63話 清掃おじさん、サプライズ報告を受ける
そんなこんなでファン対応(?)を済ませ、タクシーを拾って福岡県探協へ向かった。
戻ったら一度顔を出すように言われていたからだ。
受付を済ませて中へ入る。
案内された先へ向かっている途中、見慣れた声が聞こえてきた。
「あっ、田中さーん!」
水野さんがこちらへ駆け寄ってきた。
その後ろには黒川さん、小宮川さん、橘さんもいる。
「お帰りー!」
「ただいま戻りました」
「東京とか大阪とか行ってたんでしょ?ニュース見たよ!」
「お疲れ様でした、田中さん」
黒川さんが笑う。
「ありがとうございます。皆さんも元気そうで良かったです」
「数日しか経ってないですよ?」
橘さんが可笑しそうに笑った。
「いや、それはそうなんですけど⋯⋯なんか凄く久しぶりな感じがして」
「田中さん、濃い数日過ごしすぎたんじゃない?」
小宮川さんが笑う。
「それは否定できませんね⋯⋯」
東京へ出る前に会ったばかりなのに、こうして四人の顔を見るとやっぱり落ち着く。
「ところで田中さん」
水野さんがニヤニヤしながら俺を見る。
「何です?」
「なんか気づかない?」
「気づく?」
四人を見る。
特に何も変わっていないように見える。
「⋯⋯えー⋯⋯っと。⋯⋯髪、切りました?」
「違う!」
「じゃあ何です?」
「玲奈さんと、美月さんと、由香里さん!」
水野さんが三人を順番に指差した。
「三人ともA級になったの!」
「⋯⋯え?」
思わず三人を見る。
「本当ですか!?」
「はい」
黒川さんが少し嬉しそうに頷いた。
「田中さんが東京へ行っている間に、正式に昇格しました」
「おお⋯⋯!」
聞いてみると、ベヒーモスの莫大な魔素を吸収し、以前より強くなっていたらしい。
しかし、A級に上がったのか⋯⋯。凄いな⋯⋯。
「凄いじゃないですか!おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
VIVIDの皆さんをお祝いしていると、今度は奥から男性の声がした。
「田中さん」
聞き覚えのある声だった。
「神崎さん!」
神崎さんがこちらへ歩いてくる。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです!」
「東京、大阪での話は聞いています。随分と色々あったようですね」
「俺は清掃してただけなんですけどね⋯⋯。周りのS級の人達が濃すぎるんですよ」
「ははは⋯⋯」
「邪魔するで」
後ろから獅子堂さんの声がした。
俺の横へ出てくる。
さっきまでとは明らかに目が違った。
「神崎修司——やんな?」
神崎さんも獅子堂さんを見る。
「獅子堂剛毅さんですね。初めまして」
「おう。初めましてやな」
二人が握手を交わす。
「福岡の孤高の王、前から一回会ってみたかったんや」
「日本最強と呼ばれている方にそう言っていただけるとは、光栄ですね」
神崎さんの眉がピクリと動いた。心做しか、先ほどよりも力強く握っている気がする。
「俺、おっちゃんにアンタの話聞いとったんよ。戦い方教えてもろたって」
「何度か手合わせしただけですよ」
「十分や。あのおっちゃんに戦い方教えられる奴なんて、そうおらんやろ」
「俺そんな扱いなんですか⋯⋯」
話を聞いているだけなら普通の初対面だった。
しかし、獅子堂さんの笑顔がどんどん楽しそうになっている。⋯⋯やっぱり嫌な予感がする。
「そういえば田中さん」
黒川さんが声をかけてきた。
「もう一つ、知らないことがありますよ」
「まだあるんですか?」
「神崎さんもです」
「神崎さん?」
何のことだろう。
俺が神崎さんを見ると、本人が静かに口を開いた。
「ははは。⋯⋯実は、S級へ昇格しました」
「⋯⋯はい?」
一瞬、意味が分からなかった。
「S級⋯⋯?」
「はい」
「神崎さんが⋯⋯?」
「そうです」
「ええっ!?」
思わず大きな声が出た。
「マジですか!?」
「マジです」
神崎さんが苦笑する。
「ベヒーモス戦後の変化もありまして。先日、正式にS級昇格が決まりました」
「すっ⋯⋯すっご⋯⋯!」
日本に四人しかいなかったS級探索者。
そこへ、神崎さんが加わった。
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
俺は思わず神崎さんと握手する。
自分がS級になったわけでもないのに、自分事のように嬉しかった。
俺が探索者だった頃から考えれば、S級なんて雲の上の存在だ。
そのS級へ、自分に戦い方を教えてくれた人が到達したのだから。
「やっぱりなぁ」
横から獅子堂さんの声がした。
「何がです?」
「さっき見た時から、前に聞いとった印象とちょっと違うと思ったんや」
獅子堂さんが神崎さんを見ている。
「S級なったんか。おもろいなぁ」
「⋯⋯⋯⋯獅子堂さん」
「なんや?」
「念のため聞きますけど、何考えてます?」
「わはは!そら決まっとるやろ!」
獅子堂さんが神崎さんへ顔を向けた。
「神崎はん。一回、手合わせせえへん?」
「ほら!」
やっぱり!——だが、神崎さんは驚かなかった。
少しだけ獅子堂さんを見たあと、静かに頷く。
「構いませんよ」
「神崎さん!?」
「以前から、獅子堂さんとは一度戦ってみたいと思っていました」
マジか⋯⋯!神崎さんと獅子堂さんの模擬戦!?
「よっしゃ!」
獅子堂さんが嬉しそうに拳を握った。
どうやら止められる人はいないらしい。
誰か、この人を本気で止めれる人はいませんか⋯⋯。
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