ちょっぴり酸っぱいレモントルテ【神】
「今日も風が気持ちいいね。クオン」
雲一つない空を悠々と泳ぐ聖獣─クオン。そしてその背に乗っているのはクオンを使役している聖鳥の巫女─セツナ。少しだけ風が冷たいが、修行が終わったばかりのセツナにはちょうどいい涼みになっていた。クオンはばさりと翼を広げ、羽で風を捕まえさらに滑空をしていると眼下に広がる青い海を見て小さく鳴いた。
「わぁ! きれいだねクオン! ね、ちょっとだけ寄っていこうか」
クオンは「そうだね」と言いたげに鳴くとゆっくりと地上へと迫った。砂浜に着地する寸前で何度かホバリングを繰り返し、安全に着地ができるように配慮をするとセツナは慣れた様子でクオンから降り、軽く抱きしめた。
「クオン。ありがと。それと、わがまま言ってごめんね」
小さく舌を出し謝るセツナに、クオンは「気にしないで」とばかりに何度か翼を動かすと、海辺へと走っていく無邪気なしゃぐセツナを見送った。
「あっはは。ちょっとだけ冷たいけど、気持ちいいよー」
いつの間にか素足になり、海水に足をつけ楽しんでいるセツナはさっきまで歯を食いしばって修行をしていた姿とは似ても似つかない程に眩しかった。
自分の実力が不足しているせいで、聖鳥クオンの本当の力を引き出すことができていないことにセツナは何度も悔しい思いをしてきた。今度こそ、今度こそと何度も挑戦をしてきているのだが、その度に失敗し未だクオンの本当の力を引き出せないでいた。それでも、セツナは持ち前の一生懸命さを発揮し最近はほんの少しだけクオンの力を引き出すことに成功している。師匠からも「よくできた」と言われるも、当の本人は「まだまだです。これじゃあまだまだ足りません」と目を尖らせていた。師匠はやれやれといった様子で修行を再開させると、セツナはさっき掴んだ感覚を確認するかのように修行へと励んだ。
そんなセツナをいつも傍で見ていたのは、何を隠そうクオンだった。クオンはそんな頑張るセツナを温かい目で見守っていくうちに、その瞳には確かな信頼関係が映し出されていた。
「あともう少し。頑張って」
クオンはセツナを励ますように高く鳴くと、セツナは鼓舞されたのか残っている力を使いクオンの本当の力が出ますようにと祈りながら吠えた。その声が届いたのか、師匠は大きくうなずくと「わしからはもう教えることは何もない。あとは自分の力を信じるだけだ」とだけ言い残し去っていった。
師匠からはもう何もないと言われてしまったセツナはどうしようかと考えた末、各地を飛び回りながら修行をすることに決めた。師匠からの教えのほかにも自分で得ることができるかもしれないと思ったセツナは必要最低限にの荷物だけを持ち、さっそくクオンの背に乗り大空へと飛び立った。
「ねぇねぇ。クオンもおいでよ」
波打ち際ではしゃぐセツナ。これからどんなことがあるかはわからないけど、今はどうか心から楽しんでほしいと思ったクオンはまるでスキップをするかのような足取りでセツナに向かっていった。
「あははは! ねぇクオン! あそこに見える島まで行ってみようよ!」
セツナが指さす方向には小さな島が浮かんでいた。そこには何があるのか興味を持ったセツナは、クオンに提案するとクオンは大きく羽を広げて飛ぶ準備をした。
「えっへへ。クオン。ありがとう。よーし、しゅっぱーつ!」
ばさばさと何度か翼を動かすと、足が地上から離れ次に後ろに強く引っ張られた。セツナはクオンにしがみ付きながら今度は何を発見できるか楽しみで仕方がなかった。
「これが終わればまた修行をするから。もう少しだけ……ね」
誰にむけてかはわからないが、セツナは小さく呟くとまたぺろりと小さく舌を出した。




