↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/101

80話 清掃おじさん、超緊急事態を聞く

 俺と白峰さんは、札幌第一ダンジョンの作業を終えてすぐ、当日中に東京の探索者協会本部へ戻ってきていた。


 北海道から急いで戻ったせいで、楽しみにしていた札幌ラーメンは食べられなかった。

 残念ではある。

 ただ、本部の会議室へ入った瞬間、そんなことを考えている場合ではないと分かった。


「田中さん!」


 水野さんがこちらに気づいた。


「お疲れ様です。皆さんも呼ばれたんですね」

「うん。稽古してたら急に招集かかってさ。詳しいこと全然教えてくれないし」


 会議室には既に大勢の探索者が集まっていた。


 空さんと海さん。

 獅子堂さん。

 神崎さん。

 そして俺の隣にいる白峰さん。

 これで、日本国内のS級探索者五人が全員揃ったことになる。VIVIDも居て、戦力的にはとても豪華だ。


 他にも見覚えのない探索者が数人いた。

 装備や雰囲気を見る限り、全員かなりの実力者なのだろう。後で聞いたところ、各地から招集されたA級上位の探索者達らしい。


 そこに俺。ダンジョン清掃員。

 何度経験しても、この中に自分が混ざっていることへの違和感が凄い。


「おっちゃん、遅かったな!」

「これでも飛ばして来たんですよ」


 獅子堂さんがいつもの調子で声をかけてきた。


「北海道は片付いたんか?」

「はい。異常魔素は『清掃』してきました。ただ、ちょっと気になることがあって⋯⋯」

「気になること?」

「その話も、ここでした方が良さそうです」


 俺が答えると、白峰さんも頷いた。


 東京の天城空さん、天城海さん。

 大阪の獅子堂剛毅さん。

 北海道の白峰冬馬さん。

 そして福岡の神崎修司さん。

 普段なら、この五人が一ヶ所に集まることなんてほとんどない。


 その全員が緊急招集されている。

 それだけでも、今回の事態が普通ではないことは十分伝わってきた。


 やがて協会職員達が入室し、正面の大型モニターに日本地図が映し出された。


「お待たせしました。全員揃いましたので、緊急対策会議を開始します」


 室内から話し声が消える。


「本日未明、三重県の伊勢ダンジョンにて、大規模な異常魔素の発生を確認しました」


 画面上の一点が赤く表示される。


「これまで全国各地で確認されていた異常と同系統のものと見られています。しかし、今回の規模はこれまでとは比較になりません」


 画面が切り替わった。


 伊勢ダンジョン内部の映像らしい。

 壁や床が黒く変色し、至るところから黒い結晶が突き出している。


 北海道で見たものと似ている。

 だが、その量が違う。


「現在、異常魔素は複数階層で急速に増加しています。既に通常の探索者が活動できる濃度を大幅に超えた区域も確認されています」

「複数階層?」


 空さんが眉を寄せる。


「これまでの異常は、一ヶ所が中心だったでしょう?」

「はい。そこが今回の異常を重大視している理由の一つです」


 職員が別の資料を表示した。


 伊勢ダンジョンの階層図。

 いくつもの階層が赤く塗られている。


「異常発生を確認した直後にダンジョンを封鎖し、内部にいた探索者の退避を開始しました。現時点で確認できている民間探索者については、ほぼ退避を完了しています」


 ほぼ。

 その言葉が少し気になったが、職員は説明を続けた。


「加えて、内部のモンスターにも急激な変化が発生しています。個体数の増加、通常より高い階級のモンスターの出現、既存個体の異常な魔素濃度上昇などが同時に確認されています」

「どの程度まで上がってるんや?」


 獅子堂さんが聞いた。


「現在確認されている中ではA級相当が最高です。ただし、観測機器の反応から判断すると、さらに強力な個体が存在する可能性が極めて高いと見ています」


 会議室の空気が変わった。


「S級も出ると思っといた方がええっちゅうことやな」

「はい」


 職員がはっきりと答えた。


「現時点では、何が出現するかまでは予測できません。ただし今回の魔素量を考慮し、協会ではS級モンスターが出現することを前提として作戦を立案しています」


 S級モンスターが出るかもしれない。

 それだけで、日本のS級探索者を全員集めるには十分な理由なのだろう。


「田中さん」


 職員が俺を見る。


「はい」

「札幌第一ダンジョンで、異常魔素について新たに気づいたことがあると白峰さんから報告を受けています。説明していただけますか?」


 いきなり全員の視線が俺に集まった。

 こういうの苦手なんだけどなぁ⋯⋯。


「えっと⋯⋯俺にも詳しい仕組みまでは分かりません。ただ、北海道の異常を『清掃』した時に、今まで引っ掛かってたものが何となく分かったんです」


 上手く言葉を選びながら、感じたことを説明する。


「全国で起きてた異常は、それぞれ別に発生してるんじゃないと思います。北海道も東京も静岡も愛知も大阪も広島も沖縄も、それから福岡も。全部、地下のどこかで繋がってる」


