62話 清掃おじさん、福岡に帰る
大阪の異常魔素を清掃した翌日。
俺は朝から、新大阪駅の新幹線ホームに立っていた。
「いやぁ、昨日はおもろかったなぁ!」
「俺は疲れましたけどね⋯⋯」
「なんでや!ギガント・ゴーレム倒して、異常魔素も消して、大成功やん!」
「途中からあなたを背負ってたからですよ!」
隣では獅子堂さんが朝から元気いっぱいだった。
昨日、四重の反動で一時間まったく動けなくなった男とは思えない。
時間さえ経てば何事もなかったように復活する辺り、便利なのか不便なのかよく分からない能力だ。
これから向かうのは広島。
東京、大阪と二ヶ所の異常魔素を清掃し、次の対象に広島が選ばれた。
昨日から一緒だった獅子堂さんも、そのまま同行することになっている。
「おっちゃん、駅弁食う?」
「ホテルで朝飯食べたんで要らないです」
「二個買うてきたで」
「何で俺が食べる前提なんですか!」
「食わへんのやったら俺が二個食うから問題ないやろ!」
「最初から自分で食べる気だったんじゃ⋯⋯」
俺が呆れている横で、獅子堂さんは本当に二個とも食べ始めた。
朝から元気だな、この人⋯⋯。
広島での仕事は、大阪と比べれば驚くほど順調だった。
現地の探協から説明を受けたあと、獅子堂さんと数名の探索者、それから俺でダンジョンへ入る。
途中で何度かモンスターと遭遇したが、獅子堂さんがほとんど一人で片付けてしまった。
「おっちゃん!こっち終わったで!」
「はいはい、今片付けますよ」
「⋯⋯なんや反応薄ない?」
「昨日ギガント・ゴーレムを見せられたばかりなんですよ。普通のモンスターを殴り飛ばしたくらいじゃ、もう驚けませんって」
「慣れるん早すぎるやろ!」
倒されたモンスターを『清掃』し、そのまま奥へ進んでいく。
今回確認されている異常魔素も、これまでの東京や大阪とよく似ていた。
発生源まで辿り着き、同行している探索者達には十分に距離を取ってもらう。
「『清掃』」
黒ずんだ異常魔素を消していく。
奥から流れ込んでくる感覚も、これまでと同じだった。
東京、大阪と経験したこともあって、こちらも多少は慣れている。
流れ込んでくる魔素を順番に消しながら、さらに奥へ『清掃』を広げていく。
何度か強く押し返されるような感覚はあったものの、大して問題はない。
「『清掃』!」
最後に大きく力を込めると、纏わりついていた嫌な感覚が一気に薄れた。
少し待ってみるが、再び増える様子はない。
「⋯⋯大丈夫そうですね」
「終わったんか?」
「はい」
探協へ連絡を入れ、しばらく待つ。
やがて異常魔素反応がほぼ消失したと連絡が入り、広島での作業も終了となった。
これで三ヶ所目。
東京、大阪、広島が終了した。
「今日はS級出えへんかったなぁ」
「出てたまるか!」
「ちょっと期待してたんやけどなぁ」
「昨日ので満足してくださいよ⋯⋯」
S級モンスターが出なかったことを残念がる人なんて、たぶん日本中探してもこの人くらいだ。
広島での作業を終えたあと、次の現場——沖縄——へ向かう前に、一度福岡へ戻るよう連絡が入った。
全国を回り始めてからまだ数日しか経っていないが、東京、大阪、広島と移動し続けていたので、正直ありがたい。
「じゃあ俺、一度福岡へ戻ります」
「ほな俺も行くわ」
「⋯⋯何でですか?」
広島駅へ向かう途中、獅子堂さんが当然のように言った。
「暇やし」
「大阪帰らなくていいんですか?会社あるでしょう」
「電話あったら仕事できるし、優秀な奴らに任せとけば大丈夫や!」
「社長がそれでいいのかな⋯⋯」
「それにな——」
獅子堂さんが楽しそうに笑う。
「福岡には神崎修司がおるやろ?」
「神崎さんですか?」
「あぁ」
俺が聞き返すと、逆に不思議そうな顔をされた。
「福岡の孤高の王やろ。ソロ討伐記録の保持者やし、日本で探索者やっとって神崎修司に会いたくないやつなんかおらんやろ」
「ああ⋯⋯それもそうか」
俺にとってはすっかり、戦い方を教えてくれた師匠という印象が強くなっていた。
だが元々、神崎さんは福岡を代表する有名探索者だ。
「それに、前におっちゃんが神崎に戦い方教えてもろた言うとったやろ?」
「はい」
「元々一回会うてみたかったんや。ちょうどええわ」
笑顔が眩しい。
ただ、その目が明らかに戦う気の人の目をしていた。
「⋯⋯⋯⋯会うだけですよ?」
「分かっとるって!」
「絶対分かってないですよね⋯⋯」
結局、獅子堂さんまで俺と一緒に博多行きの新幹線へ乗ることになった。
博多駅へ到着してホームへ降りると、妙に安心した。
「帰ってきた⋯⋯!」
「数日しか経ってへんやん」
「そうなんですけど、色々ありすぎたんですよ」
東京で天城姉妹と戦い、獅子堂さんとも戦った。大阪へ行けばS級モンスターが出てきた。
普通に会社へ出勤してダンジョンを清掃していた頃が、随分前のことに感じる。
「え、あれ清掃おじさんじゃない!?」
「ホントだ!」
「横にいるの⋯⋯獅子堂剛毅!?」
博多駅前広場で伸びていると、数人が俺たちの存在に気がつく。
「おー!俺のファンか!」
「あいや、どっちかと言うと、清掃おじさんの⋯⋯」
獅子堂さんが豪快に声をかけに行くが、近くの男性は俺のファンらしい。⋯⋯嘘だろ。
「なんや、おっちゃんのファンかいな!おーい、おっちゃん!コイツおっちゃんと写真撮りたいらしいで!」
「え、えぇ⋯⋯」
いやでも、探協本部に買わせた高級スーツに身を包んでいる俺に気がつくくらいだ。マジでファンなのかも。⋯⋯信じられないけども。
獅子堂さんが声をかけた若い男性が俺の元に駆けてくる。
「あ、あの!握手と写真とサイン良いですか!」
「サインはちょっと⋯⋯無いので⋯⋯」
それだけ言うと、男性と握手をして写真を撮った。写真は獅子堂さんが撮ってくれたが⋯⋯S級探索者をカメラマンにして良かったのだろうか⋯⋯。
それからも、ちょくちょく気付かれて声をかけられた。
「おっちゃん、福岡のヒーローやなぁ!地元人気エグいやん!」
「まぁこの辺は県民性ですかね⋯⋯」
「大阪も似たようなもんやで!わはは!」
獅子堂さんにバシバシと背中を叩かれる。痛い⋯⋯。
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