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7話 清掃おじさん、測定不能

 時系列は1話の後。

 ⋯⋯え?1話?⋯⋯細かいことは気にしないでくれ。


「『清掃』」


 スキルを発動すると、辺り一面に転がっていたオーガの死体が次々と消えていく。

 血溜まりも、飛び散った臓物も、ついでに戦闘で散らばった瓦礫なんかも綺麗に消しておく。


 うん。綺麗になった。

 やっぱり戦闘よりこっちの方が落ち着くなぁ⋯⋯。


『戦闘より清掃の方が手慣れてて草』

『本職始まった』

『オーガ24体倒した直後とは思えん』

『清掃おじ、戦闘終わった途端イキイキしてるじゃん』

『清掃おじ”さん”な?』

『派閥争い始まってて草』

『清掃おじさん派です』

『俺は田中さん派』


「よし⋯⋯」


 最後に床を確認する。

 特に問題なし。


 仕事ならここから他の班員に細かい部分を確認してもらうところだが、今日は探索者として来ているのでこれくらいで良いだろう。


 ⋯⋯探索者として?

 いや、違う違う。俺は清掃員だ。


「田中さん!!」

「うおっ!?」


 突然後ろから声をかけられ、肩が跳ねる。

 振り返ると、水野さんが物凄い勢いでこっちへ向かってきていた。


「やっぱりヤバいよ田中さん!!」

「ち、近い近い!」

「なんで!?なんでオーガ・ロードまで一撃なの!?」

「いや⋯⋯。あれは偶然ですよ。オーガ・マジシャン狙って斧投げたら、たまたま首に当たっただけで⋯⋯」

「その斧、何キロあると思ってるの!?」

「⋯⋯分からないです」

「250キロオーバーだよ!あんな、石拾って投げるみたいに投げる人居ないよ!!」

「へー⋯⋯」

「へー⋯⋯。じゃない!!」


 怒られてしまった。

 でも、250キロと言われてもなぁ⋯⋯。

 確かに普通の斧よりは重かったけど、そこまで重いとは思わなかった。


「田中さん」


 今度は黒川さんがやって来る。


「ちょっと確認してもいいですか?」

「はい」

「さっきの戦闘、本気でした?」

「⋯⋯本気?」

「力を抑えたりしました?」

「いやいや!そんな余裕ないですよ!ずっとガムシャラでした!」


 何を言っているんだ。

 こっちはオーガ相手に必死だったんだぞ。普通に怖くてチビるかと思ったわ。


「じゃあ、本気で殴ってあれですか」

「そうですね。かなり力いっぱい殴りました」

「なるほど⋯⋯」


 黒川さんが何やら考え込む。


「玲奈さん、どうしたの?」

「いや⋯⋯」


 黒川さんは少し考えてから、俺を見る。


「田中さん。さっきオーガを殴った時、地面に亀裂が入ったの気付きました?」

「え?」


 言われて足元を見る。


 ——確かに、最初のオーガを殴った場所。

 俺が地面を蹴ったところを中心に、蜘蛛の巣のような亀裂が走っている。


「⋯⋯えーっと⋯⋯。あれって、俺がやったんですか?」

「他に誰がいるんですか」

「いやぁ⋯⋯」


 知らんよ。戦うので精一杯だったし。


「ダンジョンの壁や床って、普通の建造物より遥かに頑丈なんですよ」

「それは知ってます」

「私でも本気で殴って、ちょっと欠けるくらいです」

「⋯⋯そうなんですか?」

「はい」


 黒川さんがしゃがみ、亀裂へ触れる。


「これ、踏み込んだだけですよね?」

「多分⋯⋯」

「⋯⋯やっぱりおかしいですね」

「また異常者扱いされてる⋯⋯」

「あ、悪い意味じゃないですよ」

「良い意味の異常者って何ですか⋯⋯」


 黒川さんが少し笑う。この人、結構ズバズバ言うなぁ。


「ねえねえ、田中さん」

「はい?」


 今度は小宮川さんだ。


「本当に昔F級だったの?」

「本当ですよ」

「じゃあ、魔素量ってどれくらいだった?」

「魔素量?」

「うん」


 懐かしい言葉だ。


 魔素量。その名の通り、人間の体内に存在する魔素の総量を数値化したものだ。

 身体能力やスキルの出力にも大きく影響するため、探索者にとっては非常に重要な数値である。

 探索者はモンスターを倒すことでモンスターの魔素を吸い込み、己に蓄積していく。結果として高等級の探索者は魔素量が膨大になり、故に人外級の身体能力とスキル出力を誇る。


