59話 最強関西人、S級ゴーレムと戦う①
「ギガント・ゴーレム⋯⋯!?」
「そんな⋯⋯!」
女性探索者が息を呑んだ。
「S級モンスターですよ!」
「え、S級⋯⋯!」
これまで日本で10件しか見られなかったS級モンスター。だというのに、こんなに早く11例目が出てくるとは⋯⋯!まだベヒーモスが出てから1週間くらいだぞ!
俺の身体にも自然と力が入った。
ギガント・ゴーレムが太い腕を持ち上げる。その動作だけで空気が押され、巨大な拳がこちらへ振り下ろされた。
「散れ!」
獅子堂さんの声で全員が動いた。
俺も横へ跳ぶ。
直後、拳が床へ叩きつけられた。
石造りの床が大きく砕け、破片が周囲へ飛び散る。
「うわっ!」
腕で顔を守りながら距離を取った。
洒落にならない。
まともに食らえば、A級探索者でも一発で終わるんじゃないか。
「社長!」
「お前ら、おっちゃん連れて下がっとけ!」
獅子堂さんが一人で前へ出る。
「いや、社長!相手S級ですよ!」
「分かっとる!」
「援護します!」
「いらん!巻き込まれる方が面倒や!」
獅子堂さんはそう言って、首を左右へ傾けた。
その口元には笑みが浮かんでいる。
————嫌な予感がする。
「獅子堂さん」
「なんや?」
「楽しそうですね⋯⋯」
「そらそうやろ」
獅子堂さんが拳を握った。
「S級モンスターやで?こんなん滅多に殴れへんやん!」
「やっぱりこの人おかしいですよ!」
「知ってます!」
部下から即答された。
ギガント・ゴーレムが再び動き出す。
巨大な腕が横薙ぎに振るわれた。
獅子堂さんは真正面から飛び込み、拳が届く直前で地面を強く蹴ると、腕の上へ飛び乗った。そのまま岩の表面を駆け上がり、肩を経由して頭部へ迫る。
「いきなり本気や、木偶の坊。『倍々』——三重!」
次の瞬間、ギガント・ゴーレムの頭部が大きく弾けた。
獅子堂さんの拳が岩石を粉砕し、砕けた破片が周囲へ降り注ぐ。
「すっご⋯⋯」
昨日まで何度も見たはずなのに、改めて驚いてしまう。
俺と戦った時は速すぎて、何をされているのか分からない場面も多かった。今回は離れた場所から見ているが、それでも目で追うのが難しい。
ギガント・ゴーレムが獅子堂さんを振り落とそうと暴れるが、その手が届く頃には別の場所へ移動している。
肩から背中へ回り込み、首の付け根へ蹴りを叩き込む。岩が大きく抉れ、そこへ続けて拳を打ち込むと、残っていた頭部まで吹き飛んだ。
「やった!?」
思わず声が出る。
頭が完全に無くなった。
普通の生物なら、どう考えても終わりだ。
だが——。
「いや、まだです!」
A級探索者の一人が叫んだ。
頭部を失ったギガント・ゴーレムの腕が動く。
「うおっ!?」
獅子堂さんが飛び退いた直後、巨大な手が自分の肩を叩き潰すように振り下ろされた。
さらに、砕け落ちたはずの岩が動き始める。
床に散らばっていた岩石だけではない。壁の一部まで剥がれ、ギガント・ゴーレムの身体へ吸い寄せられていく。
「⋯⋯何だ、あれ」
吹き飛ばされた首の上に岩が積み重なり、再び頭部を形作っていく。
「ダンジョンの床や壁を取り込んで再生してます!」
「そんなのアリかよ⋯⋯!?」
あの巨体と馬鹿みたいな頑丈さだけでも十分厄介なのに、壊しても周囲の岩を使って直るらしい。
ギガント・ゴーレムの頭部が元の形へ戻る。
「はっ!ええやん!」
それを見て、獅子堂さんはむしろ嬉しそうだった。
「壊しても直るんやったら、何回でも壊せるな!」
「そういう問題ですか!?」
再び獅子堂さんが踏み込む。
今度は胸部へ拳を叩き込み、分厚い岩石を一気に粉砕した。人間なら心臓がある辺りに大穴が開く。
しかし、やはり止まらない。
黒い魔素が岩の隙間を走り、壁から新たな岩石が剥がれて胸部へ集まっていく。
「頭でも胸でもない⋯⋯?」
俺が呟いた時、後ろにいた男性探索者が声を上げた。
「社長!そいつ、体内に超高濃度魔素反応があります!」
「あ?」
「かなり高密度です!多分、魔核がある!」
魔核。確か、ゴーレム系のモンスターが持つ動力源のようなもので、そこに魔素を溜め込むことで非生物であるゴーレムは動くことができるとかなんとか。言うなればバッテリーのようなものだ。
だが、男性探索者の表情は険しかった。
「位置が⋯⋯移動してます!さっきまで胸にあったのに、今は右の脇腹です!」
「魔核が動くんですか!?」
「みたいです!」
そんな話聞いたことがない。⋯⋯いや、S級なら有り得るのか?
獅子堂さんが即座に右脇腹へ回り込み、拳を叩き込む。
巨体の側面が大きく抉れた。
「逃げた!今度は左肩!」
「ちょこまかと!」
獅子堂さんが地面を蹴る。
左肩へ拳が届く直前、高密度の魔素反応が今度は腹部へ移った。
攻撃を受ける直前に、魔核そのものを体内で逃がしている。
しかも、獅子堂さんに一方的に殴られているだけではなかった。
ギガント・ゴーレムが両腕を大きく持ち上げる。
「社長!離れて!」
両拳が床へ叩きつけられた。
凄まじい衝撃で階層全体が揺れたかと思うと、獅子堂さんの足元から巨大な岩柱が突き出した。
「うおっ!」
獅子堂さんが身体を捻って避ける。
さらに二本、三本と岩柱が床を突き破り、逃げる獅子堂さんを追うように連続して隆起していった。
「地面まで操れるのか⋯⋯!」
ギガント・ゴーレムがこちらへ顔を向ける。
嫌な予感がした。
巨腕が壁へ突き刺さり、大量の岩を抉り取る。
「全員下がって!」
部下の声と同時に、岩塊がこちらへ飛んできた。
「うわっ!」
俺達は慌てて散る。
俺のすぐ横を、人間の身体より大きな岩が通過した。背後の壁へ激突して粉々になる。
あんなもの、まともに食らったら洒落にならない。
「おっちゃん狙うなや!」
獅子堂さんが一気に距離を詰め、ギガント・ゴーレムの横顔へ蹴りを叩き込む。
頭部の半分近くが吹き飛んだ。
それでも、ギガント・ゴーレムは残った腕を獅子堂さんへ振るう。
獅子堂さんは避けたが、その直後に床から岩柱が突き出した。
「っ!」
完全には避け切れなかった。
岩柱が脇腹を掠め、獅子堂さんの身体が空中へ跳ね上げられる。
そこへ巨大な拳が迫った。
獅子堂さんは両腕を交差させて受け止めたものの、凄まじい勢いで吹き飛ばされ、壁へ激突する。
「社長ぉぉぉ!!」
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