モンブランクリームたっぷりのミルクレープ【神】
「これより、聖名の儀を行う。前へ」
「はっ」
雲一つない澄み渡った空の下、白を基調とした教会の中では一つの儀式を行っていた。神父らしき人物が一人の青年に杖を振りかざすと、青年の足元にあった数々の剣はふわりと宙を舞った。その剣はその青年を守るかのように周囲を囲んでいるのをみた神父は満足そうに頷き、聖書を閉じた。
「本日より、お主は『ブレスドソーディアン』を名乗るがよい。この街の平和を守っておくれ」
「このブレスドソーディアン。この命にかえてもお守りいたします」
こうしてこの街にブレスドソーディアンが誕生した。
眩い金色の髪にきりりとした瞳、そして深くも鮮やかな青のクロークには金色の刺繍が施されている。その刺繍には聖なる加護があるといわれ、着る者を守ってくれるという話だ。ブレスドソーディアン(本名ではない)は、生まれながらにして聖なる存在から加護を得ている剣士である。その剣技は幼い見た目からは想像もつかないほど素早く、そして的確な剣運びだと言われている。そして先ほどからブレスドソーディアンの周りをふわふわと浮いている剣は聖なる加護によって特別な力が付与されており、邪悪な存在を打ち滅ぼすことができる。剣の心得がある彼に持たせれば、その力は大人数人分とも言われているほど強力なものだ。今日、ブレスドソーディアンを名乗ることができたのは、数々の試練を乗り越えてきた彼にこそ相応しいと神父は前々から話していたと街の人はいう。
儀式を終えたブレスドソーディアンは、教会の外に出た。何ができるかを考えた結果、まずは街の巡回をすることにした。怪しいところがないか、はたまた困ったことがないかを住民に聞き調査をしようと決めたブレスドソーディアンはエレガントな足取りで居住区へと向かった。心地よい風に吹かれながら居住区に到着したブレスドソーディアンは、柔らかい物腰で聞き込みを開始した。気になることならなんでも構いませんというと、誰しもが口を揃えてこう言った。
「平和ですよ。気になることがないというのが気になるくらいですかね」
なんと全員が全員。特に気になるところがないという返答だった。これにはブレスドソーディアンも驚き、まさかの結果に少しだけ複雑な思いを抱えた。
「ま、まぁ。平和が一番ですからね。何もないというのは、その証拠です」
無理に探すことも野暮だと思ったブレスドソーディアンは肩をすくめ、自宅に戻ろうとしたときだった。居住区より少し先のほうで誰かの悲鳴が聞こえた。
「……っ! 今の声は!」
ブレスドソーディアンは微かな手掛かりを逃さぬよう、耳をそばだてながら声がした方へと駆けた。やがて居住区の出口付近で、男の子が足を震わせながら立っているのが見えたブレスドソーディアンは安堵と共に更に足を速め男の子を保護した。
「無事ですか?」
「あ……あ……はひ……うぅう」
今にも感情の風船が爆発しそうな男の子の頭を優しくなで、居住区へと戻るよう促すと男の子は小さく頷き走っていった。男の子の安全が確保できたのを確認してからブレスドソーディアンの目は剣のように鋭くなり、声を張った。
「街の平和を脅かす者よ。出てきなさい」
しばらくして脅かす者は「ちっ」と舌打ちをするような音と共に足から順々に正体を現していった。
「あーあ。バレないと思ったんだけどなぁ」
それは小悪魔のような少年だった。いかにも悪戯が好きそうなその口元にだらりとした舌。青色の髪から覗く短い角、そして少年の腰あたりからうねうねと動く細い尾。その小悪魔はわざと大きな溜息を吐き、うんざりさをアピールすると、ブレスドソーディアンは更に目を細め、剣を構えた。
「平和を守るため、参るっ!」
「んだよ。ちょっとからかっただけじゃねぇか。そんなことでいちいちカッカしないでもらえるかな」
気怠そうに答える小悪魔に、ブレスドソーディアンは容赦しなかった。小悪魔はからかったつもりなのかもしれないが、あの少年の怯えようは異様だった。まるで生命を奪われるのではないかと思えるほどの恐怖を感じたのではないだろうか。そう考えるとブレスドソーディアンは尚更許せなかった。
「口を慎みなさいっ!」
「はっ! なぁに一人でアツくなってるのさ。でもまぁ、アンタならいい暇つぶしができそうだ」
「……っ!! あまく見ないでいただきたい」
ブレスドソーディアンは剣に魔力を込めると剣の切っ先が白く淡く光った。その光を対象物に目掛け放射すると、小悪魔の動きは僅かではあるが鈍くなった。
「なんだ? 体が思うように動かねぇ……てめぇ、何しやがった」
「街の平和を脅かす者に言う必要はありません」
ただ冷淡にそう答えると、小悪魔は大きな舌打ちをし今度は姿を消してブレスドソーディアンを挑発しはじめた。声は歪み、至る所で小悪魔の声が聞こえる気持ちの悪い空間の中、ブレスドソーディアンはその間に頭をクールダウンさせた。ブレスドソーディアンは更に魔力を集め、今度は自身が握っている剣に込めた。そしてとある一点を見つめながら、呼吸を整え……。
「そこです!」
覇気迫る刺突を繰り出すと、そこから大きな悲鳴が耳に響いた。
「ぎゃああ! くっそ、てめぇ。いい気になるなよ!」
「そこまでです」
痛みと魔力で動きが緩慢になった小悪魔は目をむいてブレスドソーディアンを睨むのと、ブレスドソーディアンが最大魔力を込めた刺突を繰り出したのは同時だった。
「言うのを忘れていましたが、私は手加減ができない性分でして」
霧散する小悪魔にそう捨て台詞を吐き、クロークを整え辺りにまだ残党が残っていないかを確認するととくにその気配も感じないので、本当の意味でほっとしてから居住区に戻ると、さっきの男の子の保護者が祈るように手を組んで待っているのが見えた。
「ブレスドソーディアン様。お怪我はないですか?」
「なんとお礼を言ったらよいか……」
ブレスドソーディアンの顔を見るや否や口々に言う住民に、慌てているとさっきの男の子がとてとてと歩み寄り、にこっと笑った。
「おにいちゃん、たすけてくれてありがとう!」
「……無事で何よりです。あまり街の外には出ないようにしてくださいね」
「うん! わかった!」
「これ! おにいちゃんだなんて。ブレスドソーディアン様と言いなさい」
保護者が男の子に注意をすると、ブレスドソーディアンは「構わないですよ」と柔らかく笑んだ。そして男の子の頭に手を乗せ、保護者や集まってくれた住民に軽く会釈をしてからブレスドソーディアンは帰路へと就いた。明日も平和であることを願いながら。




