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60話 最強関西人、S級ゴーレムと戦う②

「社長ぉぉぉ!!」


 獅子堂さんの部下達が動こうとする。


「来んな!」


 壁の破片を落としながら、獅子堂さんが立ち上がった。


 口元から僅かに血が流れている。

 ————それでも、笑っていた。


「ええなぁ。さすがS級や」

「社長、援護します!」

「アカン!」


 獅子堂さんが即座に止める。


「コイツは俺だけ見とるわけちゃう。お前らが入ってきたら、守りながら戦わなアカンようになる!」


 三人が言葉を詰まらせた。


 実際、その通りだった。


 ギガント・ゴーレムは巨体に似合わず、周囲をよく見ている。

 獅子堂さんと戦いながら俺達へ岩を飛ばし、地面を操って攻撃してくる。


 A級探索者が弱いわけじゃない。

 それでも、S級同士の戦いへ不用意に入れば、それだけで獅子堂さんの負担になる。


「おっちゃん連れて、もっと下がっとけ!」

「⋯⋯分かりました!」


 俺達はさらに距離を取った。

 獅子堂さんはそれを確認してから、ギガント・ゴーレムへ向き直る。


「ほな、続きや」


 再び戦闘が始まった。


 三重(トリプル)状態の獅子堂さんは、身体能力だけなら明らかにギガント・ゴーレムを上回っている。


 拳を振るわれても当たらない。

 岩柱も、一度仕組みが分かってしまえば地面の変化を見て避けている。


 飛んでくる岩塊は拳や蹴りで砕き、そのまま懐へ飛び込んで巨体を破壊していく。


 だが、倒せない。


 腕を壊しても再生する。

 脚を砕いても、周囲の岩盤を取り込んで繋ぎ直す。

 魔核を狙えば、攻撃が届く直前に別の場所へ逃げてしまう。


「社長!右胸です!」

「おう!」


 部下が魔素反応を追い、獅子堂さんが右胸へ拳を叩き込む。


「腹に移動しました!」

「洒落臭え!!」


 即座に獅子堂さんが腹部へ回る。

 だが、拳が届くより早く魔核が背中へ逃げる。


「背中です!」

「クソ、逃げ足だけは速いわ!」


 それでも獅子堂さんは笑っていたが、さっきまでとは少し違う。


 楽しんではいる。

 ただ、それ以上に相手を観察している。


 どうすれば倒せるのかを考えている顔だった。


 ギガント・ゴーレムの拳を避け、懐へ入りながら再び腹部を破壊する。


 黒い魔素が流れ、周囲の岩が集まり始める。

 その様子を見た獅子堂さんが、僅かに眉を寄せた。


「⋯⋯なるほどな」

「何か分かったんですか!?」

「コイツ、別に無限に再生しとるわけちゃう」


 獅子堂さんがギガント・ゴーレムから距離を取った。


「周りの岩を身体にして、魔核をその中で逃がしとるだけや。せやったら——」


 そこで一度、言葉を切る。

 獅子堂さんの口元が、また大きく吊り上がった。


「逃げる場所なくなるまで全部壊したらええ」

「いや、発想が脳筋すぎません!?」

「一番分かりやすいやろ!」


 否定できないのが腹立つ。

 ただ、三重(トリプル)のままでは難しい。


 いくら獅子堂さんが速くても、20メートルを超える巨体を破壊している間に、反対側では再構築が始まってしまう。


 魔核を追い詰めても、逃げられる場所が多すぎる。


 そして『倍々』には活動限界がある。

 獅子堂さん自身も、それを分かっているようだった。


「しゃあないな。三重(トリプル)のままやと時間足りへん」

「⋯⋯まさか」


 一昨日の嫌な記憶が蘇る。

 獅子堂さんが拳を握った。


「ここから一気に終わらせるで」


 ギガント・ゴーレムが両腕を振り上げる。

 同時に、獅子堂さんが笑った。