「最後に測ったの19年前ですよ?」

「それでもいいよ」

「確か⋯⋯」


 記憶を辿る。


 ——探索者をしていた頃は何度も測定した。

 強くなりたくて、少しでも数字が上がっていないか期待しながら測ったものだ。


「5⋯⋯くらいだったかなぁ」

「5!?」


 水野さんが驚く。


「それは本当にF級じゃん!」

「だからずっと言ってるでしょ⋯⋯」

「じゃあ絶対増えてるよ!」

「そうなんですかね?」

「増えてなかったら怖いよ!」


 それもそうか。


 昔の俺の魔素量でドラゴンを殴り飛ばせるなら、世の中の探索者はもっと凄いことになっている。


「測ってみます?」


 橘さんが言った。


「今ここで?」

「簡易測定器なら持ってますよ」

「あ、私もある!」


 水野さんが腰のポーチから小さな機械を取り出した。


 仕事で使っている簡易魔素計測器——清掃の必要性を判断するための道具——とは違い、人間の魔素量を測定する探索者用の物らしい。


「これ、手を置くだけだから!」

「へぇ⋯⋯」


 水野さんから測定器を受け取る。


「ちなみに、皆さんどれくらいなんですか?」

「私は150!」

「150!?」


 思わず声が大きくなった。


「水野さん、そんなにあるんですか!?」

「えへへ。凄いでしょ」


 ちょっと得意げだ。


「玲奈さんと由香里さんが90くらいで、美月さんが80くらいですね」


 橘さんが教えてくれる。


「はぁー⋯⋯。やっぱり上位探索者って凄いんですね」

「いやいや、今は田中さんの話だから!」


 そうだった。


「ちなみに一般人だと?」

「大体1から5くらいかな。70超えたら相当才能ある方。100超えたらトップクラス。130超える人なんて滅多にいないよ」

「なるほど⋯⋯」


 俺が昔5だったのも納得だ。

 一般人とほぼ変わらない。

 そりゃ探索者として大成しないわけだ。


「じゃあ、やってみますか」

「うん!」


 測定器を握る。

 中央にある測定ボタンを押した。


 数秒待つと——ピピッ、と音が鳴った。


「どうです?」

「⋯⋯あれ?」


 水野さんが首を傾げる。


「どうしました?」

「エラー出た」

「壊れてるんじゃないですか?」

「昨日使ったばっかりなんだけど⋯⋯」


『清掃おじ機械破壊www』

『測定不能?』

『やっぱ魔素量は普通なんじゃね?』

『いやエラーって何だよ』

『機械「こんなの知らない」』

『清掃スキルで測定結果まで消した説』


「もう一回!」

「はいはい」


 再び測定する。しかし——。


「⋯⋯またエラー」

「やっぱり壊れてるんじゃ?」

「じゃあ私の使います?」


 橘さんが別の測定器を取り出した。


 それを受け取り、測定。⋯⋯やはり結果は変わらず——。


「⋯⋯エラーですね」

「ほら」

「いや、二個連続で壊れてる方がおかしいでしょ!」


 水野さんが騒いでいる。

 そんなこと言われても⋯⋯。


「測定上限っていくつ?」


 黒川さんが聞く。


「これ?」


 水野さんが自分の測定器を見る。


「500」

「⋯⋯じゃあ、それ以上なんじゃない?」

「え?」


 一瞬、全員が黙った。


「いやいや」


 俺は笑う。


「流石にそれは無いでしょう」


 一般人が1から5。才能がある探索者で70。100を超えればトップクラス。

 あの水野さんですら150。⋯⋯それなのに俺が500以上?元5のオッサンが?そんな馬鹿な⋯⋯。


「でも⋯⋯」


 水野さんが俺を見る。


「ドラゴン、ワンパンしたんだよね」

「⋯⋯しましたね」

「玲奈さん」

「うん。可能性はあると思う」

「マジで?」


 俺だけが話についていけない。


『500超え!?』

『嘘だろ!?』

『いやでもドラゴンワンパンだぞ』

『水野夏希が150だろ?』

『三倍以上ってこと?』

『清掃おじ何者だよ』

『協会行け!ちゃんと測れ!』

『これ歴史変わるぞ』


 コメント欄まで騒ぎ始める。


「田中さん!」

「はい」

「探索者協会行こう!」

「今から?」

「今から!」

「いや、まだ探索の途中じゃ⋯⋯」

「そんな場合じゃないよ!」


 水野さんが俺の腕を掴む。


「協会本部なら業務用の大型測定器があるから!あれなら確か1万まで測れる!」

「い、1万⋯⋯」

「行こう!」

「いやいや、ちょっと待ってください。せっかくここまで来たんだし——」

「待てない!」


 その後、結局探索は予定より大幅に早く切り上げることになった。



「⋯⋯なんでこんなに人いるんですか?」


 福岡県探索者協会の本部、その測定室。

 俺の周りには、水野さん達VIVIDの四人だけではなく、探索者協会の職員が何人も集まっていた。


 何故か偉そうな人までいる。


「配信見てたらしいよ」

「仕事してくださいよ⋯⋯」

「田中さんみたいなイレギュラー、自分の管轄区域に居るならその観察は仕事になるんじゃない?」

「や、やめてー⋯⋯」


 俺の前には、大型の魔素測定器が置かれている。

 探索者資格を取った19年前にも使ったことがある。


 ただし、当時より随分新しくなっていた。


「田中さん。こちらへ手を置いてください」

「はい」


 職員さんに言われた通り、測定器へ手を置く。


「力を抜いてくださいね」

「はい」


 機械が動き始める。

 それから数秒——表示部分に数字が現れた。


『8192』


「⋯⋯⋯⋯」


 誰も喋らない。


 俺は数字を見る。もう一度見る。⋯⋯やっぱり変わらない。


「⋯⋯8192?」


 最初に口を開いたのは俺だった。


「これって⋯⋯故障ですか⋯⋯?」

「⋯⋯⋯⋯」


 誰も答えてくれない。


「水野さん?」

「⋯⋯⋯」

「黒川さん?」

「⋯⋯いや」


 測定結果を見た後、測定器を隅々まで見ていた職員さんが代わりに答えた。


「故障⋯⋯してませんね⋯⋯」

「⋯⋯ま、マジですか⋯⋯」


 水野さんが、ゆっくり俺を見る。

 その顔は、ドラゴンを殴り飛ばした時以上に引きつっていた。


「田中さん」

「はい」

「世界最高記録⋯⋯1000ちょっとだよ」

「⋯⋯う、嘘だろ⋯⋯」


 俺はもう一度、測定器を見る。


『8192』


「⋯⋯やっぱり、壊れてるんじゃないですか?」


 その日、世界の人間含有魔素量ランキングが大きく更新された。

 トップに君臨した男の名前は『田中和彦』。


 その日、『清掃おじさん』は再びトレンド一位となった。

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@MokaSufure

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