 職員達が俺の話を聞きながら資料へ目を落とす。


「今まで俺が『清掃』してきた亀裂は、異常魔素の発生源じゃありませんでした。多分、どこか別の場所から流れてきた魔素が漏れ出してる、小さな穴みたいなものです」

「その大元が、今回の伊勢ダンジョンにあるということですか?」

「それは分かりません」


 そこははっきり否定した。


「俺が分かったのは、どこかから来てるってことだけです。伊勢が大元なのか、伊勢も同じように魔素が流れ込んでるだけなのかは、実際に行ってみないと何とも言えません」

「なるほど⋯⋯」


 職員が頷く。

 そこで神崎さんが口を開いた。


「ただ、全国の異常を処理した直後に伊勢でこれだけ大規模な異常が起きた。無関係とは考えにくいですね」

「僕もそう思います」


 白峰さんも続ける。


「少なくとも、田中さんが感じた魔素の流れと今回の異常に関係があるかは、現地で確認する必要があるでしょう」


 会議室にいる全員が、再び正面の画面を見る。


 真っ赤に染まった伊勢ダンジョンの階層図。

 今まで一ヶ所ずつ潰してきた異常とは、明らかに様子が違う。


「そのため、今回の作戦には日本国内のS級探索者五名全員に参加していただきます」


 職員が告げる。


「加えて、A級上位探索者を中心とした選抜部隊を編成します」

「はい!」


 水野さんがすぐに返事をした。

 黒川さん達も異論はないようだった。


「田中さんには、異常魔素の発生箇所を特定し、可能であればこれまでと同様に『清掃』をお願いします」

「分かりました」


 俺の仕事も、結局はいつも通りだ。


 原因まで辿り着いて、掃除する。

 ただし今回は、そこへ行くまでがとんでもなく大変そうだ。


「作戦の最優先目標は異常事態の収束です。内部では何が起きるか分かりません。S級モンスターとの遭遇も想定し、各自、これまで以上に慎重に行動してください」

「ずいぶん大所帯になったなぁ」


 獅子堂さんが椅子にもたれながら言った。


「S級全員にA級まで集めて、日本の総力戦やん」

「実際、その認識で間違いありません」


 職員の返答に、獅子堂さんの笑みが少しだけ消えた。


「今回の伊勢ダンジョンには、日本国内で即時投入可能な最高戦力を集中させます」


 日本の総力戦。

 大袈裟な言葉に聞こえる。


 けれど、部屋の中を見ればそうでもない。


 日本のS級が全員いる。

 A級上位の探索者達がいる。

 VIVIDもいる。

 そこに、何故か清掃員の俺までいる。


 全国を回り始めた頃には、こんなことになるなんて思ってもいなかった。


「出発は?」


 空さんが聞く。


「準備が整い次第です。既に移動手段はこちらで手配しています。現地到着後、最終確認を行い、即座に伊勢ダンジョンへ入っていただきます」

「随分急ね」

「異常魔素は現在も増加しています。一秒でも早く対応する必要があります」


 空さんが腕を組み、それ以上は何も言わなかった。

 

 会議が終わると、全員がそれぞれ準備のために動き始めた。

 俺も席を立ったところで、水野さんが近づいてくる。


「田中さん」

「はい?」

「北海道、どうだった?」

「今その話します?」

「だって気になってたし」

「海鮮はめちゃくちゃ美味かったですよ」

「そっちじゃなくて!」


 水野さんが笑う。


「白峰さんと仲良くなった?」

「なりましたよ。今度また北海道行ったら飲みに行く約束もしました」

「やっぱり!海さんの言った通りじゃん!」


 少し離れたところにいた海さんがこちらを見て、小さく頷いた。


「言った通り」

「何で分かったんでしょうね」

「似てるから」

「俺と白峰さん、そんなに似てます?」

「おっさん同士やからやろ」


 横から獅子堂さんが割り込んできた。


「獅子堂さん、それ白峰さんの前でも言えます?」

「余裕や。なあジジイ」

「獅子堂さん」


 いつの間にか後ろにいた白峰さんが、笑顔で獅子堂さんを見る。


「伊勢では怪我しても治してあげませんよ」

「それ職務放棄やろ!」


 周囲から笑いが漏れた。


 これから日本でも前例のない異常ダンジョンへ向かうというのに、不思議と重苦しさは少しだけ薄れた。


 強い人達だ。


 今まで全国を回って、それを何度も見てきた。


 空さんも、海さんも、獅子堂さんも、白峰さんも、神崎さんも。

 VIVIDだって、以前よりずっと強くなっている。


 俺がやることは一つだけ。

 この人達が道を作ってくれるなら、その先にあるものを『清掃』する。


 それで終わればいい。

 ただ、今日感じたあの感覚だけが、まだ頭から離れなかった。


 全国のダンジョンへ、どこかから流れ込んでいた魔素。


 そして、その直後に発生した伊勢の超大規模異常。


 伊勢へ行けば何か分かる。

 そんな気がしていた。


「田中さん、行きましょうか」


 白峰さんに声をかけられる。


「はい」


 俺も皆と一緒に会議室を出た。


 日本中で起きていた異常を終わらせるための、最後の仕事が始まろうとしていた。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。