「『倍々』——四重(クアッド)」


 次の瞬間、獅子堂さんの姿が消えたように見えた。


「っ!」


 ギガント・ゴーレムの右脚が弾け飛ぶ。


 巨体が傾き始めるより早く、反対側の脚にも獅子堂さんの拳が突き刺さった。


 二本の脚を失ったギガント・ゴーレムが崩れ落ちる。

 だが、床から岩が集まり、新しい脚を作ろうとする。


「させへん!」


 集まり始めた岩石ごと、獅子堂さんの蹴りが粉砕した。


 ギガント・ゴーレムが腕を振るう。

 だが————当たらない。


 床から岩柱が突き出す。

 その時にはもう獅子堂さんは別の場所にいる。


 さっきまでS級モンスターとして猛威を振るっていた攻撃が、クアッド状態の獅子堂さんを一度も捉えられない。


「社長!魔核、胸です!」


 部下が叫ぶ。

 獅子堂さんの拳が胸部へ突き刺さった瞬間、高密度の魔素反応が左肩へ逃げる。


「左肩!」

「分かっとる!」


 返事をした時には、獅子堂さんは既にそこへ回り込んでいた。


 岩で覆われた肩が一撃で吹き飛ぶ。

 だが、その直前に魔核が脇腹へ逃れた。


「腹!」


 魔核がまた逃げる。

 しかし、今度は獅子堂さんの方が速かった。


 魔核が逃げ込んだ脇腹へ拳が突き刺さり、巨体の一部がまとめて砕け散る。

 魔核は必死に必死に獅子堂さんから逃げるが、ほぼ同じスピードで獅子堂さんの攻撃が入っていく。再構築しようと壁から岩が剥がれてくるが、それさえ身体へ届く前に粉砕されていく。


「す、すげぇ⋯⋯」


 A級探索者の一人が呟いた。


 さっきまでとはまるで違う。

 

 魔核を逃がす場所が、凄まじい勢いで消えていく。

 20メートルを超えていた巨体は既に半分近くまで崩され、それでも獅子堂さんは止まらない。


 これが『倍々』スキル——四重(クアッド)。素の状態で最強に近い獅子堂さんの身体能力が16倍になった状態。

 一昨日、俺を一方的にボコボコにした獅子堂剛毅の本気だ。


「社長!魔核が——」


 部下の声が途中で止まった。


「どうした!?」

「消えた⋯⋯いや、違う!下です!地面に移動してます!」


 残ったギガント・ゴーレムの身体から魔素反応が消え、床の奥へ潜っていく。


 魔核だけを岩盤へ逃がしたらしい。


「そんなのアリかよ!」


 俺が声を上げる。

 ギガント・ゴーレムの身体は既にほとんど崩れている。


 だが魔核さえ残っていれば、周囲にはいくらでも岩がある。

 また身体を一から作り直すつもりだ。


「社長!どんどん下に逃げてます!」

「なるほどな」


 獅子堂さんが初めて足を止めた。

 そして、床を見る。


「身体ん中に逃げ場なくなったから、今度は地面か」


 腰を落とし、右拳を大きく引く。


「⋯⋯まさか」


 何をするつもりなのか察した。


「獅子堂さん!ちょっと待って、それダンジョン大丈夫——」

「逃がすかい!!」


 俺が止めるより早く、獅子堂さんの拳が床へ叩き込まれた。


 凄まじい衝撃が足元を突き抜ける。


 床が大きく陥没し、蜘蛛の巣のような亀裂が周囲へ一気に広がった。


「うおおっ!?」


 俺達が踏ん張る中、獅子堂さんの拳を中心に岩盤が崩れていく。


 その亀裂は床の奥深くまで達し——。


「魔素反応、消失!」


 部下が叫んだ。

 同時に、残っていたギガント・ゴーレムの身体から力が抜けた。


 岩石同士を繋ぎ止めていた黒い魔素が消え、20メートルを超えていた巨体が、ただの大量の岩へと崩れていく。


 静かになった通路に、崩れた岩が転がる音だけが残った。

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