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78話 清掃おじさん、S級魔法使いの強さを知る

長くなったので2話に分けました。

本日は2話更新です。

 翌朝。

 俺は白峰さんと共に、札幌第一ダンジョンの入口に立っていた。


「昨日はご馳走様でした。本当に美味しかったです」

「いえいえ。喜んでもらえて良かったですよ」

「帰るまでにもう一回くらい海鮮食べたいですね」

「昨日、移住まで考えてたじゃないですか」

「それはそれ、これはこれです」


 そんな話をしながら装備を確認する。


 今回の目的は、札幌第一ダンジョンで発生している異常の原因を『清掃』すること。


 北海道まで来てもやること自体は変わらない。

 違うのは、一緒に潜る人間だ。


 白峰冬馬。41歳。

 日本に五人しかいないS級探索者の一人にして、世界で唯一のS級魔法使い。

 昨日は美味い海鮮をご馳走してくれる気のいい同い年のイケオジだったが、今日は仕事中の白峰さんを見ることになる。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


 白峰さんと並び、ダンジョンへ入った。


◆


 札幌第一ダンジョンの異常が確認されているのは、地下34階層。

 

 東京や大阪と同じく、異常発生後は周辺階層が封鎖されている。


 それでもモンスターはいなくならない。

 地下31階層へ入ってしばらくすると、前方の通路から複数のモンスターが現れた。


 四足歩行の大型種。

 見た目は狼に近いが、一体一体が大型犬どころか牛くらいの大きさがある。


「白峰さん、来ましたよ」

「ええ。下がっていてください」


 白峰さんが胸元へ手を伸ばした。


 取り出したのは、胸ポケットに収まるほどの小さな棒だった。

 それを軽く振る。

 カチッ、と音を立てて棒が伸び、細身の杖へ変わった。


「それが杖ですか?」

「そうですよ。長いままだと邪魔なので、普段は縮めてます」

「便利ですね、それ」

「大きくて太い杖が好みな人も居るんですけど、僕はこのくらいのが性に合ってます」


 そんな会話をしている間にも、モンスターは迫っている。


 余裕だなぁ。

 俺がそう思った直後、白峰さんが杖を軽く前へ向けた。


 杖の先に水が現れた。


 魔法陣もない。詠唱もない。

 前触れすらなかった。


 大量の水が一瞬で細く収束し、凄まじい勢いで通路を走り抜ける。


 先頭を走っていたモンスターの身体が真っ二つになった。

 その後ろにいた二体も同時に切断される。


「⋯⋯え?」


 思わず変な声が出た。


 残ったモンスターが左右へ散った。

 

 その動きに合わせて白峰さんの杖先がわずかに動くと、今度は床から何本もの水柱が噴き上がった。

 一体を宙へ弾き飛ばし、そのまま水が胴体を包む。


 次の瞬間には、モンスターの身体が潰れる。

 最後の一体が白峰さんへ飛びかかったが、その前方に水の壁が生まれた。


 巨体がぶつかっても、水の壁は崩れない。まるでゼリーのように、ぷるんと揺れて衝撃を分散させる。

 次の瞬間には壁から伸びた水触手がモンスターの四肢へ絡みつき、そのまま床へ叩きつけた。


 白峰さんが杖を少し動かす。

 首元へ水の刃が走り、それで終わった。十秒も経っていない。


「⋯⋯めちゃくちゃ強いですね」

「あはは。まぁ、一応S級ですからね」


 知っている。

 知っていたけど。


 昨日、一緒に蟹を食べながら笑っていた人と同一人物とは思えない。


「今のって全部違う魔法ですよね?」

「基本は全部水ですよ。形とか圧力とか速度とか、後は硬度とかを変えているだけです」

「だけって⋯⋯」


 俺にはその違いがよく分からないが、水で生き物を真っ二つにしたり、押し潰したり、壁にしたりするのを「だけ」で済ませていいのだろうか。


 白峰さんは何事もなかったように杖を縮め、胸ポケットへ戻した。


「行きましょうか」

「もう仕舞うんですか?」

「必要になったら出しますよ」


 その必要になったら、という判断が恐ろしく速いのだろう。

 昨日、白峰さんは新しい魔法の使い方を思いつくと試したくなると言っていた。


 長い年月をかけて、ずっと魔法を磨いてきた。

 今の戦いを見て、少しだけその意味が分かった気がした。


◆


 さらに下へ進む。


 階層を下りるほど、モンスターの数が増えていった。

 それでも足が止まることはなかった。

 

 白峰さんの魔法は、とにかく速い。


 モンスターを発見してから魔法を使うのではなく、見つけた時にはもう発動しているようにすら見える。

 複数の敵が相手なら広範囲を水で薙ぎ払い、硬い外殻を持つ相手には一点へ集中させた水流で貫く。


 飛行するモンスターが現れれば、細かく分裂した水弾が一斉に撃ち抜いた。


 しかも攻撃だけじゃない。


「田中さん」

「え?」


 言われた瞬間、身体がふわりと前へ押された。


 足元を流れる水が俺の動きに合わせて身体を運んでいる。不思議と靴やズボンの裾が濡れることは無い。


「おおっ!?何ですかこれ!」

「歩くより楽でしょう?」

「こんなことも出来るんですか?」

「水さえ出せれば、後は使い方次第ですよ」


 確かに楽だ。

 坂道を登っているのに、ほとんど力がいらない。


 便利すぎる。

 途中、天井から突然モンスターが落ちてきた時には、俺が反応するより先に水の膜が身体を覆った。


 爪が水の膜へ食い込み、そのまま止まる。

 直後、横から飛んできた水の塊にモンスターが吹き飛ばされた。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。というか、今のも魔法なんですよね?」

「防御も僕の仕事ですから」

「攻撃も防御も支援も出来るんですか」

「回復も出来ますよ」

「何でもありじゃないですか」

「水魔法は応用が利くんですよ」


 応用という言葉で片付けているが、多分これ、白峰さんだから出来るんだろう。


 前を歩く白峰さんを見ながら、改めて思う。


 この人は強い。

 単純な威力だけなら、獅子堂さんの『倍々』の方が派手に見えるかもしれない。


 空さんの『爆破』も、海さんの『交換』も強烈だった。

 だが、白峰さんには穴がない。


 攻撃、防御、回復、支援。

 距離を問わず、一人でほとんど何でも出来る。


 しかも、判断から発動までが異常なほど速い。


 世界で唯一のS級魔法使い。

 その肩書きは伊達ではなかった。


「⋯⋯凄いな」

「何か言いました?」

「いや、白峰さんが味方で良かったなと思って」

「それは僕も同じですよ」


 白峰さんが笑う。


「田中さんがいなかったら、いくら僕でも今回の異常はどうにも出来ませんから」

「俺は掃除するだけですけどね」

「それを出来る人が他にいないんでしょう?」

「⋯⋯まあ、そうなんですけど」

「なら十分ですよ」


 さらっと言って、白峰さんはまた前を向いた。


 こういうところまで格好いい。

 同い年なのに何なんだ、この差は。

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@MokaSufure

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