たっぷりミルクとバターのねこねこクッキー【神】
目が覚めると、そこはいつもの寝室だった。ふりっふりのフリルがついた天蓋付きのベッドですやすやね寝息をたてているのは、我の主─シェムケリー。父親と母親から「何か召喚してみましょうか」と軽いノリで召喚されたのが我なのだが……最初に主を見たとき「随分と甘く見られたな」と思っていたのだが、それは数秒後に覆ることとなった。
実はシェムケリーは、この家族の中で一番の魔力を有しているとのことだった。我を見ても怯えるどころか、頬を膨らませながら「可愛くない」と言われたのは今でもしっかり覚えている。それからというもの、部屋の中にあるシェムケリーのリボンやらなんやらで「可愛く」された我を鏡で見たときは、あまりの情けなさにこの家を壊してしまおうかと思う位に大きな声を挙げたのも懐かしい。それをシェムケリーは「煩い!」と一括しただけで、我の口をあっという間に塞いでしまった。抗ってもその術は解けるどころかより強固なものとなり我の口をきつく締めあげた。解放されたとき、我は思った。「あ、これは無理だ」と。そこから仕方なく主の従者となり、今日まで主の「可愛い」に付き合わされてきた。我の首にある錠を模した首飾りは我の力を制御し、完全な力を発揮するとわかると自動的に力がそれ以上入らなくなる魔法が込められていた。これがある以上、主が飽きるまで付き合うこととなる。最初こそ嫌だと思っていたのだが、時が経つにつれてほんの僅かにそれも悪くないかと思うようになった。人間の生とは我にとっては短いもの。せめてそれが消えるまでか弱い主に付き合ってもいいかと。
我がゆっくりと体を起こすと、主もその音に気が付きもぞもぞと体を動かした。しばらくして目を擦りながら上体を起こすと大きな欠伸を一つ。
「ふわぁあ。魔神ちゃんおはよう」
周囲からその恐ろしい力を有していると言われている我をちゃん付けで呼ぶ主。今は「はいはい」と慣れた様子で軽く返事をすると、目覚めの一杯の準備に入った。今日はさっぱりとイングリッシュブレックファストにでもするかとティーポットを準備しようとしたとき、主が突然「あーーーー!」と大きな声を挙げた。その声に驚いた我は危うく主お気に入りの猫柄のソーサーを落としそうなった。なんとかソーサーを落とさずに済んだ我は安堵の息を吐くと、主は大きな鏡に向かってぴょんぴょんと跳ねていた。
「ねぇね! 見てみて魔神ちゃん! ねこ! 猫耳が生えてるの!」
そんなまさかと思い、主の頭を注意深く見ると確かにぴこぴこと動く小さな三角形のものが……猫耳だ。これは一体なんの魔法だと我が困惑していると、主は「ほらほら。魔神ちゃんも見てみなよ」と言い、鏡を我に向けた。
「に゛ゃああああああん!!(悲鳴)」
生えてる。生えている。我の頭にも……三角形のぴこぴこした耳が……生えている。まさかと思い、自分の手で触ってみると……間違いなかった。生えていた。
「やだぁ~! 魔神ちゃん可愛い~~!」
主は我の耳を何度も何度もふにふにしてきた。く、くすぐったいから今すぐにでも辞めてほしい。
「あ、そうだ。せっかくだし今日一日この格好で遊びましょ」
え?
遊ぶ??
一日???
未だかつて強力な魔力を持つ魔神が猫耳をつけたことがあるか。いや、ない。そもそもそんなところに注目すらしない。どう考えてもおかしいこの状況に沈んでいる我とは対照的に、主は何度も自分の頭部から生えた猫耳を何度も何度もぴこぴこと動かし喜んでいた。
「ねー、魔神ちゃん。いつまでそんな暗い顔してるの? ほら、こっちきて一緒に遊びましょ」
はぁ。仕方ない。こうなったらなるようにしかならん。我は腹を決め、主がしているポーズと同じポーズを鏡の前でとった。じわじわと押し寄せてくる恥という波をなんとか堪えつつ何度かポーズを決め終えると、今度は写真を撮ろうと言い出した。さ……さすがに写真は……仕方ない。主はカメラと呼ばれる装置を手に取り構えた。
「はい、こっちこっちー! 魔神ちゃんポーズ決めてー! はい、ポーズ!」
カシャッ
一瞬目の前が白く発行した。眩しさに目を瞑ってしまうと主は「もう一回撮ってみよう」といい、カメラを構えた。今度は目を瞑らないように……瞑らないように……。
カシャッ
今度はなんとか我慢することができた我。上出来ではないだろうか。結果はすぐのすぐにはわからないのが少し残念だが、できたときの楽しみとしておくか。満足そうにカメラをしまい、今度はさっきのポーズを連続でとってほしいと言われた。またあの恥ずかしいポーズをとるのかと思うと恥の波が徐々に大きな山を形成していった。それでも主がやりたいと言ったらそうなのだ。我は諦めて主と同じポーズを何度かとった。
「魔神ちゃん。いい感じ~! ささ、今度は……こうよ!」
少し複雑になってきたが……その位は造作もない! 連続でポーズを決めていくうち、我は段々と楽しくなり、鏡に映る自分の顔はいつの間にか笑顔が浮かんでいた。こんなに自然に笑ったのはどのくらいぶりだろうか……今はこの楽しいという気持ちを大事にしていたいという気持ちから、主からの要望も進んで飲んでいった。我がポーズをとれば主は笑い、その笑っている顔を見て我が元気なり又ポーズをとりを繰り返していくうち、時計のおいかけっこは何度も何度も行われていた。
目が覚めると、そこはいつもの寝室だった。ふりっふりのフリルがたくさんついた天蓋付きのベッドですやすやと寝息をたてているのは我が主─シェムケリー。なんか変な夢を見たような気がしたが……そんなに悪い気分ではない。我は主を起こさないようゆっくりと起き、窓の近くにある大きな鏡を覗き込んだ。そして、確認した。夢の中では我の頭から猫の耳が生えていたような……しかし、今は何もなくあれは夢だったと安心し胸を撫でおろした。気持ちよく眠っている主はどんな夢を見ているのだろうか。その寝顔は笑顔でいっぱいだった。




