なのだが、今回に限ってはミカエルの痛い箇所を容赦なく突かれ我慢ができなくなり、怒鳴ってしまった。

「規律を重んじ、法を守るのはわたしたちの基本だろう。それができなくて、どうやって下の者たちに示そう」

「……」

「お前は、わたしのやり方が気に入らないと言いたいのか」

「……そうではない。もう少し考えを柔軟に持ってはどうだというのが本音だ」

「……っ」

 頭ではわかっている。もう少し考えればわかることなのに、それが出来ずいつも怒鳴ってしまう。怒ってしまう。今回もルシフェルは自分のことを思って言ってくれているというのは頭ではわかっている。だが、口はそうではなかった。

「規律、法を守れないというのなら……もうどうにでもなってしまえ」

「ちょっとミカエル! 何言ってるの!」

「そうよ~。ちょっと頭を冷やして」

「……そうか。なら、好きにさせてもらおうか。ルシフェルという名で呼ばれるのは、ここで最後かもしれないな」

「え? それってどういう……ちょっと! ルシフェル! ルシフェルったら! どこ行くの!」

 ラファエルの静止も聞かず、ルシフェルは入ってきた時と同じようにゆっくりと歩き軍事指令室を後にした。


 ─その後、ルシフェルは堕天したと報告があった。


 自分がきつく言いすぎてしまったからなのか、はたまた違う理由なのかはわからない。でも、ルシフェルは前から天軍の規律や法について色々言っていたのを思い出した。やれ厳しいだの、やれ窮屈だのと散々言われてきたのだが、直さなかった。これも、天軍が天軍であるためであると思いずっと続けてきたこと。

「……ルシフェル。元気にしているのだろうか」

 かつての仲間は自分のせいで敵対してしまったという思いから、ミカエルは少しずつでもいいから自分を変えてみようと努力を続けていた。しかし、その効果が実感できるのはまだ先の話かもしれない。


 冷え切った椅子は主の帰りをいつまでも待ち続けていた。

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