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58話 清掃おじさん、日本最強と潜る

 梅田第二ダンジョンへ入ってから、30分ほどが経った。


 俺は獅子堂さん達の後ろを歩きながら、何度目か分からない『清掃』を発動する。


「『清掃』」


 床に転がっていたモンスターの死体が消えていく。

 異常魔素の影響下では、死体を放置するとアンデッド化する危険がある。そのため今回も、倒したモンスターは俺が片っ端から清掃していた。


 東京と同じ仕事だ。

 違うのは、俺の前を歩いている探索者だった。


「獅子堂さん、また一人で行ってるんですけど⋯⋯」

「いつものことですよ」

「止めなくていいんですか?」

「止めても聞かないですからね」


 同行しているA級探索者の一人が、諦めたように答えた。

 少し先では、獅子堂さんが五体のオーガに囲まれている。


「おっちゃん!見ときや!」


 獅子堂さんが笑った。


「何をですか!」

「大阪来た記念や!今日は俺の格好ええとこ見せたるわ!」

「仕事してくださいよ!」

「しとるやろ!」


 言い返すと同時に、獅子堂さんがオーガへ飛び込んだ。


 正面から振り下ろされた棍棒を身体を傾けるだけで避け、その懐へ入ると腹へ拳を叩き込む。巨体が後方へ吹き飛び、別のオーガを巻き込んで壁へ激突した。


 左右から残りの三体が迫っていたが、獅子堂さんは振り返りもしない。


 一体目の腕を掴んで勢いを利用するように床へ叩きつけ、そのまま身体を沈めて二体目の攻撃をかわす。直後に蹴り上げられたオーガの顎が大きく跳ね上がり、最後の一体が拳を振るう頃には獅子堂さんは既にその横へ回り込んでいた。


 拳が脇腹へ突き刺さる。

 数秒後には、五体全てが動かなくなっていた。


「⋯⋯相変わらず凄いな」


 思わず呟く。


 能力は使っていない。それでも圧倒的だった。

 実際に殴り合ったからこそ余計によく分かる。獅子堂さんの強さは『倍々』だけじゃない。


 純粋に戦うのが上手すぎる。


「社長、張り切ってますね」

「田中さんが見てるからですよ」

「昨日からずっと自慢してましたからね」


 部下の三人が笑っている。


「聞こえとるぞ!」


 獅子堂さんが振り返った。


「別にええやろ!おっちゃんに大阪の探索者舐められたら困るからな!」

「舐めてませんよ。俺、あなたに殺されかけたんですから」

「せやったな!」

「笑い事じゃないんですって⋯⋯」

「まぁ俺も殺されかけたんやから、おあいこや!」

「おあいこ、て⋯⋯」


 俺は呆れながら倒されたオーガへ『清掃』を使う。

 ⋯⋯まぁ、味方として見る獅子堂剛毅は、とにかく頼もしかった。


 階層を下りるにつれて、出現するモンスターは明らかに強くなっていった。


 それでも獅子堂さんの勢いは止まらない。


 B級モンスターが現れれば、正面から殴り倒す。

 複数に囲まれても、位置取りを変えながら一体ずつ確実に潰していく。

 A級の大型モンスターが通路を塞いだ時でさえ、部下の三人が援護に入る前に獅子堂さんが仕留めてしまった。


「俺達、要ります?」


 A級の男性が真顔で言った。


「言わないでください。俺も同じこと考えてたんで」


 探索者ではない俺はともかく、A級探索者まで暇そうにしている。


「社長!少しくらいこっちにもやらせてくださいよ!」

「早い者勝ちや!」

「子供か!」


 上下関係がよく分からない会社だ。

 

 ただ、獅子堂さんも本当に何も考えず突っ込んでいるわけではなかった。


 俺達より常に少し前を歩き、モンスターが現れれば真っ先に接触する。その一方で、部下が死角から狙われればすぐに位置を変え、俺の方へモンスターが向かいそうになった時には必ず間へ入っていた。


 好き勝手暴れているように見えて、後ろにいる俺達の位置をずっと把握している。


 自分が一番危険な場所へ行くことで、他の人間を危険から遠ざけているのだ。

 会社で社員達に慕われていた理由が、少し分かった気がした。


「⋯⋯社長なんだなぁ」

「何や、おっちゃん?」

「いえ、何でもないです」

「なんやねん!」


 本人に言ったら調子に乗りそうなので黙っておいた。


 目的地である17階へ近づくにつれ、空気が変わっていった。


 肌にまとわりつく嫌な感覚が強くなっている。

 東京でも感じた、異常魔素特有の気持ち悪さだ。


「近いですね」


 俺が言うと、獅子堂さんも頷いた。


「原因があるんは17階やったな」

「探協の調査ではそうですね」


 16階へ下りた時には、部下の三人の表情も明らかに険しくなっていた。


「大丈夫ですか?」

「まだ問題ないです。ただ、長居はしたくないですね」


 A級探索者でも影響があるほどの異常魔素。

 東京で聞いた話と同じだ。あまり長居しない方が良いだろう。


「『清掃』」


 試しに、16階の高濃度残留魔素を清掃してみる。

 一時的に魔素が消えるが——すぐにどこからともなく魔素が充満してしまう。

 ⋯⋯やはり、大元を潰さない限りほとんど意味は無さそうだ。


「ほな、さっさと17階行って、おっちゃんに綺麗にしてもらおか」


 獅子堂さんが先頭を歩き出す。

 俺達も後を追った。


 その途中だった。


「⋯⋯待て」


 獅子堂さんが足を止めた。


 さっきまでの軽い雰囲気が消えている。

 部下の三人も即座に武器を構えた。


「どうしました?」

「なんか来るで」


 獅子堂さんが通路の奥を睨む。

 俺にはまだ何も見えない。

 

 しかし、少しして床が微かに揺れ始めた。


 一度ではない。

 一定の間隔で振動が伝わってくる。


 やがて通路の奥から巨大な影が姿を現した。


「⋯⋯何ですか、あれ」


 それは、人型だった。

 ただし、大きさがおかしい。


 20メートルを優に超える岩石の巨体が、天井ぎりぎりまで身体を屈めながらこちらへ向かってくる。

 全身を構成する岩は黒く変色し、その隙間から濃い魔素が漏れ出していた。


 同行していたA級探索者の顔色が変わる。


「ギガント・ゴーレム⋯⋯!?」

「そんな⋯⋯!」


 女性探索者が息を呑んだ。

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